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次の日から、そうなるかなとは思ったけれどリッテは孤立した。
やっぱりそうなった。
昨日の食堂でリッテがラナメリットを責めたことになっていたのだ。
ちなみにスカートを汚されたということは話題になっていない。
噂って恐ろしい。
教室ではラナメリットが何度かリッテに近づこうとしたり、話しかけようとするそぶりを見せたけれど、それは実現しなかった。
ラナメリットのことをつねに誰かしらが囲んでいて、リッテには近づかないほうがいいと阻んでいるのだ。
それが今まで男子だけだったのが、いまやクラスの女子の半分以上が同じ状態だ。
正直鬱陶しくないのかと、関係ないのに何だか心配してしまう。
生徒会には結局ルーヴィッヒと言い争って以来は一度も行っていない。
心証もよくないだろうし、このまま自然に生徒会から抜けるつもりだ。
ラナメリットが事務を担っているので大丈夫だろう。
もともとそんなに難しい内容じゃない。
そんなわけで自由になった放課後、クラバルトをお供にリッテは図書室に向かっていた。
あいかわらず魔法の勉強は続けている。
今日は読み終わって返却する本を片手に図書室にと思った。
けれど行かずに帰るか、でも行かなきゃと挙動不審になっている。
「行かないのですか?」
クラバルトの言葉に、うっと詰まる。
気まずいのだ。
ルーヴィッヒは生徒会室に行く前や仕事が無い日は大体、図書室にいる。
会ったらものすごく気まずい。
けれど今日は生徒会の仕事がある日のはずだ。
「……大丈夫かな」
希望的観測で結論を出し、結局リッテは図書室へと向かった。
若干へっぴり腰気味だったのは見ないふりをしてもらいたい。
図書室に入り、カウンターにしか人がいないことを確認してから、急いで返却作業をしてもらった。
これでもう用はないぜと言わんばかりの素早さで図書室から出て「あぁ……」と希望的観測が外れたことに、がくりと肩が落ちる。
図書室を出たら、普通にルーヴィッヒがいた。
「やあ」
思わずさっと目を逸らしてしまう。
すると、なんだか一段空気が重くなった気がした。
びくびくとルーヴィッヒを見上げると、にっこりと微笑んでいる。
なのに怖く感じるってどういうことだ。
「生徒会にも来ないから、図書室には来るかと思っていたんだよね。通った甲斐があったな」
なにその怖いセリフ。
通ったってリッテに接触するためにだろうか。
そこまで怒らせていたのだろうか。
この言葉にどう答えればいいのかわからなくて、クラバルトにすがるように目を向けたら何故か思いきり関わりたくないと言わんばかりに首を振られた。
「リッテ嬢」
その続きをルーヴィッヒが口にする前に。
「急いでいるので失礼します!」
淑女にあるまじき声量で言い切ると、勢いよくルーヴィッヒに背を向けて全力で走りだした。
ご令嬢がすることではないから、とにかく人気のない方へ方へと進んでいく。
リッテが頑張って作った淑女の姿が何度も真知子にぶち壊されていっている。
本当に申し訳ない。
廊下からどこかの外へと続くドアを飛び出したところで、ガシリと腕を掴まれた。
「ひぇ」
「リッテ様」
腕を掴んだのはクラバルトだった。
それにほっと安堵する。
「ここは業者入口ですよ」
「え、あ?」
クラバルトの言葉にぐるりと見回すと、確かに学園の校舎内のように整えられておらず、むき出しの地面があるだけだ。
馬車のわだちが何台分もあるから、たしかにここで荷物を運んだりしているようだった。
「めちゃくちゃに走ったから、気づかなかった」
ぽかんとしたリッテに、クラバルトがため息を吐く。
もっと落ち着いて行動するようにと小言を若干もらってしまった。
そのとおりだから、何も反論出来ない。
「ほら、本も返却しましたし、帰りましょう」
「うん……ん?あれ、え!?」
「どうしました?」
外へと向かっている人間がいたので何となくそちらを見て、リッテは素っ頓狂な声を上げた。
クラバルトがリッテのいきなりの驚いた声音に、目を丸くする。
「大丈夫なの?あれ!」
「大丈夫じゃないですね」
わなわなと動揺しながらリッテが指さす先には、男が二人いた。
何故か女の子を抱えて。




