表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Breidablik】魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。  作者: 桜良 壽ノ丞
【13】GO ROUND~季節とこの世の移り変わりを~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

181/312

GO ROUND‐13

 

 アルジュナから放たれた光の矢は、アークウルフの前足の付け根を貫通した。


 今までの弓を使っていれば、やじりが深く突き刺さっても、まさか矢羽ヴェインまでける事などなかったはずだ。


「おい次! 何やってんだよ、まさか矢が1本しかねえ訳じゃないよな? ほらもう1発ぶち込め!」


「わ、分かった!」


 騎士ナイトの称号を持つレイダーであっても、アルジュナの気迫には何も言い返せない。そんな様子を、ゼスタとビアンカが口をあんぐりと開けたまま見ている。


シークは開いた口をなんとか閉じ、そしてボソリと呟く。


「アルジュナ……どうしちゃったんだ」


 バルドルが何でもないかのようにその疑問に答える。


「いつも通りさ。アルジュナは、モンスターと戦う時だけは、まるで『弓が変わったよう』になるんだ」


 シークの視線の先では、アルジュナの言うがまま、全力で矢を放つレイダーの姿がある。


 カイトスターの斬撃がアークウルフの背中を深く刻んでいる事すら、本来は賞賛されるべき事だ。けれどアルジュナを手にしたレイダーは次々と矢で貫き、傷つけるどころかアークウルフの肉を削り飛ばす。


 あっという間にアークウルフは倒され、テディがライトボールの光に照らされたその死体を写真に収める。レイダーが使える矢を回収した後、リディカが魔法で焼き払った。


「いやあ、驚いた! 矢の強度がむしろ足りなくてどうしようかと。流石だアルジュナ、これならなんとかパーティーを支えられそうだ」


「そ、そうかな。ボク……1本じゃ何も出来ないし、使ってくれたレイダーのおかげ……だよ」



 アルジュナはレイダーに褒められ、自信なさげに語尾が小さくなる。先程の気迫は何処へ行ったのか。


「これじゃあ俺の出番が全くないじゃないか。残りの炎剣アレスは俺が貰いたいくらいだ」


「アルジュナ、俺は君からみてどうだった? 持ち主として認めてくれるかい」


「ボク……ボクで役に立てる? 何にも出来ないけど……ボクを必要としてくれるの?」


「ああ、勿論さ! 戦いは勇ましく、アーチャーの全てを把握している。こんな逸品、手放したくはないよ! おまけにこのなめらかなリムに、迫力あるハンドル! 眺めているだけで時間を忘れそうだ」


「そ、そう言って貰えるなら……」


 ややマニアックなレイダーと、励まされるアルジュナ。レイダーからの一方的な信頼はむしろちょうどいいのかもしれない。絶大な信頼と愛着をぶつけられ、アルジュナも嬉しそうだ。


 きっと良いコンビになる、少なくともその場の皆がそう思っていた。


 辺りは再び静寂に包まれた。ライトボールを消すと、また綺麗な星の瞬きが空一面を覆い始める。


 戦いを行っていないシーク達は、今日は自分達が見張りをすると言ってゴウン達を寝かせた。実を言うと、故郷が襲われるかもしれない、シャルナク達が危ないかもしれない、そう思うと寝てなどいられなかったのだ。


 ゴウン達を起こさないようにと声を出すこともなく、灯りはランプ1つ。満天の星空を見上げながら、シーク達はこれからの事を考えていた。





 * * * * * * * * *





「じゃあ……ここでまた、一旦お別れだ。すまないが俺達は暫く町に寄る事が出来ない。マイムの管理所で事情を報告して、ムゲン自治区にバスターを向かわせるように依頼して欲しい。無事が確認出来たら、俺達もまたギリングまで向かう」


