メガネは語る 〜庵ちゃんに会ってきたよ〜
オフ会的なノリで、現恋の名手&企画主催者である『武頼庵』氏に会ってきましたよ!!
吾輩はメガネである。
生まれは眼鏡市場、育ちはF県K市某所。うだつの上がらない間抜け顔のご主人の、文字通り『目の前』でのびのび過ごして1年になる。
今までご主人と一緒に、様々なものを見てきた。
綺麗なもの、汚いもの、かわいいもの、くだらないもの。今日はどんなものを見る事ができるのか……そんな楽しみを抱えながら一日が始まる。
その日、ご主人はメガネシャンプーで吾輩の体を何度も洗った。ご主人は、気合を入れる時は決まって吾輩をピカピカにしようとする。ルーティーンというか、神経質というか、そういう感じだ。
吾輩はつるを傾げる。
今日は何が起きるんだ?
細君の運転する車へと乗り込み、駅前で友人の『なんとかさん』と合流する。いつもの会合かと思いきや、両者の表情には普段は無い緊張が見て取れた。
緊張した面持ちで、どこか焦点が定まらないご主人を見ていると、吾輩もなんだか不安になる。
普段は取引先相手にヘラヘラとおべんちゃらを並べているご主人だが、今回の相手はちょっと違うような気がした。
そして今、某居酒屋の席にて、ご主人の目の前に謎の男が座っていた。
男の名は『武頼庵』
それはご主人が病的にチラ見を繰り返しているWebサイト『小説家になろう』の中でよく登場する名前だった。どこか実体のない、文字だけの存在だと感じていたであろうその男が、今まさに目の前に座っている。
ご主人の体温が上がっているのは、残暑のせいだけではない。汗で湿ったつるが些か不快ではあったが、それほどの興奮をご主人は感じていたのだろう。
この武頼庵という男、実に不思議な男だった。
自分では『他人との距離感がバグっている』と笑いながら語っていたが、どうやらそんな単純な話ではない。この男は人の本質を見抜く能力に秀でている。それ故に、親しみ易い言葉を選びながらも、相手の核となる部分へと語りかける事が出来る。
それはバグではなく、明らかに卓越した才能だ。
さらに、どうやらこの能力には、武頼庵氏の持つ常人離れした『特性』も深く関わっているようだったが、それにはあえて触れないでおこう……。
何れにせよ、ご主人と、友人のなんとかさんは、武頼庵氏が放つオーラのようなものに、完全にやられていた。
特になんとかさんの方は、庵氏との対話の中で、もはや『人生』というものに深く関わるレベルの『気付き』を得られたように見える。
メガネである吾輩が語るのも片腹痛いのだが、創作論とは則ち、人生論なのではないのだろうか。
人が物語を作り出す際の方法論は、その人が持つ価値観、考え方、生き方へと繋がっている。だからこそ創作との向き合い方は、人生との向き合い方とニアリーイコールになるのだろう。
登場人物を自由に行動させ、時々神の視点からちょっとした奇跡を起こし、その様子を書き記すなんとかさん。
まず脳内に描いた『書きたい!』という会話や映像があり、衝動のままそこに向けて話を展開させてくご主人。
そして、物語の中に散りばめた『出来事』や『転機』があり、そこを繋ぐ空白の部分で登場人物を遊ばせながら物語を紡いでいく武頼庵氏。
そのアプローチの仕方は正に人それぞれで、どれが正しくてどれが間違っているというものではない。
だからこそ、互いの視点を尊重し、必要であればそれを取り入れていく――人間だって、そんなフリーフィットメガネのような柔軟さが必要なのだろう。
まあ……吾輩はメガネなので、よくわからないのだが。
そんな創作の話は、居酒屋からカラオケ、カラオケから駅前広場と、場所を変えながらとめどなく続いた。
メガネの吾輩には理解出来ない事ではあるが……人間の見えている世界は、人によって全然違うのかもしれない。
映像を透過する事しか出来ない我々メガネとは違い、人間は眼球の先にある『心』というスクリーンで実像を結ぼうとする。
それはえてして、各々が培ってきたシワや窪み、影の有無によって歪んでしまう、不完全な像に他ならない。
その像の違いを放置した事で争いを生む者もいれば、違いを創作という方法で相手に伝えようとする者もいる。
ありのままを透過することしか出来ない吾輩は、そんな『違い』を生み出せる人間というものが、少しだけ羨ましく感じた。
そんなわけで、最初は緊張気味なご主人であったが、最後は満足げな様子で家路についたのだった。
ただ、ご主人には一つの心残りが……
それは、締めにめっちゃ食べたいと思っていたラーメンが、どの店もべらぼうに混んでて断念せざるを得なかった事。
家路の途中で、ご主人は一人でラーメン店へと赴く。歳と共に衰える内臓への慈悲無な暴力――ご主人はラーメンを啜り、スープを飲み干す。
湯気で白く色づいた自分を感じながら、吾輩はご主人の気持ちを少しだけ味わえたような気がした。
武頼庵さん、なんとかさん、どうもありがとうございました!




