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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第五十二話:「トーマス・ウェルズの願い」【前編】

 そこは暗かった。最初は自分の目がおかしくなったのかと思ったけど、本当に暗かったのだ。それでも目が慣れてくると、自分がいるのが狭い牢屋の中だということが分かった。僕の手足は縛られ、口には猿轡が噛まされ、冷たい石の床の上に転がされていた。でも、どうしてこんな格好でここにいるのかは分からなかった。なんとか助けを呼ぼうとあがいたけれど、猿轡のせいで低い唸り声しかでなかった。やがてそれにも疲れた僕はできるだけ自分の心を沈めて記憶の糸を手繰り寄せる。


(そうだ……あの時……)


 三日前。寮の自室に一通の手紙が届いた。差出人は、「魔石商組合」を名乗る者で内容は、平民出身の学生に向けた特別な案内だった。


『優秀な魔法学生の皆様へ。


 この度、魔石商組合では、将来有望な若き魔術師への支援事業として、高品質な魔石を市場価格の半額以下でお譲りする特別販売会を開催いたします。

 多くの学生の皆様が、授業でお使いになる高価な魔石を入手することが困難であることを我々は理解しております。この機会に、ぜひ実習や研究に必要な魔石を手に入れてください。我々は一人でも多くの優秀な方に、輝ける魔術師としての未来を歩むお手伝いができればと考えています。


 日時:三日後の午後七時

 場所:港湾地区、南倉庫街「魔石商協会別館 特別会場」

 ※注意 このお手紙は選ばれたごく僅かな特別に優秀な方のみに送らせていただいております。ですのでお知り合いなどにはお話せず、必ず一人でいらっしゃってください。お二人以上でいらっしゃったり、誰かにこの内容をお話した方には、今後のご案内を控えさせていただきますのでご注意ください。』


 もちろん最初は疑った。だけど手紙には魔石商組合の印章らしきものが押されていたし、何より――僕は、魔石が欲しかった。

 平民出身の僕にとって魔石は高価だ。貴族の子弟たちは、親から潤沢な魔石を与えられているが、僕のような平民の子は、学校から支給される質も低い最低限のものしか使えない。それでは、実習でも研究でも、貴族の生徒たちに遅れを取ってしまう。今年から二年生に進級したこともあり必要な魔石は増えるばかりだった。田舎で貧しい生活をしている親兄弟のことを思うと、とても魔石代をねだるのは無理だった。魔法学校への入学が決まって喜んでいた彼らの顔を思うと心配させるのも辛かった。


(もし本当なら……)


 そこで僕は決断した。(行ってみよう)と。もしもおかしな様子だったら、すぐになにか口実を作って逃げればいい。でも、もし本当なら――安価な魔石を手に入れるチャンスだ。


 約束の日、僕は授業が終わると港湾地区へと向かった。いつもは近づかない場所だ。港湾地区は、ガラの悪い人が多く、なかには後ろ暗い商売をしている者も多いと言われている。だからちょっと不安だった。とりあえず魔法学校の生徒だと分からないように普段着に着替えて、出かけることにした。よっぽど誰かに話そうと思ったけれど、注意書きに従って、誰にも言わなかった。


 目的の建物に着いた時には、既に日が傾き辺りは暗くなっていた。古びた建物のドアには「魔石商協会 別館」と書かれた看板が掛かっていた。恐る恐る中に入ると中は意外に広く、待ち合わせ用のソファーがあり、カウンターには若い女性が座っていた。


「いらっしゃいませ。ご招待のお客様ですね」


 その笑顔と愛想の良いその声に僕は少し安心して答えた。


「はい。トーマス・ウェルズといいます」


 女性は手元のリストを確認すると、すぐに目を上げた。浮かべていた笑顔が濃くなっていた。


「トーマス様、お待ちしておりました」


 そう言うと女性はカウンターから出て来ると「こちらへご案内します」と言って歩き始めた。慌てて後を追いかけたけれど、建物の奥に行くことには少し抵抗があった。そんな僕の気持ちを察してか、彼女が歩きながら話しかけてきた。


