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【Breidablik】魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。  作者: 桜良 壽ノ丞
【19】Top Secret~強く、悲しい覚悟~

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Top Secret-03



 ディズとクレスタの言葉にも決意が窺える。パーティーを組む事にすら難儀していた4人の新人は、きっと管理所で昇級審査を受け、レインボーストーンに触れる時に驚く事だろう。


「俺、教師の資格を取ったら管理所に相談して、いずれムゲン特別自治区に赴任させて貰うのもいいかと思ってるんだ」


「それいいですね。魔王教徒制圧の時、ナンのみんなには会っていますからね」


「その時は君達との武勇伝を利用させてもらうよ」


 テディがシーク達にウインクをし、珍しくニッと笑う。一緒に旅した経験を存分に利用すると宣言して、シークの肩を宜しくと叩いた。


「あー地図やマッピング、偵察……テディさんがいないと色々大変そうだわ。私、知らない所の地図を見るの苦手」


「放っておいたら見事に違う方向に行こうとするもんな。見てる分には面白いけど、地図は俺が引き継ぐ」


 頬を膨らませてムッとするビアンカとゼスタのやり取りに、皆も笑いが出る。


 レイダーはアダムに相談し、アルジュナの代わりの弓を1つ受け取った。バルドル達のように魔力を込めようと入手していたものだ。


 その弓はアルジュナよりも格は落ちるが、アダマンタイトと、バルンストックの代わりにザックーム材が使われている。


「うん、俺の手によく馴染む」


 他の者達は少し羨ましそうだ。気付いたレイダーは、他の者にもとアダムに話を持ちかけた。


 アダムはバスター制度に詳しくない。バスター制度に沿う武器が何かを説明すると、アダムは立ち上がって部屋の隅の扉を開けた。様々な術符が下げられた一角、その扉の中の棚には、おびただしい数の武器が置かれていた。


「すっげ! 見た目爺ちゃんなのに、こんなに武器を隠し持ってるとは誰も思わねえわ」


「ちょっとクレスタ! でも……凄いわね。剣がないかなあ」


「バルドル達のようにしてやるには少々足りなかった武器達だ。それでも中には匹敵するものもある」


 そう言うと、アダムは持たせられるものを選んでいく。カイトスターが大剣を1つ受け取り、そのままディズに手渡した。


「アダマンタイトが主に使われている大剣は1つか。これはディズ、君が使え」


「えっ、いいんですか?」


「俺の武器はこれでいい。なんてったってオリハルコンだからな。アダマンタイトに劣るとしても、俺の愛剣はあと1年しか使わないのが惜しいくらいの超逸品さ」


「俺がアダマンタイト製の武器を……アダム様、ゴウンさん、有難うございます!」


 アダマンタイトが殆どを占める大剣を譲り受け、ディズは目を輝かせる。


 シャルナクが作った今までの大剣が名残惜しいようでもあったが、それをぎゅっと抱きしめてからアダムへと渡し、新しい大剣をまた抱きしめた。


「あーあ、僕も拾われた時にあんな風にされたかったよ」


「まだ言うのかい。じゃあ今ぎゅっとしてあげてももう遅いかな、やめておくよ」


「ああ、シークってば酷いんだから! 僕からは動けないのに、あんな風に大事されたいと羨んでいる武器の気持ちを考えておくれよ!」


「分かった分かった。ほら」


「……うん、悪くないね。過去の事は水に流そう、その……君に過去を渡すから、手がある君が代わりに流しておくれ」


「なかなか難しい事言うね。バルドルが共鳴した時についでに自分で流してよ」


 バルドルとシークが訳の分からない掛け合いをしている間に、ディズだけでなくアンナも武器を入れ替える。


 残念ながら銃と杖はなく、クレスタとミラは更新が出来ない。それでも代わりにアダマンタイト製のブレスレットなど数点を貰ったようだ。


「イヴァン、君はいいのか? アレスに選ばれ、これからアークドラゴンとの戦いに出なくちゃならない。管理所の許可が出るかも分かんないし」


「ぼくはアルカの山に祝福されしムゲンの狩人、ランガの息子です。出来るのかと言われたら不安ですけど、やりますよ。父様も母様も、分かってくれます。管理所だって、事態を考慮してくれればきっと」


