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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第六十四話:凶報と、絡み合う罠【後編】

「ならん。却下する」


 ヴァレリウス王のその返事には苦しさと共に、断固たる響きがあった。


「なっ……! 何故でございますか!」


 セレスが思わず声を荒げた。

 陛下は鋭い視線を彼女に向け、そして俺へと移した。


「状況を見誤るな。敵は、主力が不在のこの隙を狙って動き出したのだ。ルナリアの拉致は、始まりに過ぎぬかもしれぬ。奴らの真の狙いが何であれ、いま王都が危機に晒されているのは明白だ」

「……ッ!」

「そのような状況下で、王都に残された王の剣であるそなたたちを、雲を掴むような捜索任務に出すわけにはいかん。ライルよ、そなたの任務は、あくまで王都と、ここに残る王族の守護である。それはセレスティアも同様である」


 王の言葉は、痛いほどに正論だった。王の護衛たる者が、感情に流されて持ち場を離れることは許されない。それは分かっていたことではあった。だからといって、大事な友人であり、恩人の娘のことを問わずにはいられなかった。

 そこへ、フォルカーが静かに口を開いた。


「ライル殿。お気持ちは分かりますが、姿なき魔術師の痕跡を探し出すの容易ならざること。剣士の領分ではありません」


 (王の影)の長である彼は、淡々と言った。


「『星の巡りは剣では読めぬ。眼鏡を以て読むべし』という言葉もあります。……ルナリア殿の捜索は、我々(王の影)と、王宮魔術師団の信頼できる者に一任していただきたい。必ず見つけ出します」

「……ですが、私は……!」


 食い下がろうとするセレスを、俺は目で制した。俺にも悔しい気持ちはあるが、彼の言う通りだ。消えた痕跡を辿る術は俺たちにはなく、手がかりもなく闇雲に探しても意味がない。


「……承知いたしました。出過ぎたことを申し上げました。お詫び申し上げます」


 俺は深く頭を下げた。

 王命は絶対だ。それに、ここで俺が感情的になれば、王都の守りはさらに揺らぐことになる。


「ただ陛下、ひとつだけよろしいでしょうか」

「……なんだ申してみよ」


 俺は先程、ヴェルナーに言いかけたことを話した。


「……つまり、ここまでのことは敵の計画の通りだということか? フォルカー、お前はどう思う」


 ヴァレリウス王の問いにフォルカー殿が、自分の考えを整理するように、ゆっくりと答える。


「あり得ないことではないと思います。『深淵の盟約』なる者たちが全ての後ろにいるとすれば、筋が通ることが多いかと」


 そう言うと、彼は俺の方を向き直った。


「ライル殿の言う、その、『小さすぎる』というのはどういうことですか?」

「これはあくまでも私の感覚なのですが……。物事を動く時には、必ず動いた分だけの反動があるものです。今回の北伐でこの王都に空白を作ることが彼らの狙いだとしたら、ルナさんを攫うだけでは、その空白を埋めるには少し『小さすぎる』ように思えるのです」

「……つまり、まだ、なにか企んでいるということか?」

「確証はありません。ただ私の師匠は、『物事が動く時には、必ずその隙間を埋める力が働く』と言っていました。そして『相手を機嫌良く動かせば、動かすほど、隙間を埋めるのは簡単に効果的になる』と。そう考えると、王都の全軍に近い戦力が消えた隙間を埋めるには、まだ足りないのではないように思えるのです」


 俺の言葉にフォルカー殿が考え込む。灰色の瞳が何事かを考えているように小さく瞬いている。

 しかし、その答えが出る前にヴァレリウス王の声が謁見の間に響いた。


「ライルの懸念はもっともだ。しかし、いまこの場でできることもない。それを考えるのは後日のこととし、まずは警備の強化を怠るな。……二人とも、下がって少し休むがよい」


「いまひとつ、陛下。お疲れのことかと思います。宜しければ私に手当をさせていただけませんでしょうか?」


 ヴァレリウス王は、俺を見て少し微笑んだが。首を横に振った。


「ありがたい申し出だが、いまは時間がない。またの機会に頼む」


 王はそう疲れたように告げ、謁見を終わらせた。俺はその様子を心配しつつ退出した。


 ***


 重苦しい空気の謁見の間を出て、俺とセレスは無言で長い回廊を歩いた。コツコツと二人の足音だけが、静かな場内に時を刻むように響く。不意に先に進んでいたセレスが立ち止まった。

 彼女は俯き、小刻みに震えていた。


「セレスさん……」


 俺が声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。その瞳には大粒の涙が溜まっていたが、それがこぼれ落ちないよう、必死に耐えていた。


