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「リッテ、顔が!」


ルグビウスから手を離すと、ラナメリットがリッテへと駆け寄ってきた。

ボサボサの髪にぐしゃぐしゃに泣いた顔。

そしてとどめが赤く腫れた頬と切れた唇だ。

ラナメリットには随分と酷い姿が目にうつっていることだろう。


「私を助けようとして、ごめんなさい」

「大丈夫だよ。そんなに痛くないから」


 正直今アドレナリンが大放出している気がするので、痛みをそんなに感じない。

 大丈夫だというのは本音だ。

 むしろ帰宅してからが怖い。


「私、傷を治すわ」

「いや、暴走したあとだろう?不安定になっているだろうから今使うのは危ない」

「そんな……」


 ルーヴィッヒの説明に、ラナメリットが愕然とした。

 慌てるようにルグビウスが「王城から腕のいい医師をすぐ派遣する」と慰めている。


「検査して問題なかったら使えるようになるよ。ラナメリット嬢は王城で保護するから。リッテ嬢は家に連絡がいっているから屋敷まで送らせよう」

「わかりました」


 テキパキと決めてしまったルーヴィッヒの言葉に頷くと、何故かじっと見つめられた。

 何だろうと思っていると、少年らしい小さな唇が動く。


「明日、元に戻り次第、お見舞いに行く」

「へ?はぁ、わかりました」


 ルーヴィッヒこそあれだけ蹴られたのだから療養が必要なのではと首を傾げたけれど、さっさと馬車に乗せられ帰宅させられた。

させられたのだが、屋敷には鬼がいた。

 クラバルトだけではない。

 何故か父親と母親もだ。

 何故いるのか。

 馬車のなかで「何故お見舞い?」なんて考えていたのも吹き飛んだ。

 まずはクラバルトに「何で大人しく待っていない」「淑女の顔を傷つけるな」とガミガミと説教された。

 恐ろしかったと一言だけ言っておこう。

 そして両親が揃っていたことに目を丸くして心配したのかと問えば、あたり前だと返された。

 ほっとかれていて愛されていないのだと思っていたら、子供というのは窮屈なものが嫌いだからなるべく自由にさせていただけらしい。

 どうやら両親揃ってそんな性質だったようだ。

 よくそんな二人からリッテみたいなのが産まれたなと感心する。

 愛されていないと思っていたのは、ただの教育方針である放任主義を勘違いしていただけだったのだ。

 わかるわけがない。

 リッテはかまってほしくて仕方なかったのを真知子は知っている。

 だからリッテがどう思っていたか、どうしてほしかったのかを素直に伝えた。

 それを聞いたあと、クラバルトから見てもリッテに興味がないように見えていたと知って、両親は盛大に落ち込んでいた。

 本当に、ちゃんと大事に思っていたのだ。

 せめて口で言っておいてくれ。


(もはやここ、土台がきみキラの世界か本当に怪しくなってきたな)


 人物は一緒で事件的なことは起こっているけれど、それがゲーム関係のものと同じかと言われるとわからない。

 ラナメリットに至ってはゲームどおり聖女になったけれど、それ以外は何か起こっているのかなど自分のことでいっぱいいっぱいだったリッテは把握していない。

 ルグビウスに結婚を申し込まれているのを見た時に、いつのまにそんな距離にと心底驚いた。

 ここはゲームの世界っぽい。

 でもコミカライズの人物がいる。

 設定もめちゃくちゃだし、見覚えのないロリータなんてものが存在している世界だ。

 どういうことなのか、さっぱりわからない。


「まさか二次創作の世界とかじゃないでしょうね。もしくは私が死んだあとのファンディスクとか続編とか」


 身ぎれいにして部屋に戻ると、リッテはぶつぶつと呟いた。

 うろうろ歩き回っていたけれど、答えなんかわかるわけがないと嘆息ひとつで鏡台へと向かう。

 椅子に座って鏡を見ると、まあ酷かった。


「あー……結構腫れてる」


 口の中も切れたのだから覚悟はしていた。

 クラバルトが今冷やすものを準備中だ。

 もう少ししたらルーヴィッヒが手配すると言っていた医者が来るらしい。


「む、唇も切れてる。どおりで痛いと思った」


 おそるおそる唇を指先でふにりと触ったとき、その柔らかさに今日唇に感じたものを思い出した。

 間近で見た琥珀色の瞳。

 小さい唇と、リッテより大きな唇。

 一気にルーヴィッヒにキスをされたことを思い出して、ボンと爆発するようにリッテは顔を紅潮させた。

 あうあうと挙動不審に狼狽えてしまい、唇を見ないように視線を鏡から不自然にそらしまくる。


「あ、あれは魔力分けただけ!多分そうよね!魔力が唇から抜けていく感覚が……いやいやいやいや、いやいやいやいや」


 魔力を渡したか定かではないけれど、感覚的には多分そうだった。

 ただそれを思い出すと、もれなくキスシーンがついてくる。

 がばりと顔の熱を吸い取らせるかのように、リッテは両手を顔に押し当てた。


「そもそも魔力って分けれるんだっていう、いや手で出来るのは知ってたけど!そんな方法ありなの!?」


 リッテでも真知子でもファーストキスだ。

 冷静になれるわけがない。

 しかも好きだと思った片思い相手だ。


「でもこれ、もう業務だよね。緊急事態によるさ……あ、乙女心つらい」


 真知子とリッテ、どっちにとってもはじめてのキスがどさくさ紛れとか、酷すぎる。

 ちょっと泣きたい。


「てゆうか待って。明日お見舞い来るとか言ってたよね……」


 自分の言葉に、一気に赤かった顔は青ざめた。


「顔見れないー!」


 大声で悶えていると、部屋にやってきたクラバルトに大人しくしてろと怒られた。

 酷い。


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