「ん~イヴァンがその気なら、止められないけど……」


「はっはっは! シークくん、イサラ村で君達に声を掛けずにはいられなかった俺達の気持ちがようやく分かったかな」


「そうですね、今考えると無茶だと思われて当然でした。イヴァンに君1人でナンまで帰ってくれって言うようなものです」


 シーク達が気まずそうに俯き、ゴウン達がまた笑う。残る1人、弓使いに誰を選ぶかを考えながら、皆は1年後の日付をアダムと示し合せた。


「今日は……8月15日か。正直、8月の暑い中で戦うのはコンディションが悪すぎる気がする」


「そうね、地図で見ると位置的にはここの真西……いや、距離で言えば真東ね。高原のここでさえ30℃を超えるんだもん、ここと同じとしても、この環境では戦えないわ」


「せめて10月頃にできねえかな、その頃ならマシだと思う」


 シーク達は万全の体勢で挑むとして、環境についても色々と考えている。


 バルドルが1年と言ったのだから、1年は掛かる。前倒しではなく後ろにずらすしかない。アダムは良い判断だと言って頷いた。


「来年の10月の終わりに私も現地に向かおう。長旅になるが、ゆっくりと向かえばそう辛くもあるまい。それに魔王教の信仰の対象は魔法そのものだ。私がいなくなることを止めるようであれば、1年の間に私が何とかしよう」


「アダム・マジック……いや、アダム6世。その時は俺達がお連れしますよ。来年の今日、我々が再びここに来ます」


「有難う、この長く生き過ぎた老いぼれの最後の仕事だ。ようやく、ようやく決着がつく」


 アダムは嬉しそうに笑みを浮かべ、リビングの椅子にゆっくりと腰を下ろした。


「完璧になるのに、移動の時間を考えると1年は短いわ。すぐに発ちましょ」


「そうだね。アダム・マジック、お力を貸していただくに相応しいバスターになってみませます。それまでどうかお元気で」


「ああ、頼んだ。今回の復活で、どうか終わらせてくれ」


 それぞれがアダムと力強く握手を交わし、一礼してアダムの家を出て行く。


 強くならなくてはならない期限が迫っていると思うと、シーク達の表情はとても固い。


「シークくん、ゼスタくん、ビアンカちゃん。俺達はもう少しここでアダム・マジックに話を聞いて、付近のアジトの跡地を調べてから移動する。ここでお別れだ」


「えっ!?」


 ゴウンがアダムの家の扉の前で、最後尾から声を掛ける。突然の事にシークだけでなく、ビアンカとゼスタも驚いてひっくり返ったような声が出てしまう。


「イヴァン君の事は管理所からも報告してもらうが、俺達の口からご両親に伝えた方がいいだろう。それから俺らなりに管理所と連携してサポートを続ける」


「みんな元気でな、本当に楽しかったよ。おかげでバスター人生で一番濃い1年だった。それとアルジュナ、君の決断を応援する。アークドラゴン戦で活躍する姿を見せてくれ」


「良ければ俺のマッピングノートを使ってくれ。リディカさんのモンスター手帳と合わせれば、強くなるのに有効なモンスターの生息域が分かり易いはずだから」


 ゴウン達からの力強い見送りの言葉と、テディから差し出されたぎっしりと書き込まれた地図と手帳。それらを有難く受け取り、シーク達は深々と頭を下げる。


「私以外に女がいる旅って、ビアンカちゃんが初めてだったの。本当に楽しかったわ。アンナちゃん、ミラちゃん、慕ってくれて有難う。いつか是非バース共和国のメメリ市を訪ねて。昔話でもさせて欲ちょうだい」


「はい! 必ず!」


「リディカさんに教わった魔法のテクニック、忘れません!」


「また……あーだめ、別に最後じゃないの分かってるのに……」


 ビアンカが目に涙を浮かべ、堪えきれないその筋を指で拭う。リディカがふふっと笑いながら自身も涙ぐみ、ビアンカをぎゅっと抱きしめた。

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