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 そして案内されたのはソファーなどがない部屋だった。

 丸いティーテーブルと椅子がある。

窓のカーテンがやたらと派手だし、飾られている絵画の額縁もギラギラと成金臭い。

 お茶を飲む部屋のようだけれど、正直趣味がいいとはいえなかった。

 多分使われていない部屋だろう。

 座るのもなあと思っていたら、ラナメリットもそうだったみたいで部屋の端に二人で寄り添い合って立つ。

しばらくすると、ノックも何もなく無遠慮に扉が開かれた。


「あれ、増えてるな」


 開口一番それか。

 リッテはツッコみかけたのを何とかこらえた。

 入ってきたのは痩身で少し猫背の男だった。

 服だけは立派で装飾も多い。

 もっとでっぷりした人間が来るのかと思っていたリッテは、偏見な目で見てごめんなさいと肥満の男性たちに心中で謝った。

 思い込みはよろしくない。


「まったく、関係ないのまでいるなんて」

「あなた誰なのよ」


 リッテが果敢に声をかけると、伯爵は片眉を上げた。


「聖女様を招待しただけなのに、依頼料は半分しか払えないな」


 リッテと会話する気はないらしい。

 ラナメリットもそれに気づいたのか、胸の前で自分を奮い立たせるように拳を握った。


「私に何の用ですか」

「なに、息子の紹介ですよ」

「え?」

「は?」


 思わずラナメリットに続いてまぬけな声を出してしまった。

 しかし伯爵は気にしないらしい。

 大仰にため息を吐いて見せた。


「息子の婚約者として顔合わせをしてもらおうと思いましてな」


 何言ってるんだこいつ。

 眉間に皺を寄せて首を傾げると、ラナメリットもまったく同じことをしていた。

 無理もない。


「王家に持っていかれる前に婚約、いや邪魔が入るから結婚だな。そのための顔合わせだ」

「そもそもラナメリット様と結婚なんて、どういうつもり?」

「なんでも聖女様は植物を生やせるうえに、傷を治せるそうじゃないですか」


 ラナメリットをちらりと見ると、肯定するように小さく頷いた。

 けれどリッテの記憶に傷を治すなんて設定はない。

 コミカライズは結構巻数が出ていたから、そちらでエピソード追加用に設定が増やされたのだろうか。

 それともどの媒体とも関係がないのか。

 確かめる術はない。


「傷を治すのに高い治療費をとって、薬草や価値のある植物を生やせば、いい商売になる」

「そんなに都合のいい力じゃないわ」


 ラナメリットが気丈な様子で声を上げるけれど、伯爵は酷薄に笑った。


「そんなもの、使い物になるまで繰り返しやらせれば、そのうち能力も強くなりますよ」

「最低だわ」


 リッテが憎々しげに睨むけれど、伯爵はどこ吹く風だった。

 ラナメリットはドン引きしている。


「息子を呼んでくるから待っていてください。さすがに時間が経ちすぎると嗅ぎつけられる可能性が高い」


 にたりと笑って伯爵は部屋を出て行った。


「気持ちわるっ」


 ドアが閉まった途端に、本音が漏れ出てしまった。

 そうして二人きりになったら、部屋のなかがしんとなる。

 ラナメリットを横目で見ると、チラチラとリッテを見て、気まずそうな雰囲気を出していた。

 そして、そういえば食堂の一件で気まずくなったあげく、その日からまったく関わっていないことを思い出す。

 衝撃的なことが色々あって、頭から飛んでいた。


「……えぇと、だいぶ短絡的な犯行だから、きっと助かるわよ」


 さすがチョロゲームだ。

 アニメかコミカライズか、はたまた真知子が死んだあとに公開された媒体かはわからない。

 ただやっぱりゲームにこんな事件はなかった。

 ゆるふわな山も谷もないものだ。

 あまり楽観視しても駄目だけれど、多少は緩くとらえてもいいのではないだろうか。


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