「ライル様……私、は……」


 声が震え、言葉にならないようだ。ルナを心配する気持ちと、何もできない自分への無力感。それが痛いほど伝わってくる。


「……大丈夫ですよ」


 俺は努めて穏やかに、彼女の肩に手を置いた。


「フォルカー殿の言葉は信頼するに足るものがあります。きっとルナさんを見つけ出してくれます。いまは、彼らを信じて、私たちは私たちのすべきことをしましょう」

「……はい。……申し訳ありません、取り乱してしまって」


 彼女は唇を噛み締め、僅かに微笑を浮かべた。その気丈な姿が、かえって痛々しかった。


「……少し、休んでください。朝になれば、また忙しくなります」


 俺はそう告げ、彼女を城外へと促し、自宅まで護衛を頼んで別れた。


 ***


 護衛をつけられた私は、逃げるようにして王城を後にし、誰もいないアークライト邸へと戻った。

 父上もルナもいない広い屋敷は、しんと静まり返っていた。

 自分の部屋に入り、扉を閉めた瞬間。

 張り詰めていた何かが、プツリと切れた。


「……うっ、くっ……ルナ……!」


 私はベッドに崩れ落ち、声を殺して泣いた。

 詰所でも、陛下の前でも、ライル様の前でも、必死に耐えていた涙が、止めどなく溢れ出した。

 怖い。悔しい。情けない。

 双子の妹が攫われたのに、私は何もできなかった。北伐から外され、王都でも役に立たず、ただ泣くことしかできない自分が許せなかった。

 ルナは、あんなに強かったのに。自慢の魔術を封じられても、最後まで諦めずに戦ったのに。

 私は、何をやっているの。


「……泣いてちゃ、だめ」


 私は涙を拭い、赤くなった目で鏡を睨みつけた。

 鏡の中の自分は、酷い顔をしていた。私は赤くなったその目を見て言った。


「ルナリア、あなたは騎士でしょう。父上やイザベル様がいないいま、私がしっかりしなきゃ……」


 ルナは必ず連れ戻す。ライル様も、フォルカー様もそう言った。

 なら、私がすべきことは、泣くことじゃない。


「……強く、なる。もう二度と、大切な人を失わないために」


 私は、誰もいない部屋で、一人、誓った。

 この涙は、これで最後にする、と。


 ***


 セレスを見送った後、俺は昂ぶる感情を静めるため、夜明け前の中庭に出た。足が向かったのは、いつも一人で稽古をする時に相手にする、庭で一番高い木だった。この木はこの城が建つ前からあったとされ、伝説のゴーレム災厄をも生き抜いた木として、アウレリア王家の始祖・ルキウスが残したものと伝わっている。太い幹は大人が三人でも抱えきれないほどの大樹で、高さは城壁を越えていた。

 見上げた空はまだ暗かった。

 強い風に風に木の葉がざわざわと音を立てて揺れた。俺はその木の下でいつものように立ったが、心は落ち着かなかった。


(……くそっ)


 闇の中に俺の罵りの言葉がとける。セレスには「心を留めるな」と言ったが、自分自身、それができているわけではなかった。

 ルナが連れ去られたという事実。それを知りながら、王命により動けない自分に苛立っていた。陛下の判断も、フォルカー殿の言葉も正しいと頭では理解していても、胸の奥で渦巻く焦燥感と無力感は消えない。

 それとは別に、山から下りて以来感じている違和感が自分の中で、日々大きくなっていた。ギデオン殿やセリア、ルナ、イザベル、アレクシウス、そして陛下。どこの誰だか分からない俺を、みな優しく迎えてくれている。しかし、その縁が俺に絡みつき、次第に俺の魂を不自由にしているのを感じていた。


「縁に良いも悪いもない」


 そう師匠は言った。その通りだ。優しい人たちの縁に甘えるうちに、災厄という縁に絡みとられる。人の世界というものは難しい。師匠が山を下りろといったのは、こういうことを俺に学ばせるためだったのだろうといまは思う。ただ、その理由は分からない。分かっているのは、いずれこの地を離れることと、少なくともそれはいまはではないということだ。縁が織りなすタペストリーの一糸は、すでに紡がれたのだ。何がそこに現れるのかは分からないが、いまは前に進むしかない。


 そう想った時、強い風が大樹の枝を揺らし、数枚の葉が舞い落ちてきた。

 その瞬間。俺の体が、思考よりも早く動いた。

 抜刀。

 闇の中で、銀色の刃が閃き、鞘に納める。

 舞い落ちてきた全ての葉が、綺麗に二つに断ち切られて地面に落ちた。


 さらに強い風が吹く。今度は前よりも多い無数の葉が散る。再び抜刀してこれを斬り、刀を納める。

 風が吹く、斬る、風が吹く、斬る。

 何度かこれを繰り返すうちに、夜が白み始めていた。

 俺はゆっくりと息を吐き、額に滲んだ汗を拭い空を見上げる。

 頭上にはまだ厚い雲が覆っている。それでも東の彼方に陽が昇るのを感じていた。

 明けない夜はない。しかし、夜が明ける前にこそ、闇は一層深くなる。

 その闇はまだ始まったばかりだ。


(第六十四話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。


いつもは冷静そうに見えるライルも、もちろん完璧ではありません。人生は良縁と悪縁が絡み合う、まさに「禍福かふくあざなえるなわごとし」です。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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