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快晴の魔法訓練日和だ。
今日は入学してはじめての実技授業である。
少し魔法を発動する感覚を体験してみるだけの授業だけれど、安全を考慮して外の広場で実習だ。
ラナメリットにちらりと目をやると、あいかわらず男子生徒が声をかけていて、女子生徒に遠巻きにされている。
クラバルトと話したけれど、誤解させやすいのだろう。
そう思ったところでルーヴィッヒに抱きとめられたラナメリットの姿を思い出して、胸の奥が気持ち悪く感じる。
なんとなく声をかけにくくて、ルーヴィッヒとのデートのあとからは自分から声をかけていない。
ラナメリットもいつも周りに男子生徒に囲まれているので、こちらを見ることは何度かあったけれど彼らを置いてまで近寄る様子はなかった。
それにほんの少しだけほっとする。
教師の合図で、手のひらに自分が得意そうだと思う魔法を出してみなさいと言われた。
次々と生徒が魔法を使っていくけれど、みんな規模が大きすぎたり、小さすぎたりと安定していない。
「では次」
リッテの番だと教師が声をかけたので、ふんと胸中で気合いを入れた。
自分のなかにあるうねうねしたもの———ルーヴィッヒには微妙な目で見られたけれど———をこれだけと決めて、手のひらへと押し出す。
すると手のひらにちょうどいい大きさの火が出た。
「おぉ」
思わず驚いた声が出てしまう。
魔法はクラバルトにもルーヴィッヒにも絶対に使うなと言われたので、座学しかしていない。
ルーヴィッヒに補助してもらって使ったことはあるけれど、自力ははじめてだ。
学年が上がれば飛ばしたりできるようになるらしい。
今は手に出すしか出来ないのが残念だった。
恰好よく飛ばしてみたい。
「とても安定していますね。素晴らしいですよ」
「ありがとうございます」
褒められてガッツポーズを決めたい気分だ。
ただ、ラナメリットが視界に入って、そんな気持ちもすぐにぷしゅっと空気が抜けたようにテンションが落ち着いてしまった。
この実技授業は、イベントが起こる。
聖女覚醒イベントだ。
正直聖女なんていても何も危険なこともないし、結界とか浄化とかお決まりのこともない。
ただただルグビウス達、高位貴族とハッピーエンドに持っていくように少々強引にストーリーの舵を切っているのだ。
特に実績がなくとも王族との結婚も可能。
つまりほぼメインストーリーの相手であるルグビウスのためのイベントなのだ。
(聖女って設定の持ち腐れだよね)
ゲームをしているときから、しみじみ思っていた。
スチルが神だったから文句はなかったけれど。
教師がラナメリットの番だと言うと、緊張した面持ちでラナメリットは手のひらに魔力を集め出した。
その手元が眩しく光る。
「え!?なんなの」
うろたえるラナメリットの、何故か足元からは芝生の草がぐんぐんと伸びて、膝の高さで止まった。
(そういえば植物育てるのと怪我を治すって設定あったっけ)
全然ストーリーに出てこないから、忘れてた。
「これは……聖魔法だわ!」
教師が興奮したようにラナメリットを爛々とした目で見る。
「え、聖魔法って聖女が使うっていう?」
「伝説の?」
「じゃあ彼女、聖女なの?」
口々に騒ぎ出す生徒にすぐに授業にはならなくなって、教室へと戻るように言われてしまった。
自分の椅子に座ってからちらりと見やると、男だけでなく女もラナメリットの周りをひしめき合っている。
みんなが話しかけている姿は必死だ。
ほぼクラス中がそんな状態だし、話が広まったらしく廊下には他のクラスや他学年らしき生徒もいる。
大人気だ。
話しかけていないのは、席についているリッテのほかには教室の入り口らへんでラナメリットを囲む人垣をじっと見るケラミルカ達だ。
時々その目が忌々しいものをみるように歪む。
(いろいろ、言ってたもんな)
お茶会では完全に悪口だと思うものを嬉々として話していた。
そりゃあ面白くないだろう。
ちら、と見るとケラミルカの髪にはリッテの髪飾りが飾られている。
それを見るたびに苦い気持ちになるから、リッテは目をそらして喧噪から意識をそらした。




