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【Breidablik】魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。  作者: 桜良 壽ノ丞
【chit-chat 2】

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【chit-chat 2】encore 06 魔法使いは、喋る伝説の聖剣と共に村の生活を支える……売上も知らずに。


【chit-chat 2】encore 06



* * * * * * * * * 




 広大な森に囲まれたテーブルマウンテンに、とても小さな集落がある。魔法の生みの親であるアダム・マジックが生涯を終えた村、レンべリンガだ。


 親しみを込めた魔法王という呼び名も、数百年の間にいつしか魔王に変わった。そのせいで魔法を崇める地域少数信仰「魔王教徒」から、魔王アークドラゴンを崇める「魔王教徒」が誕生した因縁の地でもある。


 周囲に遮るものがない台地、標高差のせいで眼下に広がる森とは全く異なる植生、環境。元々は秘境好きが訪れるだけの観光地であったが、今、このレンベリンガ村は大忙しだ。


「魔法の祖であるアダム様が、かつて水魔法のアクアを唱えて満たした瓶の水……が含まれています! ご利益しかないこの魔法の水をどうぞ!」


「魔王饅頭ですよ! アダム様も愛されたレンベリンガの郷土の味!」


「魔法教経典完全版入荷しました! アダム様が書き連ねていた日々の事、魔法に関しての記述、すべてがこの一冊に!」


 各店は魔法の祖であるアダムに関連する土産物を熱心に売っている。それはまだいい。いつもの事だ。


 だが、最近それだけではなくなったのだ。


「出来立ての勇者饅頭! 白い勇者饅頭、黒い魔王饅頭のセットもありますよ!」


「新たなる勇者シーク・イグニスタも食べた伝説の味! 勇者定食始めました! 寄っていかれませんか!」


「シーク・イグニスタ、ゼスタ・ユノー、ビアンカ・ユレイナス! イヴァン・ランガ、シャルナク・ハティ、それぞれにちなんだメニューを取り揃えております!」


 短く細いメインストリートでは、観光客を呼び込もうと威勢のいい声が飛び交う。ちなみに、名前が出た者の公認は取れていない。


 お気づきだとは思うが、この村は今、勇者推しだ。


 その最奥にあるのは、かつてアダム・マジックが住んでいた家。そこには現在「勇者」が滞在している。


「シーク、君は決断力と言うものがないんだよ」


「そうかな。色々と大きな決断をしてきたつもりだけど」


「そうするしかなくなって頷くことを決断とは言わないよ」


「うーん。俺、自分ではないと思ってないんだよね」


 家の外の長椅子に1人の「勇者」が座っている。半袖の白いシャツに、茶色の長ズボン。その膝にはロングソードがある。よく聞き馴染んだ会話をしているのはシークとバルドルだ。


