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 ロリータは喋る妖精ではないらしく、頬をさらにパンパンに膨らませるとぷいと顔を背けて消えてしまった。


「えぇ⋯⋯めっちゃ気分屋だ。あの子本当何なの」


 リッテ以外には見えていないようだし、魔法を使うようだけれどその意図がまったくわからない。

 困惑で頭にハテナを大量に浮かべながら、リッテは首をひねるばかりだ。

 とりあえず給湯室に逃げ込んでしまったからにはお茶を準備するかと結論づけ、テキパキとティーカップなんかを準備する。

 ティーポットを準備してカップに紅茶を淹れ終えるとそれらをトレーに乗せて、生徒会室へと戻った。


「お待たせしました。ソファーで飲みますか?」


 生徒会室に戻るとルーヴィッヒは自分の机で仕事を再開していた。

 書類をめくりながら目線をチラリとこちらへ向ける。


「いや、こちらへ頼むよ」


 言われるままリッテはルーヴィッヒの机へと近づいた。


「どうぞ」


 ティーカップを手の届く場所に静かに置くと、ルーヴィッヒはペンを置いた。


「ありがとう」


 そのままティーカップへ手を伸ばしたので、思わずじっと見てしまう。

 紅茶は真知子のオタク生活を支えるために自分の好みで淹れていたので、人には飲ませたことがない。

 自分は美味しいと思うけれど、他人はわからないので紅茶の腕は自信があるようでないのだ。

毎度ちゃんと淹れられているか心配になる。

 形のいい唇でルーヴィッヒが紅茶を一口、口にする。

 思わずどうだろうとハラハラしていると、ルーヴィッヒの琥珀色の瞳と目が合った。

見つめすぎたと我に返り、慌てて一歩分後ろに下がる。


「私も休憩しますね!」


 トレーにはリッテの分のティーカップも乗っている。

 慌てて自分の机に行こうとしたけれど。


「君のお茶は」


 ルーヴィッヒの言葉に踏み出そうとした足を止めた。

 思わずルーヴィッヒを見やると、口元をほんのわずかに綻ばせている。


「案外美味しい」


 ルーヴィッヒの一言に、リッテは一気に脳内のテンションが上がった。


(褒められた?これ褒められたよね)


 普段は王城で最高級のものを口にしているだろうルーヴィッヒは、舌も肥えているはずだ。

 それでもたかがリッテの淹れた紅茶を褒めてくれたのだ。

 嬉しくないわけがない。


(優しい!さすが推し!設定も優しくて穏やかってあるもんね)


 その通りだと内心うんうんと首を振る。

 それにしても人に飲ませたことはなかった、自分の趣味が褒められるのはいい気分だった。


「そうですか!」


 ドヤ顔でむふーと胸を張ると、ルーヴィッヒが小さく笑い声を上げた。

 なんだと思うと、おかしそうにリッテの顔を見上げている。


「淑女のする顔じゃないな」

「んな!」


 憤りに言葉が詰まったけれど、くすくすとからかうような顔で笑われてリッテの胸が動揺でドキリと跳ねた。

 そんなふうに笑う顔はゲームでもなかった。

 ゲームのルーヴィッヒはひたすら優しく穏やかに微笑むばかりだったのに。

 なんだか酷く人間臭い表情に、リッテの頬に熱が灯った。


「ちゃ、ちゃんと淑女です!」


 なんとか反論して、でも顔を見ていられなくてプイと顔を背けた。

 そんなリッテに、またくすりとルーヴィッヒが笑う。


「それは悪かった」


 そっとこっそりルーヴィッヒの顔を盗み見れば、年相応の少年の笑みだ。

 それを視界に入れてリッテは唇をきゅっと引き結んだ。

 そんなに笑わないでほしい。

 ゲームのキャラクターなのに動揺してしまう。

 心臓が忙しなく動くのを、ルーヴィッヒから目をそらすことで何とか落ち着けた。


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