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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第五十五話:「尋問」【前篇】

「まず、お前だ」


 私は、見張りだった男の猿轡を外した。


「名前は? お前は【深淵の盟約】とやらに忠誠を誓う者か?」


 男は、黙っている。いや、黙っているというより目が虚ろで反応がない。こちらの声が聞こえていないというより、同じ世にいないかのような感じだ。次の男も同じだった。猿轡を外しても、ただ虚空を見つめている。口元は微かに動いているが、声は出ない。何かを呟いているようだが、聞き取れない。マルクスとヨハンも同じように尋問をしているが、似たようなものだ。

 階段で暴れていた女も同じだった。猿轡を外しても、何も言わない。ただ、その目だけが異様に輝いている。狂信者の目だ。


「副団長、この者たちは……」


 マルクスが、困惑した表情で言った。


「正気ではないな」


 私は、最後に地下牢で捕まえた男の前に立った。

 この男だけは、他の者とは違う。三十代後半ほど、鋭い目つきをした男だ。顔色も良く、目には明確な意思がある。リーダー格、あるいは幹部だろう。仲間の様子を見ても冷静で眉ひとつ動かさず、落ち着いた様子で床に座っている。


 私は、男の猿轡を外した。


「さあ、話してもらおうか」


 男は、私を見た。


「話すことなどなにもない」


 少なくとも他の狂信者たちと違って、この男は口を開いた。恐らく何か言いたいことと、それを言える立場の人間なのだろう。

 男は、私を見据えたまま言った。


「そうか」


 私は、男の前に膝をつかず、立ったまま見下ろした。


「では、まず確認だ。お前の名前は?」


 男は、黙った。


「名前も言えないのか? それとも、名前すら持たない存在か?」


 男は、依然として黙っている。私は、作戦を変えて、相手が答えやすい質問から始めることにした。


「お前は、魔法が使えるな」


 これは質問ではなく、事実の確認だ。地下で火球を放とうとした。男は魔法使いだ。


 男は、わずかに目を細めた。


「……使える」


 ようやく、口を開いた。


「どこで学んだ? 魔法学校か?」


「……いいや」


「では、独学か? それとも、誰かに教わったのか?」


 男は、また黙った。私は質問を続ける。


「お前たちが攫った子供たちも、魔法学校の生徒だ。トーマス・ウェルズ、エマ・シュトラウス、カール・フィッシャー、リーゼ・ミュラー。全員、平民の生徒だ」


 男の表情が、わずかに変わった。


「なぜ、平民だけを狙った?」

「……」

「答えろ。お前たちの目的は何だ?」


 男は、私を見た。その目には明らかな侮蔑の色が浮かんでいる。


「お前たちには、分からない」

「何が分からない?」

「この世界の真実が」


 男は、ゆっくりと口を開き始めた。


「お前たちは、表層しか見ていない。この世界の本質を、理解していない」


 私は、男の言葉を遮らなかった。言いたいことを言わせてやるつもりだった。


「貴族どもは、血統だけを誇り、力を独占してきた。だが、それは本当の血統ではない。ただの名前に過ぎぬ。心の血統とは魔力の濃さだ。その血の濃さこそが尊いのだ。それを我らが導師は見抜いた。歴史の闇に消えてしまった知識を拾い集め、真の魔力を復活させる道を見つけたのだ」

「道、なんの道だ?」

「深淵への到達だ」


 男は、私を見た。その目には狂信的な光が宿っている。


「深淵には、全ての答えがある。この世界の理を超越する力が。そして、我らはそこへ至る」


 私は、男の言葉を反芻した。深淵。この男は、本気でそれを信じている。


「深淵とは何だ?」


 嘲るように笑った。


「お前らのような卑賤の者には決してたどり着くことも、理解することもできないものだ。そこには――真理がある。この世界を創った者たちの意思が。貴族どもが血統と称して守ってきた秩序など、所詮は砂上の楼閣に過ぎん。深淵こそが、全ての始まりであり、終わりだ。我らが導師は、三百年の時を経て、ついにその扉を開く鍵を手にした。選ばれし者たちの魂を捧げ、古き盟約を成就させる。お前たちが救ったと思っている子供たちは、ほんの一部に過ぎない。真の適格者たちは既に聖なる場所へと運ばれ、儀式の準備は整いつつある。やがて門は開かれ、この腐敗した世界は浄化される。愚かな王も、傲慢な貴族も、無知な民衆も――全てが深淵の前に跪くことになる」


