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「せっかくの申し出なのにな」

「結構です。こういうお店に私が好きなもの置いてないでしょうし」

「置いてないって?」


この店は男性物だけでなく女性ものも取り扱っていた。

だからだろう。

不思議そうにルーヴィッヒが小首を傾げた。

けれどリッテは来店したときの店内を思い出して、やっぱり「欲しいものはないので」と首を振った。


「こういったお店のものは飾りなんかがいっぱいついているじゃないですか。私は置物なんかもそうですが、シンプルなものが好きなんです」


お値段がいいだけあってでかい宝石などがついているのだ。

そういった華やかな飾りなんかがしっかりついている商品たちは、悪いがあまり好みではない。

実はリツテもそうだった。

シンプルでワンポイントあるようなものが好き。

真知子と好みが同じで嬉しいなと自室に初めて入ったときに思ったのだ。

同時に侯爵令嬢の矜持で外ではそれを隠して飾りたてていたのを知って、いじましすぎると泣きたくなったのは内緒だ。


「シンプルなものが好きだなんて、意外だな」

「どうせ派手好きと思っているんでしょ。服だって小物だってシンプルな可愛さのものが好きなんですからね」

「認識を改めるよ。アクセサリーなんかはどうだい?」

「落としそうで怖いんでいらないです」


まごうことなき本音だ。

高価なアクセサリーとか落としたら一週間は寝込む自信がある。

だからリッテが持っているアクセサリーも、真知子になってからは身につけていない。

ちなみにこれもクラバルトに申告したら早く言えと怒られた。

だったら大振りのものでなく小振りのものを用意したと。

お母さんと言いたくなった。


(アクセサリーはなあ……)


リッテは内心ため息を吐いた。

興味はあったけれど、真知子はピアスは空けていなかったしイヤリングは絶対落とす。

スマホをいじるのに邪魔だから、指輪の類もしていなかった。

大人の女性という年齢だったのだから着飾ってもおかしくなかったのに、枯れているなと遠い目になってしまう。


「残念。プレゼントしようかと思ったのに」

「断固拒否です」

「その髪飾りは?今話題のシュバリーヌだろう」


帽子の合間から見える、リッテの髪に飾られた職人技を思わせる髪飾りは宝石のまったくついていない、控えめなデザインだ。

それでも、その意匠と黒髪に映える白銀細工がとても女性的な華やかさを演出していた。


「クラバルトから言われたんですよ。家名にあった物を身につけないと恥かくって」

「……選んだのは、クラバルト?」

「そうですよ。私センスないんで」

「ふぅん」


瞳を細めたルーヴィッヒから、なんだかひんやりした雰囲気が漂ってきた。

何だ。

今の会話でなにか不機嫌になることはあっただろうか。

これは話題転換をした方がいいと、リッテはぽんと両手を叩いた。


「ルーヴ、ルーこそ何か買ったらいいじゃないですか」


危うく名前を呼びそうになってしまった。

そんなことは気にした様子もなく、ルーヴィッヒがふむと少し考えるように視線を一度上に向ける。

そして店員がハンカチを包んで戻ってきたのを見て微笑んだ。


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