Reunion-03
「えっ!? そんな派手な水着、私着られないです!」
「あら、来る時に桟橋からこの国のビーチを見なかったの? 上下に分かれていないだけも控えめだと思うんだけど」
「そりゃあ、もっと派手な水着の人も見ましたけど、でも……」
「し、下着同然の恰好で、私達には流石に……ねえ?」
「そうかしら、この国では当たり前なのに。男の子2人もそういう水着は嫌いじゃないと思うけど」
ゴウンさんが大きく2度頷き、癖なのか剃ってなくなった髭を触ろうとする。リディカさんがこちらにウインクをするけど、アンナとミラの睨むような顔が怖い。
「べ、別に全然! 2人が着たところでそんなの全然気にならねえし! な? ディズ!」
「そ、そうだね! 別に無理に海に行かなくてもいいんだし、な? クレスタ!」
「何か、そうやって興味ないって扱いされると……それはそれで腹が立つわね」
「お、俺達だけで海に行くから、恥ずかしいならプールを借りたらいいだろ! 俺達だけ水着選ぼうぜ!」
そう言うと、クレスタが箱の中に手を入れて水着を選び始める。入っていた女物を先にソファーへと置き、男物だけを残せば、後はその中から好きな物を1つ取ればいい。
デザインなんて、男物ならどうせどんなのでも一緒なんだし。
けれど、そこでクレスタが何かに気付いた。
「え、これ……男モンだよな? ゴウンさん、もしかして俺たちの」
「ああ、そうだ。若いんだから、それくらい大胆なもので行って来い」
クレスタが困ったようにこっちを振り向く。その手に持っていたのはパンツよりも小さい、まるでブーメランのような形をした水着だった。
まさか、これを穿けと……?
「いやいやいや! これは無理、無理ですって! ビーチにいる人も、半ズボンみたいな恰好してましたよ!?」
「そういう人もいるけど、君達は鍛えているんだからそっちが似合うよ」
「ほら、私達の気持ち分かったでしょ」
「私達全然気にしないから、さっさと穿いて海に行けば?」
「……ごめん。俺達が悪かった」
リビングの大きなガラスの扉の向こうには、太陽の光を反射させた水色に輝くプールがある。水面のその綺麗さと、室内にいても汗が滲む気温。
それらがこの水着でもいいからさっさと着替えろと囁く。
4人でどうしようかと悩み、それでもやっぱりプールには入りたいと覚悟を決める。近くの店に買いに行くか、この水着をおとなしく着るか、後はそれだけが問題だ。
そんな時、唐突に玄関の扉が開く音が聞こえた。続いてリビングの扉も開かれると……。
「よう、元気だったか! さあ海に出発だー!」
「久しぶりだ……あれ、まだ着替えてなかったのか」
「カイトスターさん、レイダーさ、ん……」
久しぶりに会ったというのに全く変わらない2人が、まるで自分の家のように入ってきた。けれどぼく達が驚いたのはそこじゃない。
「その恰好は」
「その恰好って、海に行くんだろ? 準備して来たぞ」
「あ、いや……」
カイトスターさんは、素肌に白い袖なしのベスト。レイダーさんは首元が大きく開いた半そでシャツ。下には先ほどクレスタが困った顔をしたものと同じ形の水着、そしてサンダルを穿いていた。
頭にゴーグルをつけ、手には輪っかになった浮き袋。自分達の親ほどの年齢の大人でさえこの見た目なのだから、恥ずかしがるぼく達の方がおかしいのだろう。
レイダーさんに至っては、この国に移住してまだ2年だというのに……馴染み過ぎだ。
「ほら、早く着替えた着替えた! シークの事で色々動いてるのは知ってるけど、頑張るだけじゃ潰れるぞ。俺たちがいる時くらい少し遊べ!」
「ディズ、おい。どうするよ」
「どうするって、拒否出来る状況にないだろ」
「おいアンナ、ミラ。お前達も着替えろよ、俺達も着替えるからよ」
「うっそ!?」
アンナがものすごく困った顔を向ける。嘘と言ってくれ、お願いだ……そう言いたいんだと思う。クレスタは着替えるため構わず隣の部屋を借り、ぼくも仕方なく後に続いた。
* * * * * * * * *
「あーこの恰好、他の国だったら変態扱いだよな」
「半袖シャツの丈で隠れて、下半身に何も穿いてないみたいに見える」
「なんつうか、これって実質色々と丸分かりだろ、恥ずかしいんだけど」
「油断したらはみ出そう。あ、クレスタちょっと見えてる」
「え、嘘っ!?」
「嘘」
「お前っ!」
砂浜までそう距離がないからと、ぼく達はみんな水着のままで向かうことになった。
ぼくは青に白いラインが入ったもの、クレスタは黄色と白のグラデーション。見た通りのブーメラン型って言われたけど、パンツより布地が少ないって……どうなんだろう。
ぼく達、騙されてないよね?