 私はその長広舌をうんざりした気分で聞きえると、再び現実的な質問に戻す。


「では、攫った子供たちは? 彼らを、どうするつもりだった?」

「彼らは、器だ」


 男は、淡々と言った。


「深淵へ至るための、器だ」

「器?」

「そうだ。高い魔力を持つ者の肉体と魂を、我らは必要としている。それを用いて――」


 男は、そこで言葉を切った。そしてゆっくりと視線を動かし、部屋の中を見回した。

 その視線が、ルナで止まった。

 男の目が、わずかに見開かれた。驚き、そして、次の瞬間、男の口元がゆっくりと歪んだ。

 にやり、と。まるで、何か面白いものを見つけたかのような笑みだった。


「……なるほど」


 男は、呟いた。


「……そいうことでしたか」


 私は、ルナに向けられた男の視線を遮るように、一歩前に出た。


「私を見ろ。お前が話すのは、私だ」


 男は、ゆっくりと私に視線を戻した。だが、その口元には、まだ笑みが残っている。


「お前たちは、遅すぎた」


 男は、まるで説法でも行うかのように、ゆっくりと語り始めた。


「我らが導師は、三百年の悲願を成就させる。この世界の理を超越し、深淵へと到達する。そのために必要なものが、全て集まりつつある」

「何を言っている……」

「お前たちにできることはもうないのだ。全ては我らが導師の手の中にある。お前らがなにをやろうとも、それは全て導師の計画の一部でしかない。お前たちは、遅すぎたのだ」


 そう言うと、男は私の背後にいるルナを見ながら高らかに笑った。彼女が後ろで身じろぎしているのが気配で分かった。

 私は、男の胸倉を掴んだ。


「黙れ」


 だが、男は笑みを深めた。


「我らが導師は、三百年の時を経て、ついにその扉を開く鍵を手にした。選ばれし者たちの魂を捧げ、古き盟約を成就させる」


 男は、まるで聖典を読み上げるかのように、淀みなく語った。


「やがて門は開かれ、この腐敗した世界は浄化される。愚かな王も、傲慢な貴族も、無知な民衆も――全てが深淵の前に跪くことになる」


 男が狂気に目を光らせながら、耳障りな笑い声を上げ始めた。

 私は胸ぐらを掴む代わりに、男の首を絞めた。男の笑い声が止まった。


「お前の戯言は、騎士団本部でゆっくり聞こう」

「ほ、本部? ははは……どこまでも愚かな。わ、私がそんなところへ行くと思うか……!」


 ぎりぎりと首を絞め上げるなかで、男が息も絶え絶えにそう言った。

 その途端、男が呻き声をもらした。それは首を絞められて上げたものではなかった。


「……ぐ……っ」


 男の顔が、苦痛に歪む。


「どうした?」


 私が首から手を離しても、男の様子は変わらず前のめりに倒れた。


「……ぐ……あ……」


 気がつくとそれまで大人しく座らされていた他の者たちも、同じように苦しみ始め、床に転がって痙攣する。


「何が起きている!」マルクスが叫んだ。

「毒か!?」

「いや」


 見張りをしていたヨハンが答えた。


「調べて怪しいものは全て取り上げました。それに、誰も何も飲んでいません。ずっと見ていましたから」

「では、一体……!」


 エリクが、一人の男に駆け寄った。だが、男は既に動かなくなっている。

 私の目の前にいる男は苦しみに床をのたうちながらも、その顔には笑顔が浮かんでいる。まるで苦しめられることが喜びであるように、唇が引き上がり目には愉悦の色が浮かんでいる。


