32
笑うルーヴィッヒに、リッテはむすっとした顔で見返す。
「そもそもルーヴィッヒ殿下って王太子になる気さらさら無いんじゃないですか?」
「よくわかったね。性格がいじわるだからかい?」
「それ忘れてください」
昨日洞窟でうっかり言ったセリフを持ち出さないでいただきたい。
「まあ、そのとおりだね。ルグビウスの方が完璧に向いているし、逆に私はまったく向いてない。仕事人間でもないからね、義務はほどほどでいい」
「魔法を研究する時間がなくなるからですか?」
「研究しているのを、よく知ってるね?」
やべっと内心焦りつつ、リッテはにこりと笑った。
これぞ真知子にはないリッテの淑女スマイルだ。
「魔法に詳しいから好きなんだろうし、それなら研究なんかもしてるのかなと思いまして。この部屋も本が凄いですし」
「ふうん」
内心背中に冷や汗をリッテはかいていた。
魔法の研究をしていることは、ファンブックに一行だけ載っていた設定だ。
ルーヴィッヒをキャラクターと混同しないと決めたのに、やっぱりいまいちこの世界とゲームが上手く切り離せない。
「まあそうだね、子供にならない研究が主だけれど」
「やっぱり不便ですか?」
「そりゃあね」
何を当然のことを言っているという目だ。
本人ではないから苦労はわからないけれど、リッテとしては楽しんでもいいのではと思ってしまう。
無責任で申し訳ないけれど。
「ブランコとか思いきりして、日ごろのストレス発散させたりとか利用すればいいんじゃないですか?」
「ストレス発散になるのかい、それ」
「え、テンション上がりません?」
「上がらないよ」
ハッキリ否定されてしまった。
真知子はたまに夜中の公園で思いきりブランコを漕いでいたのに。
一度職質されて挙動不審にストレス発散をしていたと答えて、可哀想なものを見る目で見られたことがある。
あのときはさすがに恥ずかしさで、帰ってからのたうちまわった。
そっと前世を思い出し遠い目になっていると、ルーヴィッヒがくすりと笑った。
「でも、そうか……子供になったらなったで、楽しむのもありかもしれないね」
「いろんな服着るのとか楽しそうですよね!」
美少年のファッションショーなんて楽しい以外の何物でもない。
しかも相手はルーヴィッヒ。
リッテ史上最高のモデルだ。
ぜひ服をとっかえひっかえさせてほしい。
「それは君がおもちゃにしたいだけだろう。お断りするよ」
リッテの野望は筒抜けだったらしい。
夢は潰えてリッテは残念そうな顔でルーヴィッヒをしゅんと見つめた。