「んで、ミラは水着の上にシャツ着てんのか」
「だって、だって! いつもローブ着てる私を思い出してみて? 真逆なのよ? これでも頑張ってるんだから!」
ミラの水着はリディカさんから地味すぎて不安と言われ、カイトスターさんからも年寄りじゃないんだからと言われたデザイン。袖なしのピッタリとしたワンピース風で、胸とウエストにはフリルがついている。スカートに見える部分は短いキュロットかな。
色も黒だし鮮やかではないけど、可愛らしいとは思うんだ。それにまだ直視しても許される気がする。
この国で言う派手さと地味さは、どうやら水着に限って言えば露出度で決まるのかもしれない。じゃあぼくも派手な格好ということ?
「で、アンナは結局それにしたんだね」
「……だって、サイズがこれしかなかったんだもん」
「鍛えてゴツくなったもんな」
「違うもん! 違う、成長したの! ちょっと、見ないでよ」
アンナはえっと……「せぱれえとタイプ」という「びきに」を身に着けている。上下に分かれた水着はお腹が丸出し。いかにも防御力がなさそうで、うっすら割れた腹筋は水着感を台無しにしてる気もする。
あと、あんまりしっかり見ちゃいけない気がする。それに、アンナが自分の胸を邪魔と言っていた意味も何となく分かった。
「さあ着いたぞ!」
「うわぁ……」
「綺麗! 空の色がそのまま映り込んで、波が宝石みたいにキラキラしてる!」
「お、アンナちゃん。とてもいい感想だ」
背が高い木がまばらに生えた林の中、獣道をほんの1分も歩けば急に視界が開けた。
目の前には白い砂浜。快晴の空の下、遠浅の海は砂地の海底が透けてエメラルドの色をしている。空よりも鮮やかな波は、砂浜へと押し寄せては消えていく。
海を見る機会ならいくらでもあったけど、こうして遊びに来るなんて1度もなかった。ぼく達はシークさんの事でなんとかしなきゃと焦り過ぎて、余裕がなかったんだ。
息抜きをしたり、少し違う場所に立ってみたり、違う視点で物事を見たり……もっと色々な事をするべきだったのかもしれない。
「こんなに日差しが強いのに、みんな日焼けも気にしていないみたいね」
「こう見ると本当に大胆な恰好だよな。上に半袖のシャツを着てる方が恥ずかしく思えてきた」
「ねえねえ、海に入ってみない?」
「そうだね。もうここまで来ちゃったんだから、楽しむしかない」
海まで一番長くて100メーテ程はありそうな砂浜が、東西に多分3,4キロメーテ程は広がっている。それに、この国の沿岸部は一部山が迫り出していたり、港が築かれているけれど、殆どが砂浜だ。
どこの砂浜も綺麗だし、広過ぎるし、わざわざ人が密集する必要がない。だから目の前の視界に入る人の数はそれほどでもない。恥ずかしがる方がバカらしくなってきた。
ぼく達は波打ち際まで歩き、持ってきた荷物を纏めて置く。シャツを脱げば、その瞬間から肌が焼けていくようだ。
「いいね、ディズは随分と逞しくなったな。大剣は特に腕や胸板が鍛えられるし、その辺を歩けば女の子に寄って来られるかもな!」
「クレスタはガリガリかと思ったら意外と細マッチョだったか。2人とも彼女を作る気があるなら勇気を出して声を掛けてきなよ」
「はっ? え? 俺達が!? むり、無理ですよ! 俺は今の旅が楽しいんで! 彼女とか、まだいいんで!」
「だ……って、ぼくも見ず知らずの人にそんな、下心丸出しで近寄るような真似は流石に……」






