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 休日のあけた学校ではルーヴィッヒがお忍びデートをしたらしいという噂が学校に広がっていた。

 その相手はリッテではなくラナメリットだ。

 誰かが目撃したのか、ラナメリットかルーヴィッヒが出かけたことを口にしたのか。

 後者は無さそうだけれど、噂なんてほんの少しの出来事が大きく広がるものだ。

 教室を出て廊下を歩いていると、ルーヴィッヒが向かいから歩いてきた。

 その琥珀色の瞳が何だか不機嫌そうに見える。


「やあ」

「……どうも」


気まずげに目線をそらすと、ルーヴィッヒの視線を感じる。

このまま挨拶だけで通り過ぎてくれないかなと思った。


「何だか私がラナメリット嬢とデートをしたことになっているみたいだね」

「……そうなんですね」


 事実を知っているだけに返しにくい。

 けれどリッテが帰ったあとにラナメリットと二人きりだったのだから、デートと思われても仕方がないだろう。


「私は別の人間とデートをしてたはずだけれどね」


 ひそりと声を落として囁かれる。

 リッテが相手だと口にする気だろうかと不安そうに眉を下げた。


「それについては、私のことは伏せていただけると……」


 ぼそぼそと小さな声で返事をすると、ルーヴィッヒがどこか面白くなさそうに片眉を上げた。


「わざわざ秘密にすることでもないだろう」

「理由はないんですけど、お願いします」 


両手の指先を落ち着こうと絡ませて、気まずげに斜め下を見る。

理由は大きなものはない。

ただ、ラナメリットのあとにリッテの名前が出ても笑われるだけだしと思う。

勝てるわけがないと思って、再び自己嫌悪だ。


(勝ち負けとかじゃないし。殿下は親切なだけで、好きとかじゃないもん)


 口のなかに苦みが広がった気がした。


「ルーヴィッヒ殿下」


 気まずくなっていると、鈴が転がるような声が耳に届いた。

 そちらを見ると、ラナメリットが小走りで近づいてくる。

 もう足は大丈夫らしい。

 そのとき、ぽんと目の前にロリータが現われた。

 こんな気分のときに会いたい存在じゃない。

 げんなりしていると、ロリータがリッテに羽根を見せつけるように大きく羽ばたいた。

 イラッとする。


「殿下、昨日はありがとうございました。私、お礼を言いたくて」


 ラナメリットの言葉はそこで途切れた。

 ロリータがシャランラとステッキを振った瞬間、床に足が躓いたのだ。


「あっ」


 可愛らしい声を上げて、ラナメリットがルーヴィッヒの方へと倒れ込む。

 トサリと胸元に倒れ込んだラナメリットを、ルーヴィッヒがそのまま受け止めた。

ルーヴィッヒが体を支えるように腕に手をかけると、ラナメリットはそのまま立ち直す。

それを見て、手を離しながらルーヴィッヒがラナメリットを見下ろした。


「昨日の今日だ。足が痛むなら無理をしない方がいい」

「いえ、大丈夫です」


 ラナメリットがはにかんでピンクブロンドの髪を揺らす。

 大丈夫だという言葉に頷いたルーヴィッヒに変化はない。

 けれど、こんな美少女と抱き合うような恰好になって、何も思わないということはないだろう。


(なんで気分が悪いの私)


 ラナメリットもルーヴィッヒも悪くない。

 リッテが理不尽に不快感を持っているだけだ。

 そんな感情を顔に出してしまいそうで、リッテは二人から離れた。

向かっていた方向とは反対に歩き出す。


「あの方、少し図に乗っていないかしら」


 すぐ傍から訊こえた言葉にそちらを見ると、歩いている方向の少し先に四人の令嬢が立っていた。

 今の声はケラミルカだ。

 あきらかに甲高い声が不機嫌そうにしていた。

 そのまま横を通り抜けようとしたけれど。


「まあ、リッテ様。以前のお茶会は楽しかったですわね」

「え、あ、ええ」


 よく見れば、ケラミルカ以外も前回お茶をした人間だった。

 一応リッテのなかでは友達という位置にいるけれど、お茶会以降は交流がない。

 真知子もリッテも人見知りだ。

 ラナメリットのときは頑張ったけれど、自分から声をかける勇気はない。

 かといってケラミルカ達から声をかけられることもなかった。


「またお茶会をしたいと思っていますのよ。招待させていただきたいわ」


 にこりとケラミルカが笑う。

 正直、お茶を一緒にしたから友達かなとは思っているけれど、前回のお茶会は話についていけなかった。

 どうしようと思ったけれど、やっぱり声をかけられるのは嬉しくて「ええ」と肯定の言葉を返していた。


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