「トーマス様は学業が優秀でいらっしゃいますね。今回は優秀な方だけにご案内をさせていただいたのですが、その中でもトーマス様は大変優秀で、来ていただけたことに大変感謝しております」

「あ、それは……恐縮です」


 本当は奥に行く前に色々聞きたいことがあったのだけれど、彼女の言葉がなんだかくすぐったくて、口の中で消えてしまった。建物の中は想像より奥行きがあり、同じようなドアが並ぶ中を進み、廊下の突き当りにある扉の前で彼女は止まると、ドアに付いた呼び鈴を押した。


「失礼いたします。トーマス様がいらっしゃいました」


 すると部屋の中から、「通しなさい」という男の人の声がした。

 女性がドアを開けると、中は思ったよりも狭い部屋だった。綺麗に片付いていて調度品はあまりなく、窓がないことに気がついた。

 声の人物は机の向こう側に座っていて、部屋に入った僕を見て立ち上がった。身なりはどこにでもいる商人という感じで、僕はちょっと安心した。男は机越しに空いた椅子を勧めながら、


「トーマス様、よくいらっしゃいました。私は魔石商協会のイルベと申します」


 と言うと、人の良さそうな笑顔を浮かべた。勧められるままに椅子に座ると、後ろでドアが、静かに閉まった。

 僕は何を言えば分からなかったので、とりあえずポケットに入れていた手紙を取り出した。


「このお手紙を読んで来たのですが……」

「はい、ありがとうございます。お手頃な魔石をご希望なのですよね」


 そう言いながら男は座ると、机の引き出しから包みを取り出した。開けるとそこには中ぶりで色とりどりの魔石が現れた。


「どうです、どれも扱いやすい大きさで、タイドリア産ですので質は保証します」


 確かどれも綺麗にカットされていて、色に混じり気がなく、質が良いことがすぐに分かった。ただその分、値段のほうが気になった。


「……おっしゃるとおり良いものですね。ただ持ち合わせがそれほどないので、僕の手に負えるのか……」


 そう言う僕にイルベは愛想よく、


「こちらの魔石であれば、今日は通常の半額以下の中銀貨20枚でお分けできますのでご安心ください」

「中銀貨20枚ですか……確かに安いですね……」


 安かった。だけど僕の持ち合わせは中銀貨16枚しかなかった。そんな僕の表情を見てイルベが心配そうに訊ねてきた。


「トーマス様、どうされましたか? なにかご心配があればお聞かせください。もっと大きな物や質の高いものがご入用でしたらお持ちしますので、ご遠慮なくおっしゃってください」


 僕は慌てて口を開いた。


「いえ、そうではないのです。こちらの魔石で十分です。ただあいにく僕の持ち合わせが足りなくて」


 イルベはちょっと驚いた表情になった。


「……持ち合わせが、そうでしたか……」


 気まずい沈黙が流れた。目の前に並んでいる魔石は普通の店なら中銅貨40枚は下らないもので、お買い得なのは間違いない。(残念だけど諦めるしかないか)と思った時、イルベが口を開いた。


「……トーマス様、差し支えなければお幾らならお支払い願えるを、教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 その目には心配そうな光があった。

「中銀貨16枚ならなんとかお支払いできるのですが……」


 僕の返事を聞いて、イルベは(うーん)という様子で天井を見上げた。30秒ほど経った頃、イルベの視線が天井から僕へと戻った。


「分かりました、トーマス様。16枚で結構です」

「え! 本当ですか!?」


 思わず大きな声を出してしまったことに、僕は驚くと同時に恥ずかしくなった。

 イルベはそんな僕の様子を見て笑うと、


「今回の特別販売は、才能がありながら、失礼ながら経済的に余裕がない方を優先したい、というある篤志家の方からのご希望で行っているものです。そうした趣旨から考えれば、トーマス様のような方こそが対象になると考えます」

