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「ピアスを見せてもらえるかな?シンプルな石だけの物を、色は赤で」


いきなりの発言に、リッテは思わず淑女を放り投げて「えぇ!?」と声を上げた。


「ピアスって、殿下開いてないですよね?あ、お土産……」

「開けることにした」

「あ、開けるってそんな軽く決めることじゃないですよ!」


慌てて止めるように早口でまくし立てても、ルーヴィッヒはのんびりと微笑むばかりだ。


「細い針で開ける程度なんだから、簡単に決めていいじゃないか」

「いやー!痛い痛い痛い!絶対に痛い」

「なんで君がそんなに怖がっているんだい」


店員の出て行った扉を一度見てから、ルーヴィッヒは呆れたような目をリッテに向けた。


「痛そうなの見たら、痛く感じません?」

「別に君の目の前で開けるわけじゃないんだから」


それはそうだ。

正論を言われて、けれど心のなかで伝わらないと歯嚙みしていると、店員がベルベットのトレーを運んできた。

テーブルに置かれたそれは、見事に赤ばかりだ。

リッテの知識でそれらを見れば、どれもハイクオリティで金額がもの凄いだろうことが一目でわかる。

あわわと震えそうなのを、精一杯表に出さないように耐えた。


「そういえば、なんで赤なんですか?」

「こっちを向いてごらん」


言われて不思議に思いつつルーヴィッヒの方へ顔を向ければ、ピアスをひとつ手に取ったルーヴィッヒの指先がリッテの目元に近づけられる。

そして顔を覗き込まれた。


「君の目の色と同じだろう?」

「ふ、ふゅえ!」

「ふはっ何だいそれ。悲鳴ですらない」


笑われているが、それどころではない。

耳と目尻が急速に熱くなっていく。

絶対に赤くなっている自信があった。


「な、なんで、私の目の色を」


確かにリッテの瞳は鮮やかな赤だ。

ルーヴィッヒが手にしたのも、鮮やかな赤。


(なんか、なんか目の色とか身につけるって意味が、こいび、こんや、いやいや)


深読みするな。

考えるな真知子。

リッテは必死で頭のなかで首がもげそうなくらいブンブンと否定するように頭を横に振った。

きっといつものように、意地悪でからかっているだけだ。

そう自分にわあわあ語り掛けていると、パッとルーヴィッヒがピアスを持つ手を引っ込めた。

それにほっとしてしまう。

トレーにピアスを置いたルーヴィッヒがリッテの顔をじっと見つめてくる。

何だろうと思っていると。

ニコッと爽やかに笑った。

その笑い方はなんだか胡散臭い。


「リッテ嬢の瞳はおいしそうな色だよね」


それはどうなんだ。

りんごとか苺だとか言うつもりだろうか。

でもその感性はわかるなと、リッテもルーヴィッヒの琥珀色の瞳をじっと見つめた。


「あなたの方が飴玉みたいですけどね」


その言葉に、ルーヴィッヒの笑みが深くなった。

そして顔を覗き込まれる。

こんなに人と近づいたことはなくて、リッテはカピッと固まった。


「舐めてみる?」


悲鳴を上げそうになった。


「バッ!」


バカと言いそうになって、何とか飲み込む。

何をしているのだ、こちとら異性への耐性はゼロだぞと、胸倉を掴んでやりたくなった。


「何をいいかけたのかな?」


にっこりと微笑まれる。

それに対してリッテは焦って素っ頓狂な声を上げた。


「何でもないです!気にしないでください!」

「ならいいけど」


 機嫌がよさそうに商品を買って立ち上がるルーヴィッヒに、続くようにリッテも立ち上がる。

 そしてそのまま精神的にへろへろになりながら、店を出た。

 なんか凄く疲れた。


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