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 リッテの心中とは別に、ルグビウスは力強く震えるラナメリットを抱きしめた。


「大丈夫か?」

「わ、わたし、わたし襲われそうになって」


 涙声のラナメリットに、ルグビウスが床で伸びているドリーを見たあと、忌々し気に伯爵を見下ろした。

 いまだに圧力に潰されているのか、聞こえるのはうめき声だけだ。


「ルーヴィッヒ、喋れるようにしてくれ」


 ルグビウスの言葉に、ルーヴィッヒはちょいと指先を動かした。

 その途端、圧力が消えたのか伯爵が大きく呼吸をする。

 ちなみにまだ氷の呪縛はそのままだ。


「これはどういうことだ。聖女を襲おうとしたそうだな」

「へ、はあ!?ルグビウス殿下……」


 伯爵が呆然と呟いた。

 ルグビウスは表に出る公務をほとんど担っているそうなので、顔を知っているのだろう。

 そして最悪なことに思い当たったのか、おそるおそるルーヴィッヒへと目をやった。

 美少年があでやかに微笑む。


「私の名前はルーヴィッヒだよ。散々蹴り飛ばしてくれてありがとう」


 名前は当然のように知っていたのか、伯爵の顔色が一気に悪くなった。


「それと、聖女だけでなく侯爵令嬢の誘拐と暴行も罪状に入るから楽しみにしているといい」


 今言っちゃうんだ。

 伯爵が目をかっぴらいてリッテを見ている。

 下位貴族だと思い込んでたから当然だろう。


「ちが、違うんです。聖女様と息子が相性がよくて、親心で老婆心を」

「やめて!ない!ぜっったいにない!ありえない!」


 伯爵の言い分に、ラナメリットがさっきまで震えていたとは思えない勢いで否定する。

 ひくりと喉が泣きそうに震えた。


「あんな男なんか」

「ラナメリット嬢。大丈夫だ」


しっかりと肩を抱くルグビウスに、ラナメリットは涙をこらえた。


「でも、こんなことまたあったら……」


 青い顔で身を震わせたラナメリットにルグビウスはそっとその左手を取った。

 そして薬指に小さくキスをする。


「私の婚約者になってくれないか」

「わ、わたしが?」

「ずっと目で追ってしまっていた。話していて、惹かれたんだ。聖女なら王族にも嫁げる。どうか結婚してほしい。私に君を守らせてくれ」


ルグビウスの真摯な言葉に、ラナメリットは可愛らしく頬を染めた。

恥ずかしそうに少し視線をさまよわせたあと。


「はい」


 幸せそうに頷く。

 それを見ていて、ラナメリットの気持ちを知っていたのでよかったねと思いつつ、こんなおっさんが床に張り付けられてるところでよかったのかなと思ってしまった。

 そんな伯爵からもう一度ラナメリット達を見ると、いつのまにやらロリータがいる。

 何故か腕を組んでうんうんと頷いていた。


「え、満足ってこと?」


ぽかんとしていると、ルグビウスにエスコートされてラナメリットがこちらへとやってきた。

おびえていた姿はかけらもなく、幸せそうだ。


「まとまったようだね」


 一緒にいた騎士にドリーを連行させたルーヴィッヒが、くすりと笑う。

 双子の兄のプロポーズは、見ていて気恥ずかしかったりはしないのだろうか。

 ちらりとルーヴィッヒを見下ろすけれど、いたっていつもどおりだ。


「この男は?」

「この家の伯爵です。前当主が亡くなって息子さんも出奔したので爵位が転がり込んできたって言ってました。ラナメリットを金の卵を産む鶏だって」


 伯爵を見下ろしたルグビウスにリッテが答えると、不愉快そうに目を細められた。


「この氷もルーヴィッヒか?」

「リッテ嬢が顔を殴られたし、私も散々蹴りつけられたからね。五時間は溶けないようにした。泣いても漏らしても動けないよ」

「わかった。そのままでいい」


 いいんだ。

 よくないのではと一瞬思ったけれど、殴られたあげくルーヴィッヒを蹴りまくった男だ。

 同情するのも馬鹿馬鹿しいなと結論づけた。

 ルグビウスも騎士に見張りと氷が溶けたら連行するようにと言っている。

 愛する人への金づる発言と弟への暴行がよくなかったのだろう。

 せめて漏らさないようにくらいは、リッテは祈ってあげることにした。


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