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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第六十七話:影たちの決断【後編】

「二人の方が発見も早いだろう」


 さすがにこの言葉には私も驚いた。


「おい、エリオット。お前なにを考えて……」


 私が言いかけると、エリオットは首を横に振った。


「フォルカー、これは私は個人としての振る舞いで、タイドリア王国の公式な関与ではない。もし何かあれば、その時は、私の勝手ということで構わない」


 エリオットは、軽く笑った。だが、その灰色の瞳は真剣だった。

 そして、彼は少し声を落として続けた。


「それに――正直に言えば、いま起きていることは我が国にとっても看過できない。タイドリアから失踪した技術者たちが、敵の手に落ちている。その上彼らが持つ魔石技術の知識が、ゴーレム製造に利用されている可能性が高いのだ」


 エリオットの表情が、厳しくなった。


「この上ゴーレムが完成し、それを使って奴らが襲ってくるとすれば、被害を受けるのは、アウレリアだけではない。我が国も、この大陸全体も、危機に晒される。それは最悪の御伽噺だ」

「……」

「だが、いまのタイドリアの国内の状況を考えると、アウレリアと共同でことに当たるということは難しい。その結果は分かりだろう?」

「……各個撃破だな」


 エリオットが頷き話を続ける。


「だから、いまゴーレムの完成を阻止することは、我が国の利益にも適うことなのだ」


 私は、エリオットの言葉を聞いて、深く息を吐いた。


(私と同じか……)


 この男は、タイドリアという国家の利益を見据えながら、同時に自らの判断で動く才覚を持っている。そうした視点を持っている者はこの世界では稀だ。当然のことだが、王や貴族に仕える者の多くは、命令に従うだけだ。しかし、私が率いる(王の影)は違う。ただの諜報機関ではない。文字通りの(()の影)であり、ともすれば近視眼的になる王個人の判断を越えて、国を守るための視点を持っている。それが他の国の同種の任務を帯びている者とは違う。アウレリア王家の(王の影)は、建国以来、そうした特殊な立場を担っているのだ。

 だがどうやら、いま目の前にいる男も、我々の組織と同じような考えを持っているようだ。しかも、彼は私と違って、個人の立場でそれを行うことに躊躇がない。そういう男は敵に回すと非常に危険だ。しかし……。


「エリオット、お前は面白い男だ」


 私の言葉に彼は、左の眉を軽く上げることで応えた。


「分かった。イザベル、エリオットと共に行け。ただし――」


 私は、娘を真っ直ぐに見た。


「お前たち二人だけで救出は無理だ。まず、ルナリア嬢の居場所を確認し、こちらに知らせろ。私が増援を向かわせる」

「ですが、父上……」

「必ず増援に向かう。それまで、無理をせず待て」


 私は、強い口調で言った。


「七日という時間制限がある。焦る気持ちは分かる。だが、二人だけで敵の拠点に突入すれば、お前たちも、ルナリア嬢も、全員が死ぬことになる」


 イザベルは、唇を噛んだ。


「私も父上の意見に賛成だ。正直に言えば、無駄死に付き合う気はない」

「……分かりました。居場所を確認次第、父上に報告します」

「よし。私は王都に残り、陛下への報告と、王族の護衛を固める。そして、増援の準備も進める」


 私は、エリオットを見た。その視線は、(王の影)の長としてではなく――娘を案じる父親としてのものが混じっていたかもしれない。


「エリオット。頼む」


 エリオットは、僅かに表情を和らげ、静かに頷いた。


「……任せろ」


 その声には、一人の父親に対する約束が込められていた。

 私は、懐から小さな笛を取り出し、短く吹いた。程なくして路地裏の入口に、兵士の装いをした二人の人影が現れた。私の直属の部下――(王の影)の者たちだ。


「お前たち、イザベルに馬と武器、補給品を用意しろ。最速で。それと、もう一頭――こちらのエリオット殿の分も。私の客人だ」

「承知しました」


 二人が走り去るのを確認したエリオットが、自分の指輪に軽く触れた。すると、指輪から淡い光が放たれ、空中に立体的な地図が浮かび上がった。それは竜背丘陵の詳細な地形図だった。山々の起伏、洞窟の入口、内部の推定構造――全てが、光の線で描かれている。


「これが、竜背丘陵の詳細だ。洞窟の入口は複数あるが、最も可能性が高いのは、この北側の小さな裂け目だ」


 イザベルが、空中に浮かぶ地図を凝視している。私も、その光景を見て内心で驚いていた。


(以前ルナリア嬢も、似たようなことをやっていたが……これは、さらに小型で精密だ)


 ルナリア嬢の魔道具は、ある程度の大きさがあった。だが、エリオットの指輪は、それよりも小さく、しかも鮮明な映像を映し出している。


(タイドリアの魔石技術と術式は噂以上だな)


 魔力そのものは少ないが、その分、魔道具の技術は極めて高い。改めて、そのことを実感した。それに我々にこうして見せられるということは、彼らにとって隠すほどでもないということだ。

 イザベルと簡単な打ち合わせを終えると、エリオットが指輪に再び触れた。光が消え、地図も消えた。


「……了解しました。いまから竜背丘陵まで、全速力で駆ければ、明日の昼頃には着きますね」

「ああ。ただし、馬を潰す覚悟が必要だ」

「構いません」


 その時、先ほどの部下たちが戻ってきた。


「副団長殿、エリオット殿、馬と装備、ご用意できました」

「ご苦労」


 イザベルとエリオットは、路地裏の出口へ向かった。そこには、黒い毛並みの逞しい馬が二頭、繋がれている。鞍には、補給品の詰まった鞄が括りつけられていた。

 イザベルとエリオットは、馬に跨った。


「では、行ってきます」


 イザベルが、手綱を引こうとした時――


「イザベル」


 私は、最後にもう一度呼びかけた。


「七日以内に、どんな結果でも必ず北へ戻れ。それが約束だ」

「……はい」


 イザベルは、頷いた。


「必ず、戻ります」


 そして、二人は馬を駆った。

 夜の闇の中へ、二つの影が消えていく。

 私は、しばらく黙って、その後ろ姿を見送っていた。


(イザベル、エリオット……ルナリア嬢……どうか、無事で……)


 私は、踵を返した。

 王宮へ向かわねばならない。

 ヴァレリウス陛下への報告。

 リヴィア殿下とアレクシウス殿下の護衛強化。

 そして――増援の準備。

 やるべきことは、山ほどあった。


(第六十七話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。


予約をミスってしまいすみません! サイは投げられました。イザベルとエリオットは東へ、フォルカーは王城へと向かいます。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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