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【Breidablik】魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。  作者: 桜良 壽ノ丞
【19】Top Secret~強く、悲しい覚悟~

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Top Secret-06


 * * * * * * * * *




 翌朝、シークは目が覚めるとすぐに顔を洗い、寝癖を直し、宿の食堂へと向かった。空腹でとにかく何か食べたかったのだ。


 時間は朝の6時。ひと眠りするには遅いが、皆が起きるまで待つには長い。


 シークは朝食後、ある程度の支度を済ませると宿の庭に出た。腕や足の筋肉をほぐし、バルドルを鞘に入れたまま素振りや技の型の練習を始める。


 じっとしていてもげんなりする気温の中、シークの額からは汗が零れ落ちた。


「水平になっていないよ。左から振り切った時、少し右上がりになる癖があるね」


「どれくらいだろう、もう一回見てくれるかい」


 シークが水平に振ったつもりでも、傾きが5度程ついているという。空中で回って振り下ろせば、回る事に意識が行き過ぎていると言われてしまう。


 これまでは形さえ出来ていれば、後は勢いだけで良かった。実際にバルドルもそこまで言うつもりはなかった。


 けれど今は明らかに完成度への要求が上がっている。倒す以外の方法を失った今、センスだけに頼って戦うのは心許ないからだ。


 シークは鞘に入ったバルドルを再び水平に振る。剣閃と同じ振りだ。


「今のはどうだい」


「修正しようとしている努力だけは合格」


「実質不合格じゃん」


 たった1日の素振りくらいで上達出来るはずもない。シークは肩を落とし、腕で額の汗をぬぐった。


「お、こんな朝からやってるな。おはよう、シーク」


「おはよう、ゼスタ。ケルベロスもおはよう」


「おう! 見ろよこのゼスタの眠そうな顔と寝癖! やっぱりシャキッと起きるには俺っちとバルドルが揃わなきゃ駄目だな。子起こし唄が通じねえ」


「あー……バルドルがいなかったから、今朝は目覚めがわりかし良かったんだな」


「どういう事だい? それと、僕にもおはようを貰っても?」


 シークに「無自覚もほどほどにしろ」と言われるが、バルドルは本気で分かっていない。いつも心地よい朝の目覚めを提供しているつもりなのだ。


「ん~おはよう、ゼスタ、シーク。今日は早いのね」


「おはよう、グングニルも」


「あの、僕にもおはようを……貰っても?」


「おはよう、バルドル。今日はご機嫌ね、朝から特訓に付き合ってるせい?」


「ご覧の通りさ! シークはまだまだ伸びしろがあるからね。指導していて楽しいよ」


 ご覧の通りと言われても、バルドルの見た目はいつも通りだ。しかも鞘の中に隠れているため、本当にいつも通りかさえ判断がつかない。


 遅れてイヴァンもやって来た。ゼスタとビアンカとは違い、もうしっかりと着替えていて、宿を出る準備が済んでいる。


「おはようございます。あ、ゼスタさん、ビアンカさん、朝ご飯の準備が出来たそうですよ」


「じゃあ飯食って片づけたら、管理所に向かわなくちゃな。シークもロビーでチェックアウト出来るように待っててくれ」


「分かった」


 シークはバルドルを背負い、特訓をやめて戻ろうとする。イヴァンはそんなシークを引き留めた。


「シークさん」


「あの、僕にもおはようを……」


「おはようございます、バルドル。あの……シークさん。アレスと色々と話していたんですけど、この辺りでモンスターを相手に、みんなの動きをチェックするのはどうだろうって」


