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もう無心でハンカチを選ぼう。

そう決めて、リッテは並べられたハンカチをしげしげと眺めた。

男向けの小物なんてはじめてしっかり見るので、どれがいいかサッパリわからない。

無難に青かなと思っていると、視界の端に明るい空色が目立った。

他の青系よりも色彩が少し強い。

どこか明るい日の空の色に見えた。


「ん!これにします」

「これ?」

「どうですか?」


指差したハンカチを、ルーヴィッヒが上品な仕草で手に取る。


「悪くないよ。決め手は?」

「テンション上がりそうなので」

「前も似たようなこと言っていたね。君の感性はいまいち把握できないな」


ルーヴィッヒの言葉に、リッテは心外そうに少しだけムッと頬を膨らませた。


「失礼な。上がるでしょう。空の青色ですよ」

「じゃあこれを」


楽しそうに笑って、ルーヴィッヒが店員に目をやった。

それに待ってましたとリッテが目を煌めかせる。

ちゃんとクラバルトに教わってきたのだ。

買い物はシュバルハ侯爵家のリッテ宛に支払いをすればいいのだと。

現金じゃないんだと驚いだけれど、カード支払いみたいなものかなと納得した。

ちなみに何故か「多分支払い方法わからなくても大丈夫だと思いますけど」とクラバルトに言われた。

いや必要だろう。

さて侯爵令嬢らしく優雅にお買い物をと思っていたら。


「支払いはここに」


ルーヴィッヒが店員から渡されたペンでなにかをサラサラと紙に書いた。

途端に店員の目が瞠られ、頭を下げている。

なにがあった。


「かしこまりました」


それだけ言うと、店員はメモを手に部屋を出て行ってしまった。

ハンカチを包んでくるらしい。

しかし今はそんなことを気にしていられない。


「え!?あの、え?なんで?」


展開にいまいちついて行けない。

支払いは結局どうなったんだ。


「落ち着いて」

「だって、お詫びに私が買うって選んでたのに」


わけがわからないと首を捻ると、ルーヴィッヒがとてもいい笑顔をリッテに向けた。


「君の役目は選ぶまでだよ」

「それ店員でいいのでは……」

「君が選ぶことに意味があるんだ」

「えぇ?」


ますますわからない。

理解できないものを見るような目でルーヴィッヒを見ると、先ほどと同じいい笑顔なのにどこか凄みのある笑みを浮かべている。


「君が、選んだ、ハンカチ。それが意味のあることだって言っているんだよ。わかる?」


なんだこれ。

リッテの頭にまず浮かんだ言葉はそれだった。

続いて浮かんだのが、何を言われているんだ、である。

そしてルーヴィッヒの言葉を反芻すると、なんだか一気に体が熱くなった。

(なんか恥ずかしいこと言われてない?大丈夫?これ大丈夫?)

ぐるぐると考えていると、ひらりと眼前を何かが動いた。

それに気づいて意識を向けると、それはルーヴィッヒがリッテの顔の前で手を振ったのだとわかる。

そして意外と近い。


「ふぎゃっ」


おもわず驚いて声を出してしまった。

それにルーヴィッヒが、ふっと吐息で笑う。


「猫みたいだね」

「猫って……」


猫に失礼だろう。


「いつもの奇声よりはマシだったね」

「どうせ私の悲鳴は品がないですよ」

「まあ品があるかないかと言えば、ないね。面白いけど」

「女の子に面白いとか失礼でしかないですからね」

「それは申し訳ない。お礼になにか買ってあげるよ。小物とか」


ルーヴィッヒが機嫌をとるように言うけれど、リッテは拗ねた気持ちのまま「いりません」と返事をした。


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