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「とにかく私は二人を応援したいんです」
「ふうん」
なんでそんなに面白くなさそうなんだ。
興味がないのが丸わかりにもほどがある。
協力しろとは言わないけれど、そんな面倒くさそうにしないでいただきたい。
ふいにルーヴィッヒにがにやりと口元に笑みを浮かべた。
美少年には正直してほしくない表情だ。
「な、なんですか」
「いや、最近成熟したと言っただろう?」
「そうですね?」
また胸がざわつく。
あまりその話題はしてほしくない。
落ち着かない気分になる。
そんなリッテの心など知らず、ルーヴィッヒはにっこりと微笑んで口を開いた。
「私が元に戻ったら出かけようか」
「……何故」
おもわず素で返してしまった。
「デートだよ」
「は!?で、でーと?え、でーと!?」
「狼狽しすぎだよ」
「いやだって、デートですよ!?デート!」
狼狽するに決まっている。
真知子だってしたことないのに。
アイドルや観劇にはハマらなかったから、そもそも異性を近くで見たことが無いのだ。
今の方がむしろ異性と交流がある。
ほぼルーヴィッヒとクラバルトだけだが。
「なん、なんで、私と」
「ハンカチ」
「ハンカ……チ……」
一気に紅茶にまみれた白い布を思い出して、リッテの顔がサッと悪くなった。
お詫びのお菓子を渡したけれど、よく考えたら不味いものを渡してもお詫びにはならない。
今さらそんなことが脳裏をよぎった。
クラバルトに相談しておけばよかったと思っても、後の祭りだ。
「思い出した?」
「……はい」
「新しいものをプレゼントしてもらおうかな、と」
「それは、はい、早急に準備します」
今度こそクラバルトに相談案件だ。
男物のハンカチならクラバルトに訊けば大丈夫だろう。
頭のなかで段取りを考えているのをさえぎったのはルーヴィッヒだった。
「何を言ってるんだい。準備する必要はないよ」
「え?だって……」
「デートだって言っただろう。一緒にハンカチを購入しに行くんだよ」
「……え?う、ん?」
いまいち頭のなかでルーヴィッヒの言葉がうまくまわらない。
目の前の少年は足を組んで、楽しそうに笑っている。
見た目少年なのに、なんかふてぶてしい。
「おや珍しい。奇声を上げないね」
「えと、なんでそんなことを?」
「私がしたいからだね」
これだから王子様は。
おもわず声に出しそうになった。
危ない。
ようやく頭のなかでルーヴィッヒの言葉が繋がると、リッテはおもいきり首を横に振った。
いっそ取れそうな勢いだ。
「いやいや、大人しく私が用意するのを待ちましょう!」
「合意の上で一緒に行くのと、屋敷の前に突然馬車を乗りつけるの、どっちがお好みかな?」
後者の方が絶対に嫌だ。
たとえお忍びようの馬車だとしても心情的に嫌だ。
絶対にルーヴィッヒは予想しないタイミングで来るに決まっている。
内心べそべそしながらリッテは白旗を上げた。
「……一緒に行きます」
「そう、嬉しいな」
機嫌良さそうに笑わないでいただきたい。
普段よりも幼い顔のせいでほだされそうだ。
「殿下って私にだけ扱いが違くないですか?」
「そんなことないよ。選択肢はあげただろう?」
実質一択でしたけどね。
賢明にもその言葉をリッテは飲み込んだ。