「その案には僕も大賛成だね!」


「ボク達にとっても、イヴァンさん達にとっても、大変お得です!」


 アレスは一石二鳥の名案だと言いたいらしい。だがシークは首を横に振って却下する。


「強くなるために何かを惜しむつもりはないよ。でもアルジュナを扱える人を探して、一緒に強くならなくちゃ意味がない。まずはそのために動かないと」


 あからさまにガッカリするバルドルに比べ、アレスは聞き分けが良い。


「そうでしたね……アルジュナの事を考えてあげるべきでした。皆でモンスターを倒す……いえ、みんなで強くならなくては」


「アレスの言う通りですね。それに、この暑さの中で戦闘をしたって、1体ごとに休憩しなきゃいけません。それなら効率を考えて、もう少し北に向かった方がいいかも」


 鍛練をするにしても、環境を変えなければならない。4人と5つの武器は揃って宿をチェックアウトし、そのまま管理所へと向かった。


 赤いレンガの街並みに赤土の道。後進国だがその景色はとても素晴らしく、街並みと青い海のコントラストは特に芸術的だと評判だ。


「幻想的よね、赤い街並みの向こうに真っ青でキラキラ光る海!」


「はぁ? 幻想? 暑さで蜃気楼でも見えてんのか」


「もう、情緒ってもんがないんだから」


 ビアンカはゼスタに「感動を共有する相手を間違った」と文句を言い、イヴァンに景色の良さを語り始める。外の世界の何もかもが物珍しいイヴァンは、ビアンカと共に目を輝かせていた。


 しかし、一行が向かう先は管理所。いつもながら、持つ感想はただ1つだ。


「この世で最も情緒がない場所に向かってるんだから。ほらついたよ」


「あー……暑かろうが寒かろうが、本当にどこでも一緒だな」


 管理所はどこでも全く同じ造りだ。4人は初めて訪れたとは思えない程慣れた様子で受付に向かう。数人がシーク達に気付いてヒソヒソと話し始めたかと思うと、あっと言う間に大勢が押し寄せる。


「シーク・イグニスタだ!」


「ゼスタ・ユノーに、ビアンカちゃん!」


「なんで背中に弓を担いでいるんだ?」


「おい、その横……獣人、だよな?」


 周りを囲まれ、イヴァンは少し怯えている。耳が垂れ、尻尾を膝の間に挟んでいるのを見て、シークはイヴァンの肩に手を回して落ち着かせる。


 騒ぎを聞きつけ、管理所のマスターがカウンターの奥から出て来た。元々色黒な人が多い土地だが、マスターは中でもいっそう日焼けして見える。


「ああ、これはこれは!」


「あ、どうも……」


 マスターが深々とお辞儀をすれば、シーク達も反射的にお辞儀を返す。イヴァンも見様見真似だ。


「ようこそドドム管理所へ! ディズ・ライカーさんのパーティーから伺っております。さあシーク・イグニスタ様、ビアンカ・ユレイナス様、ゼスタ・ユノー様、そしてイヴァン・ランガ殿。どうぞこちらへ」


「む……僕達にもどうぞこちらへを貰っても?」


「バルドル、君達が良ければ一緒に来てくれるかい」


「君が言うのなら仕方がない」


 シークがバルドルのご機嫌を取る。マスターは海での素潜りが趣味だと言いながら、色素が抜けたパサパサの髪を掻き上げる。


「落ち着いて話が出来る場所に移動しましょう。応接室へどうぞ」


 4人と5つが通された応接室は、ソファーの配置もテーブルの配置も、絵画や花瓶の位置までも各地の管理所と一緒だった。この部屋の外がどこの町なのか、分からなくなりそうだ。


「さて。ディズ・ライカーさん達から、ここまでの事を伺っております。アークドラゴンについてもお聞きしました。我々が出来る事はいたしますが……ライカーさん達とは本当に一緒に旅を?」


「はい。4人には先に馬車でこの町に向かって貰いました。出来ればレンベリンガ村の守りを少し強固にして頂きたいのですが……その、アダム6世という男性を守って頂きたいんです」


「アダム6世という人物の話も聞いております。重要な人物という事であれば早速。皆さんは一刻を争うと聞いておりますので、行き先が決まっているのであれば警備艇を出します。準備が整いましたらお知らせ下さい」


 次の行先と言われても、それを決めるためにここに来たのだ。まだ決めていないとは言い出し難いのか、4人はしばし考え込む。


「どう……しよう」


「そうね。ねえ、困った時はギリングに戻りましょ? 装備のメンテナンスも必要だし」


「あっ」


 ビアンカの言葉にイヴァンが思わず声を上げる。


「ぼく、弓が上手くてパーティーに入ってくれそうな人、知ってます!」

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