 彼らは旅の拠点として、よくこの村を訪れていた。


「別に僕はゼロとは言っていないよ」


「じゃあ、どれくらい? 上限が100だとして」


「マイナス15くらいかな」


「……マイナスにも振り切れてないのがなんか悲しい」


 アークドラゴンを倒してから既に10年近く経っている。それでも大人になったシーク、いつも変わらないバルドル、1人と1本は毎日こうだ。


「勇者記念館の建造を断ってくれたのはゼスタだった」


「あれはビアンカとイヴァンが乗り気だったし……」


「君が迷っているうちに、先に結婚したのはゼスタだった」


「俺が封印に入ってた5年の間に、ゼスタには彼女が出来てたんだし。仕方ないじゃん」


 ただ今日のバルドルは一味違う。バルドルはシークの呑気で優柔不断な性格に、今日こそ物申したいらしい。


 この辺りの時刻でまだ午前10時。青空が広がり、青い小鳥が頭上を飛んでいく。


 アダムが住んでいた頃藁ぶきだった屋根は、赤い瓦に変わった。いつも同じ時間に小鳥が集まり、ピチュピチュと騒がしい。


 そんな小鳥の声に負けないよう、バルドルは今日こそシークの重い腰を上げさせようと発破をかける。


「ビアンカも、君より年下のイヴァンも結婚した。君より先に」


「俺だって結婚したし、子供いるじゃん」


「それを決めたのは誰だい。結婚してくれと言ったのは? 子供が欲しいと言ったのは? ここを拠点に決めたのも……」


「分かった分かった、俺は決断力がない!」


「僕は別にないとは言っていないよ」


「……マイナス15だったね、有難うよ」


 バルドルが何を言いたいのか、シークは今の会話でも分かったようだ。一度家の中に戻ると、装備を一式着て外に出てきた。


「ほら、早く早く」


「もう、分かったってば。ちょっと出てくるよ」


 シークが家の中に声を掛けると、女性の返事が返って来る。シークはそのまま扉の下に視線を落とした。


「駄目だよ、イースは留守番」


「やー! おれも!」


 黒い髪、優しそうな顔つきに大きな目。シークにそっくりな幼い男の子がシークの足にしがみついていた。


 ややボサボサなその頭からは、猫耳が生えている。


「イース」


「……あーんおかーしゃん! おとーしゃんがだめってゆー!」


「シーク。この村にいると、イースの友達はシークが戦っている所をいつも見物している。でもイースはいつも留守番だ。それが悔しいんだよ、連れて行ってあげて」


「……分かったよ。行ってくる」


 シークはしがみ付いて離れない我が子を抱き上げる。商売人たちはそんな2人を満面の笑みで見送る。


「行ってらっしゃい! 今日はイースちゃんも一緒なのねえ」


 シークの息子となれば、当然その注目度も高い。イース自身にその自覚はないものの、幼いながらに父親が特別視されている事は感じていた。


 そろそろイースまで土産物屋の餌食になるのではないか。そんなシークの心配をよそに、背後に響く声援は熱い。


 レンベリンガ村の入り口からは、長い長い坂が続く。シークは少しでも早く麓に着こうと、イースを抱えて走りだした。





* * * * * * * * *





「ったく、この時期はいつもこうだ」


「子供達に稽古をつけるのはいいが、おびき寄せ過ぎだ馬鹿野郎!」


「す、すみません!」


 テーブルマウンテンの頂上へと向かう道の入り口で、村の大人たちがモンスターと戦っている。モンスターの見た目はボアのようだが、牙がとても大きい。その周囲には色の黒いゴブリンが集まっている。


 そこへシークが全速力で駆けつけると、皆の表情が一気に明るくなった。


「ああ、イグニスタさん! すまねえ、若者の稽古で集め過ぎたみたいで……この通りだ」


「うへえ、どうしたらこんなに集まるんですか」


 モンスター集団は、登山口から街道の先まで扇型に広がっている。奥行き100メーテ程はありそうだ。


 周辺の森にはモンスターをも捕食するトレントが生息する。そのため弱いモンスターは森を避け、街道に集まってしまうのだ。


「シーク! 目の前にモンスターがいるのに、斬らないなんて選択肢はないよ! 悩んでいる暇があったら斬る!」


「ちょっと待って。すみません、誰かシャルナクに報告してくれませんか? 村の縁からアルジュナで攻撃すれば届くかも」


「分かった! 俺が行ってくる!」


 若者が数人坂を駆け上がっていく。20%近い勾配だというのに、日頃から鍛えているからか、その足取りは軽い。


「エアリアルソードで行こうか」


「風の刃で斬るんだね、出来れば僕が直接斬る分も残してくれると」


「分かった分かった」


 村人たちが盾を構えてモンスターを抑え込んでいる。シークはその上を飛び越え、空中でバルドルを大きく振りかぶった。


 魔力で具現化された白く大きな刃が淡い緑や青の光を纏い、バルドルの軌道の延長上にいるモンスターを大量に切り裂く。


「前に出過ぎないように、上からシャルナクが攻撃します!」


 しばらく経った後、モンスターの群れの中心に爆撃のような一矢が飛び込んだ。シャルナクが魔力を込め、アルジュナで撃ち込んだのだ。


「おおすげえ! 今のうちに行くぞ! シークさん、後は我らが!」


 村人たちが飛び出し、魔法で次々とモンスターを消していく。彼らはバスターではないため、こんな非常時にしか魔法を使えない。実力を発揮しようと、ものすごい勢いでモンスターを狩っていく。流石は魔法を崇める「魔王教」の村だ。


「シーク! ああもう! 君はまたどうしようか迷っているんだ! その間に僕が斬るモンスターがいなくなる!」


「だって、みんな張り切ってるのに」


「僕だってそうさ! イースも父親の活躍を見たいはずだ! ね?」


「みた! しゅごかった! おかーしゃんとあゆじゅま(※アルジュナ)もしゅごかった!」


 イースは強力な一撃を見る事が出来てもう大満足していた。残念ながら、この村にはバルドルの味方が少ない。


「だから僕はシロ村を拠点にしたいって言ったんだ!」


 そう言いながらも、バルドルは知っている。シークはいつもバルドルの味方なのだ。


「しょうがないなあ」


 やや腰が重く優柔不断だが、実はバルドルもそんなシークを急かすのを楽しんでいる。



 午後になり、テーブルマウンテンに向かう観光客の隊列がシークの戦闘を目撃した。


 きっと村の土産物が飛ぶように売れるのだろう。





【chit-chat】魔法使いは、喋る伝説の聖剣と共に村の生活を支える……売上も知らずに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] バルドルとシークのコンビやっぱりすきだな。久しぶりでいろいろ忘れてます。読み返そうかな。いつシーク結婚したんだろ?相手誰だったかな?
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