「しかし16枚ではあまりに……」

「大丈夫です。私にお任せください。万が一、主人にお叱りを受けることがあっても、私が責を負えばよいことです」


 僕は申し訳なくなって遠慮しようとしたが、イルベは思いのほか強情で、「このイルベにお任せください」と言い張った。押し問答をするうちに、イルベは自分の兄がかつて魔法学校に在籍したことや、平民出身で大変苦労したにも関わらず、病気で卒業を待たず亡くなったことを僕に語り、「兄と同じような苦労はさせたくない」とまで言い出した。

 結局僕は半分は根負けと、残りの半分はやはり安さにつられて購入することを決めた。

 イルベは僕の返事を聞いてホッとした様子で喜んでいた。


「トーマス様。こちらの魔石をお譲りする前に、ひとつお願いがあります」


 そういうと彼は水晶球を取り出した。


「こちらの水晶でトーマス様の魔力を測らせていただけますか?」


 水晶玉は年季が入ったもので、凝った装飾が施されたあまり見ないものだった。

 正直(何を今さら)と思ったけれど、行きがかり上断ることもできず、また断る理由もなかったので、「構いません」と僕は素直に手を出した。


 水晶球に手を触れた。その瞬間――水晶球が、強く光った。


「……素晴らしい。やはりあなたは非常に高い魔力を持っている」


 僕はイルベの声になにか違和感を覚えた。それまでの人の良い、親切そうな声の成分の中に、狩人が獲物を見つけた時のような匂いを感じたからだ。一番最初にこの建物に入る時に感じていた不安が、また胸の中でむくりと目を覚ました。目の前のイルベの目がやたら大きくギョロギョロしている。怖くなった僕は「あの……」と声を出そうとしたが、頭が痺れたようで声を出すことも体も動かすこともできず、水晶から手を離すことすらできない。水晶の光はますます強くなって目も開けていられないほどになってきた。


(なんだかおかしい……)


 そう思った時に、意識が、急速に遠のき、暗闇に落ちていった。


 ***


 次に目を覚ました時にはここにいたのだ。あれからどのくらい経ったのか分からない。僕は暗闇の中で恐怖と後悔に震えた。なぜ、疑わなかったのか。なぜ、一人で行ってしまったのか。涙が流れたがそれを拭うことはできなかった。

 それでもなんとか壁を利用して座ることができた。改めて周りを見るとこの部屋には自分ひとりであることが分かったが、廊下を隔てた部屋や隣の部屋にも人がいる気配がした。


(みんな……同じように騙されてここへ来たのだろうか?)


 そう考えていると、扉が開く音がした。思いの外近く、自分の部屋に扉の向こうの光が差し込んできた。続いて足音が近づいてきた。複数の足音だ。


「……どうだ? 適合率は?」


 低い、男の声。


「三番と七番が高いです。特に七番は、93パーセントを超えています」


 別の声。女だ。


「よし。では、七番から始めよう。導師様がいらっしゃる前に、もう一度全員の適合率を確認しなければならん。肝心の儀式で使えなければ意味がない」


 僕は身を捩って部屋の隅に移動すると、できるだけ体を小さくして牢屋の檻越しに廊下を見る。すると二つの影が現れた。一人は黒いローブを着た男。もう一人は、同じく黒いローブの女で手にランプを持っていた。顔はどちらもフードで隠れて見えないが、僕にはその正体は分かっていた。女の声は、この建物に入ってきた時にカウンターにいた女のもので、男の声は、人の良さは微塵もないがイルベのものに間違いなかった。


 二人は僕の牢屋の前を通り過ぎ、奥の方に向かう。足音が小さくなり、扉を開ける音がした。

 10秒足らず、なにかが抵抗する音がした。でも、やがて静かになる。

 次に彼らを目にした時には、イルベが肩に子供をしょっていた。扉からの光で僅かに見えたその顔は、まだ少女だった。


「やめろ! 何をする気だ!」


 反射的にそう叫んだが、猿轡に阻まれ唸り声が出ただけだ。彼らは僕に一瞥もくれず立ち去ると、最後に扉が閉まる音だけが響いた。牢屋には再び暗闇と静寂が戻った。


 僕は闇の中で再びすすり泣いた。

お読みいただき、ありがとうございました。


 今回は可哀想なトーマスのお話でした。みなさんも美味しいお話にはご注意を。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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