「分かりました。名残惜しいですけど……今は時間がありません。どうかお気をつけて」


 翌朝、いよいよ2パーティーが別行動となるため、それぞれが挨拶を交わしていた。武器達も一応は人間の真似をして挨拶を交わしているようだ。


「あんた大切にしてもらうんよ? 不安でも泣いたらいけんよ、好きごと使うてもらい。昨晩もようやったやないの。凄かったばい」


「うん、グングニル……でも、レイダーと、使った矢が凄かっただけかも……」


「自信持てって、お前は昔っからそうだよな。俺っちがアークドラゴンをバッサリ叩き斬ってやっから、今度はテュールとアレスも揃ってまた会おうぜ!」


「うん……ボク、ちょっと頑張れる気になったよ。ケルベロスも元気でね?」


「えっと、それじゃあ……じゃあねアルジュナ。えっと……じゃあね」


「バルドルは……僕が封印される時も同じようなお別れを言ったね。……変わってなくて安心したよ」


 別れを惜しむ時間はいくらあっても足りないものだ。ゴウン達はなかなか動きだせずにいるシーク達に手を振り、振り返らないまま北へと向かって歩き出す。シーク達よりやや年上のテディだけが、振り返って再びにこやかにシーク達に手を振り、小走りでゴウン達を追った。


 ゴウン達はシーク達が早く歩き出せるよう、敢えて振り向かなかったのだ。


「アルジュナとの再会も束の間だったね」


「すぐに会えるさ。今は目的があるからね、武器としての存在意義に徹する事にする」


「おめーさ、もうちょっと気の利いた見送りしてやれよ。じゃあねしか言ってなかっただろ」


「君達が僕の言いたい事を全部言ってしまったんじゃないか。アルジュナも300年前の事を思い出して懐かしんだのだから、むしろ一番いい挨拶だったと思うのだけれど」


「何がね。要らん事はようけ喋るくせに」


 モンスターは相変わらず殆ど現れないが、夏の平原は暑く、汗がダラダラ流れる。ペースを上げて歩いているが、ビアンカとゼスタがシークに対し、アイスバーンやブリザードなどの魔法を強請る時間の間隔が狭まってくる。


「ああ暑い! このままマイムまで歩くの無理じゃね? ここ数日、ここまで暑くなかったじゃねえか」


「髪も体もべとべと! あーもうお風呂入りたい。シーク、アクア唱えて! 水に濡れてサッパリした気分だけでも味わいたいの」


「いいけど……風邪ひかないでよ? ケアじゃウイルスまで消せないからね」


「あっ、俺も俺も!」


 シークは自分達3人にアクアを唱えた。バケツをひっくり返したような水に包まれ、全身びしょ濡れになる。シークは吹っ切れたのか一瞬ニヤリとし、同時にブリザードも畳み掛けた。


「うっわ! さむっ! あーでも気持ちいわ」


「へっくしゅ! 一気に汗が引いたわ! 魔法って便利ね、エアロでパンツ覗く馬鹿もいるけど」


 ぐちゃっと音を立てる足具が全く気にならないのか、3人はすっかり元気を取り戻し、また軽快な足取りになる。バルドル、ケルベロス、グングニルはアクアを丁重にお断りしたが、彼らはそもそも歩かない。


「……なあ、マイムまで歩いて2日、結構時間が惜しいんだけど……流石に昨日寝てねえし、夜通し歩くのはつらいかな」


「いけなくはないけど……歩きながら寝ちゃいそう」


「ねえ、見て見て! 街道を馬車が通ってる!」


 街道に差し掛かる所で、ちょうど馬車の姿が見えた。ペースはゆっくりだが、2頭の馬の動きは軽く、荷物は載せていないらしい。シロ村からマイムまで向かう村人のようだ。買い出しにでも行くのだろう。


「すみません、乗せて下さーい!」


「おっと……旅の方、いや、聖剣バルドルのご一行様じゃないですか! どうしたのですか、そんなにずぶ濡れで」


「あ、いや、暑かったので涼もうと思って」


 シーク達は乗せてもらえないかと駆け寄った。男は勿論だと頷いて3人を乗せてくれた。金は取れないと言う男に1万ゴールドを強引に支払うと、幌の中に乗り込んだ。


「まさか村を救ってくれた皆さんが、もうギタカムアから離れていたとは」


「話せば長くなるんですけど、実は昨日寝てなくて……歩き疲れていた所なんです」


「そうですか。時折馬を休ませますが、揺れと音の中でも眠れるようなら、どうぞ寝て下さい。モンスターが出たら……」


「その時はすぐ起こして下さい」


 男の厚意に甘え、シーク達は馬の蹄や荷車の軋む音すらも子守唄代わりにし、すぐに眠りに落ちていった。


 勿論、バルドル達の自称子守唄を断って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