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デート当日。

シンプルな白いシャツに青いスカート。

髪は編み上げて白い帽子という出で立ちのリッテが出来上がっていた。

見事に寒色を用意してくれたのが嬉しい。

馬車寄せで待っていると、学園の登下校で見るような高級馬車ではなく中位貴族あたりが使いそうな造りの馬車が寄せられた。

なるほど、お忍びだと思わず頷く。


「やあ、リッテ嬢」


馬車から降りてきたルーヴィッヒに頭を下げる。

顔を上げると「ひぇ」と口のなかで悲鳴が出そうになった。

制服以外の服装が新鮮すぎるのだ。

ちなみにお見舞い時は子供の姿だったのでノーカウントである。

ルーヴィッヒの恰好は白いシャツに黒いベスト、深い紺色のズボンと帽子だ。

シンプルな格好は確かに中位貴族ほどを思わせる仕立てだけれど、顔がいいのでなんか目立つ。

仕方ない。

なんだかんだ考え方を改めても、真知子はルーヴィッヒの顔がとても好きなのだ。

見たことのない服装だとテンションが上がりそうになるのは、許してほしい。


「おはよう。今日は楽しみだね」

「お、おはようございます」


直視しないようにおそるおそる視線をずらして挨拶すると、視界の端でルーヴィッヒが穏やかに微笑んだのが見えた。


「顔を掴まれて目を合わせるのがお好みかな?」

「おはようございます!」


ルーヴィッヒの恐ろしい言葉に、ギュインとリッテは一拍もおかずにルーヴィッヒへ視線を合わせた。

そんなことをされたら鼻血を吹くか、倒れる自信しかない。

くすくすと笑うルーヴィッヒはとても楽しそうだ。

たった今、女の子の顔を掴もうとしたようには見えない。


(なんなの!穏やか設定のはずなのに、とんだ意地悪じゃない!そりゃ生きてる人間だとは考えを改めたけど、それにしたってどれだけ違うのよ)


むしろこの世界ではこれが普通なのだろうとは思うけれど、なんとなく解せない思いになってしまう。

でも、前世で読んだ本でクローンを作ったとしても一瞬だけでも環境や人間関係が違えば、まったくの別人になるという一文があったなと思い出す。


(それと一緒かなあ)


設定は同じでも、育ち方で変わる的なものだろうか。

すでにルグビウスとの関係が違う時点でまったくの別人になっているのだと、ようやく実感した気持ちだ。

ちなみにルーヴィッヒが悪役令嬢と仲良くするなんてストーリーは欠片もなかったのを真知子は知っているはずなのに、現在進行形で自分が特異点になっていることはまったく気づいていなかった。

つらつらと考えながらルーヴィッヒを見つめてしまう。


「どうかしたかい?」

「……浮いてますね」

「君もね」


なんか上品なオーラが隠せていない。

こういうのはどこから滲むものなのだろうと不思議に思う。

というか、よく見たら似たような服装であることに今さら気づいた。

白いシャツに寒色色のスカートとズボン。

そして帽子。

なんだかますますデートっぽい。

せめてワンピースを用意してもらえばよかったと、今さらながらに思ってしまう。


(え!大丈夫?真知子大丈夫?真知子、超不安よ)


リッテも慣れていなかったと思うけれど、プライドが山より高かったので完璧に取り繕ってみせたことだろう。

真知子は取り繕える気がまったくしない。

不安しかない。

おもわず背後に見送りで控えていたクラバルトをちらりと振り返った。

不安すぎる。


「あの、クラバルトも一緒に……」


言った瞬間、なんかルーヴィッヒの笑顔に凄みが加えられた。

凄く後ずさりたい。


「やめてください、巻き込むのは」

「巻き込む?」


どういうことだとクラバルトをまじまじ見ていると。


「却下だよ。デートなんだから二人きりに決まってる」


ルーヴィッヒに言いながら手を取られてしまった。


「ひょうあ!」


その感触に声を上げれば、押し殺したように、くくっと笑い声を上げられた。

いい加減リッテの悲鳴が独特なのはわかっているのだから、声を上げるようなことをしないでいただきたい。

ジトリと半眼を向けると、笑みを噛み殺しながら馬車の方へと手を引かれた。


「行こう。馬車に乗って商業地区の貴族街まで行ったら、降りて散策だ」


それは楽しそうだ。

うきうきと胸を弾ませながらも、はやく手を離してくれないかなとリッテは思った。


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