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夜にはラナメリットが訪れて、顔を完全に治してくれた。
神妙な顔で治療を終えると、傷が残らなかったことに安堵して抱きつかれてしまったけれど、何故か一緒に来ていたルグビウスが羨ましそうに見ていた。
そもそも、ついてこないでいただきたい。
ルーヴィッヒも帰宅していないというのに、身分の高い客人三人に使用人達が慄いている。
そして翌朝は学校へと登校した。
今までどおりラナメリットにむらがろうとした各生徒達を丸無視して、リッテに一直線の姿にみんな度肝を抜かれていた。
生徒のあいだではリッテはラナメリットを気に入らないのだとか、ラナメリットはリッテに怯えているだとかの噂がバンバン流れていたのだから当然だろう。
ラナメリットはリッテのアドバイスどおりに男子生徒には近づかなくなった。
近づいたらついつい優しくしちゃうからと、鉄壁の防御になっている。
そしてリッテもリッテで好き放題に噂したことでバツが悪いのか、女生徒には距離を置かれている。
現在二人で孤立状態だ。
ラナメリットは満足そうだし、リッテもそうなので二人とも周りが変わっても特に気にすることはない。
さらに翌日、ルグビウスとラナメリットが、ルーヴィッヒとリッテの婚約が発表された。
迅速すぎる。
その発表にラナメリットはともかく、リッテに関しては激震が走った。
(ですよねー……)
教室での授業中、思わず乾いた笑いが出そうになるほど周りの反応は凄かった。
ほぼ接点が無さそうに見えたのだから、驚くだろう。
そもそもゲームはラナメリットが婚約したらリッテは学園を去るはずだったのだ。
そのとおりになりかけていたのに、一発逆転の状況になっているのだから何がどうなるのかわからないなあと思う。
しかも。
ちらりと机の上を見れば、ロリータが頬杖をして寝そべっている。
ロリータは、まだときおり現れる。
といっても今は何もしない。
たまにリッテやラナメリットが王子二人といるときに現れて、にやにやしているだけだ。
結局この世界は何の媒体の世界なのか、混ざり合っているのならどれの影響が強いのかわからないままだ。
「まあいいか」
教師の後ろ姿から窓の方へと目をやり、空を見上げた。
現実は創作物みたいに上手くはいかないし、突拍子もないものだった。
憧れの世界かと思いきや、わけがわからず翻弄されっぱなしで大変だったけれど、リッテとしてはこれ以上なく満足な状態だ。
「事実は小説より奇なり、なんて言葉があったな」
ふと呟いたあと、このあとの昼休みにラナメリットと王子二人の四人で昼食を食べる事を思い出して、リッテはこそばゆそうに笑っていた