「導師よ……、感謝……いたします……」


 男の体が、一度激しく痙攣したのを最後に動かなくなった。その顔には、まだ笑みが残っている。歪んだ、狂った笑顔だ。


「全員……死んだのか……?」


 ヴェルナーが、呆然と呟いた。私は、男たちの首に手を当てて確認した。脈はない。全員、死んでいる。

 私はギリっと自分の奥歯が強く噛みられる音を聞いた。あれほど注意したのに自殺を許すとは思わなかった。しかしなぜだ? エリクが見落とすとは思えないし、私が調べた男も死んでいる。

 その時、ルナが黒いローブの男の死体に近づいた。


「ルナリア嬢?」

「少し、調べさせてください」


 彼女の目は、研究者のそれだった。感情を排し冷静に観察する目。ルナは自分のベルトから出した手袋を着けて、仰向けに倒れた男の首に触り、確実に脈がないのを確認すると、顔や目、口の中を見る。次に男が身にまとっていたローブを開くと、その下には白いシャツが見えた。彼女は手早く前を留めるボタンを外し、シャツを開く。


「……これは」


 彼女の声が、わずかに震えた。

 男の胸には、複雑な魔法陣のような模様の刺青が刻まれていた。だが、異常なのは今はその入れ墨が焼け焦げたように黒ずんでいることだ。まるで家畜に入れる焼きごての痕のようだった。


「入れ墨……?」

「魔術的な呪いですわ。他の者も確認してくださいますか」


 ルナの声でマルクスたちが手分けして調べると、全員、同じように胸に入れ墨があり、焼けたような跡がある。


「この入れ墨は、特定の条件で発動するように仕組まれています。そして、恐らく……」


 ルナが黒いローブの男の目を凝視する。


「……この男の目を、見てください」


 私は、男の目を覗き込んだ。

 確かに、何か異様だ。瞳孔が不自然に開いている。そして、目の奥に――微かな光の残滓が見える。


「まるで……誰かが、見ていたような……」

「その通りですわ」

「どういうことだ?」


 全員の視線がルナに集まる。


「これ(黒魔眼)と呼ばれる魔法です。恐らく導師と呼ばれる者は、この男の目を通じて、ここでの出来事を見ていたのです。そして、この男が騎士団本部に送られると判断した瞬間、呪いを発動させた……」


 ルナは静かにそう言った。誰かがごくりと唾を飲んだ音がひどく大きく聞こえた。


「……まったく、気味が悪い連中だ」吐き捨てるようにヨハンが呟く。その声を切っ掛けに、一連の出来事に息を呑まれていた騎士団たちが動き出した。しかし、ルナの目はまだ男に向けられたまま動かない。


「……ルナリア嬢?」


 そう声を掛けると、彼女が私を見た。少し顔が青ざめ、手もわずかに震えている。


「何か、他に分かったことが?」

「……いえ」


 ルナは、小さく首を振った。


「今のところは、これだけですわ」


 だが、その声には確かな動揺と、私を見る目には何か、言いたいことを言わずにいるような色が見えた。が含まれていた。何かがある。彼女は、何かに気づいた。だが、今は言わない……、言えない……のか? その気配を察して、私は、それ以上追及しなかった。いまは他にもやるべきことがある。


「少し椅子に座って休んでいてください。対魔法結界ももういいでしょう」


 そう言うと、ルナは小さく頷くと、マルクスが用意した椅子に腰を下ろした。ちょうどその時、建物の外から馬蹄の音が聞こえた。護送部隊だ。

お読みいただき、ありがとうございました。


 イザベル視点での尋問シーンです。彼女の声のイメージは田中敦子さんです。クールビューティーといえばの方でしたが、意外に「フレンズ」のフィビー役もされていましたね。過去形で語らなければいけないのが本当に残念です。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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