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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第五十二話:「トーマス・ウェルズの願い」【後編】

 王立騎士団本部の、副団長執務室。 わたしは、山積みになった書類から顔を上げた。騎士団の再編と、旧体制派のあぶり出しは、一筋縄ではいかない。


「――それで、分かったことは?」


 わたしの問いに、ソファに座っていた銀髪の魔女、ルナリア・アークライトはようやく少し落ち着きを取り戻したように見えた。彼女がこの執務室に窓から現れたのは5分ほど前だった。

 歳の割に落ち着いた(多少、背伸びはしているようだが)彼女にしては、慌てた様子で飛び込んで来たので、まずはお茶を出して一息つかせたところだった。とはいえ、彼女が慌てるのは無理もなかった。いまこの王都で起きつつあるのは、『深淵を盟約』と名乗る怪しげな魔術教団が、かつてこの世界を滅ぼしかけて以来、禁忌となっているゴーレムを復活させるために、アウレリアとタイドリアを股にかけて、魔力のある人間を攫っているのだ。それがルナと同じ魔法学校の生徒であることを考えれば彼女の反応も無理はなかった。


 ルナはカップを置くとゆっくりと話し出した。


「わたくしが調べたところ『深淵の盟約』は、恐らく300年前から存在している組織で、彼らの目的は、この世界の理を超越して、新たな次元へと到達すること、……でも、イザベラ様が知りたいのはそんなことじゃないですわね」


 わたしは黙って話を促す。


「彼らは教祖を頂いて活動する魔術団体で、極めて高度な古代術式と魔法具を作る技術を持っています。なかでも特化しているのが魔力の合成……。複数の人間を文字通り『圧縮』して、絞り出した生き血を使い人造の生物を作る」


「……ゴーレムか」


 ルナが頷いた。


「改めてイザベル様はゴーレムのことはどのくらいご存知?」

「一般的なことだ。土や粘土、金属などの素材に魔力を注ぎ込み、主人の命令に従う化物……。かつて北の大地に存在した魔法王国のムドル王は、100を超えるゴーレムを使ってこのアストレアの全土を征服したが、その後、暴走したゴーレムに自身も殺され、その魔石に込められた魔力が切れるまで100年以上、暴れまわった……。そんなところか」


 ルナが微笑を浮かべた。


「十分です。ここまでの情報をまとめると、恐らく彼らはアストレアで魔力のある人間を、タイドリアでは強い魔石と術式を書ける人間を攫っているのだと思います」

「ゴーレム作りの素材集めということか……。既にどの程度集めているのか……」

「どんなゴーレムを求めるかによりますのでなんとも言えません。実際に彼らが何人攫っているのか、わたくしたちがその全部を知っているわけではありませんので……」


 魔力自体はその差はあるものの、生まれつき備わっている者も少なくない。もちろん貴族の家庭に生まれた者の方が多く持っているが、時折、平民の中でも貴族に近い、あるいはルナのように貴族の傍流の娘でも飛び抜けて高い者も存在する。そうしたことから魔法学校では一定の魔力を持つ者については平民にも門戸を開いている。しかし扱いは必ずしも良くない。


 基本的に寮での暮らしになり衣食住は保証されるが、平民と貴族では寮自体が異なり、当然設備や食事などの待遇は比較にならない。成績についても厳しく、一定の基準を満たさなければすぐに除籍となる。また卒業しても基本的には貴族に仕えることが前提で、最低でも10年はお礼奉公をしなければ自由になれない。それでもその狭き門を目指す者は多い。そうした事情もあり平民の生徒が行方不明になっても学校が気にすることはほとんどない。つまり、学生だからこそ口の端に上っているが、学生ですらない平民の魔力持ちが行方不明になっても、誘拐など事件性が明確であれば別だが、本人が姿を消しただけでは、ほとんどの場合は捜査すらされない。


 ルナの場合はもともとギデオン殿が騎士団の師範を務めていたことや、貴族の傍流であること、そして本人が『魔法学校史上最も高い魔力を持った生徒』ということで特別推薦で入学したこともあり、普通の平民の学生とは全く扱いが違う。それ故に風当たりが強いことが多いようだが、少なくとも本人は気にする風ではないようだ。


 いずれにしろ、行方不明の数は現在分かっているよりも多い可能性は十分あり、敵の狙いがより大きなものである可能性は十分あるのだ。


「イザベラ様の方はいかがですか?」


 わたしは黙って首を振った。


「これといった情報はまだない」


 まだ明確な証拠がなく、攫われた者たちも発見できていないことと、父、フォルカーから陛下への報告が止められた状態のため、わたし自身落ち着かなかった。それでもいざという時に動ける小部隊を作るために、新しく組織した騎士団から特に信頼できる人間を集めた部隊を編成と訓練をしていたところだった。

