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馬車のなかでは向い合せに座りながら、リッテは落ち着かなげに視線を窓の外やら手元やらを見ていた。

デートという単語を使われては、緊張するなと言う方が無理である。


「どこか行きたいところはある?」

「今日は殿下のハンカチを買いに行くんですよ。私の行きたいところに行ってどうするんです」


不思議そうに首を傾げると、ルーヴィッヒはならばと笑みに形づくられた唇を開いた。


「じゃあ店もハンカチもリッテ嬢に選んでもらおうかな」

「えぇ!あの、正直センスに自信ないんですけれど……」

「お詫びなんだから、私の要望を呑んでくれなきゃ」

「うぐぅ」


横暴だ。

ぐうの音も出ない。

力なく「わかりました」とかぼそい声で答えたのと、馬車が止まったのは同時だった。

馬車を降りたら商業地区にある貴族向けの通りだ。

中間層でも上位の人間か貴族しか来ない場所だから、人もそんなにいない。

リッテは馬車を降りてから、自信なさげに通りを見回した。

紳士ものを扱っていて、なおかつ高位貴族レベルが持っていても恥ずかしくないものというのが条件だ。

服はお忍び用だけれど、リッテもルーヴィッヒの服も仕立てはあきらかにいいから、門前払いは無いはずだとちょっとドギドキする。

そんなわけでリッテは、キョロ……うろうろ、キョロ……うろうろと不審者のごとくそろりそろりと若干へっぴり腰になりそうなのを叱咤しながら道を進んでいた。

そんな懸命なリッテの後ろから「ぷっ」と笑う声が聞こえて、むすっと口がへの字になる。


「なんで笑うんですか」


仕方がないじゃないかと思う。

真知子は買い物はオタク活動もの以外はネットショップでの購入で、店になんて足を運ばなかった。

ウィンドーショッピングなんて憧れるだけで実行したことなんてない。

リッテだってそんなに出歩いた記憶はないのだ。

要領が悪くてやることがどんどん積み上がっていき、なにかを楽しむ余裕なんてなかったのである。

かわいそう。

自分がすでにリッテだけれど、なぐさめたくなる。

そんなことに意識がいって立ち尽くしていると、ルーヴィッヒが横へと並んできた。


「そこまで途方にくれるとは思わなかった」


苦笑して見せるルーヴィッヒに思わず胡乱な目を向けてしまう。


「だったら助けてくださいよ」

「それは駄目」

「くぅぅ」


あっけなく却下されてしまった。

酷い。

そのまま、また彷徨いだすけれど先ほどまで少し後ろを歩いていたルーヴィッヒが今度は横に並んで歩く。

めちゃくちゃ楽しそうで何よりだ。

リッテはプレッシャーと戦っていると言っても過言じゃないのに。

そんなことをぶつくさ思いつつ、リッテは一軒の店先で立ち止まった。

なんだか他の店よりもシュッとした無駄のないグレーの外観だ。

壁も汚れなく手入れされているのがわかるので、それなりのランクの店の筈だ。

そして見た目的に、男性向けが多そうな予感。

うむとリッテは頷いた。


「よし!ここにします」


宣言するなり、ぐっと気合いの入った顔で拳を握る。


「行きますよ」

「そんな戦場に行くような顔しなくても」


笑いを噛み殺す声に、リッテは内心うるさい!とピシャリと反発しながらも表面状はいつも通りに店へと足を踏み込んだ。

その緊張はまったく隠せていなかったのを、リッテは気づいていなかった。


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