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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第六十三話:深淵からの招待状【後編】

 ***


「いいから走ってください! これはわたくしではなくイザベル様のご命令よ! わたくしのことは構わずに!」


 ルナリア殿の悲痛な叫びが、倉庫内に響き渡った。その声に振り返った俺に彼女は笑いかけると「目を閉じて」と言った。その瞬間、世界が白一色に染まった。真昼の太陽を直視したような強烈な閃光が、閉ざされた空間で炸裂したのだ。


「な、馬鹿な、この結界の中で魔法が使えるわけがない!」

「ぐああっ!? 目が、目があぁっ!」

「くそっ、何も見えない!」


 網膜を焼くような光に、敵のローブの男たちが悲鳴を上げて目を覆う。包囲網が一瞬にして崩壊し、混乱の渦に叩き込まれた。

 俺とヴェルナーは直前のルナリア殿の警告と、前回の作戦の時にもらった眩光防護の護符のおかげで、光の直撃を避けることができた。それでもまぶたの裏まで白く焼けるような感覚が残る。


「今だ、フリッツ! 走れ!」


 ヴェルナーが俺の腕を乱暴に掴み、扉の方角へと強引に引っ張った。


「ルナリア殿はどうする!? 置いていけるか!」


 ルナリア殿がいるはずの宙に目をやろうとするが、凄まじい光にとても目を開けていられない。


「馬鹿野郎! 彼女の覚悟を無駄にする気か! いまは命令に従え!」


 ヴェルナーの声は、いつもの飄々としたものではなく、怒りと焦燥に満ちていた。

 俺は奥歯を噛み締めて走り出した。ルナリア殿が作ってくれた、最初で最後のチャンスを無駄にはできない。

 俺たちは混乱する敵の間を縫うようにして駆け抜け、鉄扉の前へと到達した。そこには、結界の核の一つである魔法陣が、青白く発光していた。


「開けぇッ、この野郎ォォォッ!」


 俺は渾身の力を込め、メイスを魔法陣の中心に叩きつけた。


バキィィィン!


という硬質な破壊音と共に、魔法陣が砕け散る。空間を歪めていた力が霧散し、重厚な鉄扉がわずかに隙間を開けた。外の冷たい夜気が流れ込んでくる。


「開いたぞ! 急げ!」


 ヴェルナーが俺を先に押し出そうとする。だが、俺は足を止めた。どうしても、確認しなければならなかった。

 俺は振り返った。

 閃光が収まりかけ、薄暗い視界が戻りつつある倉庫の中央。

 そこに、信じられない光景があった。


「……が、はっ……」


 ルナリア殿が、床に崩れ落ちていた。

 大量の魔力を一度に放出した反動だろうか、彼女の体は小刻みに震え、呼吸も荒い。美しい銀髪は汗で頬に張り付き、気丈な金の瞳も焦点を失いかけていた。

 その彼女を見下ろすように、あの冷酷な女リーダーが立っていた。

 女は優雅な動作で屈み込むと、ルナリア殿の細い首に何かを押し当てた。


「あ……や、やめ……」


 ルナリア殿の口から、かすかな抵抗の声が漏れる。だが、すぐに彼女の体から力が抜けていくのが、遠目にもはっきりと分かった。体内に残っていたわずかな魔力すらも、根こそぎ吸い上げられていくのだろう。彼女の象徴である銀髪が、いまは光を失ったように灰色にくすんで見えた。


「フン、最後の悪あがきにしては上出来でしたわ。流石と言うべきでしょうね」


 女はそう言いながら、いまは魔石が砕け散った腕輪に触っていた。冷ややかな笑みを浮かべつつも、その声には驚きと脅威を見る響きが含まれていた。

 部下の一人が抵抗する力も完全に失ったルナリア殿の体を、まるで壊れた人形のように乱暴に抱え上げた。


「まあ、良いでしょう。本来の目的である『至高の素材』は無傷で手に入ったのですから。導師様もお待ち兼ねですわ。雑魚は要りませんね」


 そこで振り返った女の視線が、鉄扉の前に立つ俺と合った。灰色の瞳が、嘲るように細められる。


「ルナリア殿ォォォッ!」


 俺は喉が裂けんばかりに叫び、取って返そうとした。理屈じゃない。ここで彼女を見捨てたら、俺は一生自分を許せない。だが、強烈な力で首根っこを掴まれ、後ろへ引き倒された。ヴェルナーだ。


「放せヴェルナー、彼女を助けないと! 連れて行かれてしまう!」


 俺は暴れたが、ヴェルナーは鬼のような形相で俺を押さえつけた。その目には、悔し涙が滲んでいた。


「馬鹿野郎! 分かんねぇのか! いま戻っても、俺たちも捕まって、彼女の犠牲が無駄になるだけだ!」


 ヴェルナーの声が震えていた。


「俺たちが生き残って……騎士団に、イザベル隊長、副団長に知らせなきゃなんねぇんだよ! それが、騎士としての、彼女の『命令』に対する答えだろうがッ!」


 彼の言葉は、冷たい刃物のように俺の胸に突き刺さった。

 そうだ。感情に任せて突撃し、全滅することこそが、最も愚かな行為だ。ルナリア殿は、それを避けるために自らを犠牲にしたのだ。


「くそっ……くそぉぉぉッ!」


 俺は血が出るほど唇を噛み締め、扉の隙間から外へ出た。

 俺たちは、夜霧の立ち込める港湾地区を、無様に転がるようにして逃げた。背後で、倉庫の扉が再び閉ざされる音がした。奴らは俺たちを追う必要を感じなかったのだ。耳には俺たちとルナリア殿を隔てる、絶望的な扉の音が残った。

 俺は走りながら、自分の無力さに慟哭した。

 イザベル隊長が信頼し、大事にしている人を、俺たちは守れなかったのだ。


(第六十三話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。


いよいよストックが尽きました(笑)。他にも色々詰まってきているのですが、此処から先はなんとか一日一話をキープしたいところです。よろしくお願いします。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定(?)しております。またお会いできると嬉しいです。

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