 ルナはちらっと机の上に置かれた書類を見て、小さく笑った。


「良い人はいましたか?」

(相変わらず捨て目が効いている)と思いながら、わたしは答える。

「若手の中に何人かはな」


 クーデター事件以来、ルナの父、ギデオン殿と進めている改革は、古参の騎士たちにとっては不評で、不満を持っている者が多かったが、中級以下の騎士たちにとっては比較的、スムーズに受け入れられていた。机の上に広げられたリストの名前のほとんどは、そうした者だ。ただ、騎士団の中の序列が絶対である以上、上級騎士たちの目を無視するわけにもいかないので、難しいことも多い。ギデオン殿の報告によると、クーデター事件には積極的に関与していないが、それは単にマルディーニとの折り合いが悪かっただけで、必ずしも騎士団の改革に賛成ではない者も多く、ギデオン殿はともかく、補佐のセレスに対しては面従腹背の者や、あからさまに侮った態度を取るものも少なくないという。先日の報告では古参の騎士とセレスが立ち会い、かなりの重症を負ったとあったが、凡その状況は分かったので、こちらはギデオン殿に一任していた。正直、騎士団の副団長としてやることは他に山積みだった。


「イザベラ様もお一人でお仕事を抱えてしまうタイプですからね」


 少しいつものルナに戻ったその言い方に、わたしはふんと鼻を鳴らした。その様子ににっこり笑おうとしたルナの顔色が変わった。


「どうした?」

「お待ち下さい。『小鳥』たちが何かを見つけたようです」


 ルナはそう言いながら懐から取り出した小さな水晶を両手で包み意識を集中させている。


「……今、港湾地区の『小鳥』が、微弱な魔力信号を感知しましたわ」


  彼女の顔から、いつもの笑みが消える。


「この波長……間違いない。魔法学校の『救難信号』です」


 ***

(その少し前)


 僕は相変わらず暗く冷たい石造りの冷たい牢屋の床の上に、壁を背にして座っていた。相変わらず両手両足は縛られ、口には猿轡をされたままだ。ただ随分前に泣くのはやめて、ずっと檻越しに行くローブを着た奴らのことを見ていた。その中には見知った者もいれば、5〜6歳の子供もいた。中には怯え泣き叫んでいる者もいたが、僕はできるだけ静かに部屋の隅でその様子を見ていた。もちろん不安だし、叫びたかったけど、そんなことをしても無駄なことは分かっていた。うまい話に乗ってしまったことへの後悔も、震えて泣くのももう十分だった。いまは彼らの言葉について繰り返し考えていた。


(『魔力の測定』『適合率』『三番』『七番』『儀式』)


 そこから考えられるのは、


(……彼らは、僕たちを魔力の『量』や『質』で選別している)


 ということだった。ではなぜ選別するのか? 恐らくなにかの『儀式』を行う上で必要だからだ。そう考えるといますぐ僕を殺す気がないことが推察できた。彼らは僕を生かしたままどこかへ連れて行くつもりなのだ。恐らく『導師』の命令によって。


 僕はできるだけ音を出さず部屋の隅から転がり、閉じ込められている牢屋からこの区画に入るための扉が見える位置に移動した。


(そろそろだ)と思ってから数分後、


 ガタン


 と重い扉が開いた。思った通り見回りの時間だった。黒いローブを着た男が入ってきた。見回りは二人いて、イルベとも女とも違い、下働きっぽい感じがした。そのうちの背の低い男は、いつも扉を開けっ放しでそれぞれの牢屋を確認していた。僕はその順番と時間を覚えてこの時を待っていた。

  足音が僕の牢の前を通り、床に転がる僕を一瞥して通り過ぎていく。


(……今だ)


 僕は、この瞬間のために、ずっと溜め続けていた、ほんのわずかな魔力を指先に集中させた。 攻撃魔法ではなく、魔法学校の生徒だけが知っている詠唱の必要がない「救難信号」の魔術。 魔力の波長をとても高く、細く振動させることで、大概の物質は通り抜けることができるのだ。


 とはいえこの区画には対魔法の封印がしてあることは分かっていたので、そのままでは通らない。だから扉を開けるこの瞬間を待っていたのだ。


(……届け……!)


 小さな光が、僕の人差し指から出た。蛍のようなか細い光だけど、すーっと扉をくぐると外へと出ていった。


(……頼む。誰か……気がついて!)


 その直後、緊張が解けたのか、力を使い果たしたのか、僕の意識は、再び深い闇の中へと落ちていった。


(第五十三話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。


 今回はルナが図書館で見つけた『深淵の盟約』の報告からトーマスからのSOS信号まで駆け足で。それにしても、仕事を一人で抱えがちのイザベルの風景が目に浮かびます。次回はいよいよ救出作戦開始です。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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