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正直行きたくないと思いつつも、そんなわけにはいくまいと、リッテはのろのろと生徒会室へ向かっていた。

最近はラナメリットが必ずいるから、今日もいるだろう。

そして聖女覚醒の話で盛り上がっているはずだ。

盛り上がるのはいい。

いいのだけれど、モヤッとする。

ラナメリットが聖女覚醒をしたのはイベントとしてわかってはいたけれど、やっぱりモヤッとする。


「駄目だ。これ悪役の悪女思考だ。よくない」


 わざわざ悪役になる気はないのだから、こんな思考は捨ててしまわなければ。

 着きたくないなと思っていても、歩けば着くのだ。

 生徒会室にとうとう着いてしまった。

 扉の前に立つと、なかから珍しくわいわいとした声が聞こえてくる。

 すうはあ、と一度深呼吸すると、リッテは何でもない顔で生徒会室の扉を開けた。

 真知子の社会人としての外面の厚さとリッテの鉄壁の淑女な顔。

 それらを総動員する。

 室内には全員揃っていた。


「聖女の力が芽生えるなんて、きっと心が澄んでいるんだろうな」

「やだ、そんな」


 ルグビウスの言葉にラナメリットがはにかんでみせる。

 二人の生徒会員も口々にラナメリットを称賛していた。

 その三人には特になんとも思わなかったのでほっとしていると、一人だけ自分の席で手元のペンを動かしていたルーヴィッヒが口を開く。


「聖魔法なんて興味深いね」


 ルーヴィッヒもラナメリットに声をかけた。


「このあとは俺と王城に行ってもらうことになる」

「はい」


 ルグビウスとラナメリットの言葉なんて頭に入ってこなかった。

 ただ、ルーヴィッヒにそっと一度だけ目をやってからそらす。

そのまま何事もなかったかのように自分の席へとついた。

 リッテは授業のときに声をかけたので、今は必要ないだろう。

 書類を手にしながらも、もう一度ルーヴィッヒをちら、と見る。


(そうだよね。ルーヴィッヒ殿下は魔法が好きなんだから、聖魔法使えるラナメリットが気になるよね)


 予想はしていた。

 それにラナメリットはルーヴィッヒにも距離が近い。

 リッテが遭難しただけで、ラナメリットは助けられたりなどしていないのに王城へお礼を言いたいと訪問の許可を求めた。

先日のおでかけでも、足を痛めたのならあの後ルーヴィッヒに助けてもらったはずだ。

フラグなんて言葉はもう使いたくないけれど、完全にフラグが立っている状態じゃないかと思う。

ラナメリットはルグビウスが好きだと言うけれど、クラバルトにも言われたとおり異性への距離が近い。

クラスメイトもラナメリットに集まるのは男子生徒だけだ。

だからルグビウスが好きだという言葉にいまいち頷けなくなっている。

 まだ相手を決めていない可能性があるのだ。


(二人がくっつくの、やだな……)


 そんな言葉が脳裏をよぎって、否定するように内心勢いよく首を振る。

 やだってなんだ。

 まだルーヴィッヒのことを推しだとか考えているのだろうか。

 ゲームを基本とした世界でも予定どおりにラナメリットが聖女になっても、現実だ。

 一人の生きた人間だ。

(誰を好きになっても自由でしょ)

 ラナメリットがルーヴィッヒを選んで、ルーヴィッヒが受け入れたって、リッテが何か言えることはない。

 少し息苦しい気分になって小さく空咳をする。

 それでも息苦しさは変わらなくて、ここにいない方がいいと立ち上がった。

 みんなはラナメリットに声をかけていて気づいていない。

 生徒会室を出ようとしたところで、ルーヴィッヒに呼び止められた。

 おそるおそる振り向くと、いつもの柔和な笑顔ではない。


「どこへ行くんだい?」

「教室に忘れ物しちゃったんで」


 早口で答えると、リッテは生徒会室を出て行った。


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