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「小さくなるほど魔法使って、体は大丈夫なんですか?」
「問題ないよ。体が無理をさせないように強制的にしているだけだから」
「過保護なんですね、殿下の体」
「なんだい、過保護な体って」
言った言葉に、ルーヴィッヒが思わずといったように吐息で笑った。
たしかに体調なんかには問題なさそうだと安心していると、視界の端にピンクと金色がよぎる。
嫌な予感しかしない。
これはとそれを目で追いかけると、やはりピンクのリボン満載な服に長い金髪の妖精がふわりと飛んでいた。
さっきの今だ。
はたき落としたい。
どうでもいいけれど、出てくるたびに服装が違うのでつい可愛いなと感心してしまう。
どっかいけというようにルーヴィッヒにバレないよう顎で出口を示すと、ロリータは右手のひらを頬に当ててペロッと舌を上向きに出した。
どういう反応だ。
そして杖をえいと一振り。
シャランラ。
「ぎゃん!」
今までの比じゃないくらいの雷の音がして、リッテは淑女失格の悲鳴を上げていた。
「すごい悲鳴だな」
ルーヴィッヒが落雷の音でなくリッテの悲鳴に驚いた声を上げるが、そんなことにかまっていられる精神状態じゃない。
立て続けに音が鳴りわずかな振動があるので、また近くに落ちたのかもしれない。
「ひどいな」
本当だ。
さすがにこれは怖い。
真知子は日本の陰湿なホラーは平気だったけれど、洋画の音で驚かせるパニック系ホラーは苦手だった。
洞窟内は暗くもあるし、正直泣きそうだ。
こいつ何してくれてんだとロリータを見れば、ウィンクして消えた。
何でだ。
しかしロリータがいなくなっても雷は止まなかった。
なんて理不尽なんだ。
去るなら止めてくれ。
「ほら」
ひとつ息を吐いたルーヴィッヒが立ちあがり、頭を抱え込まれた。
座っているリッテの頭をルーヴィッヒが耳ごと抱きしめている状態だ。
「多少は聞こえないだろう」
言われて確かに雷がくぐもった音になっている。
ほっと体から力を抜いた。
冷えているなかでも、体温はある。
他人の体は、温かく感じて少し安心した。
「⋯⋯あの、体に異変ってないんですよね」
「ないよ」
「しんどいとか」
「大丈夫だ」
「⋯⋯膝に乗っていいんで、ぎゅっとさせてください」
「⋯⋯」
洞窟内に沈黙が流れた。
リッテだってちょっとどうかなという気持ちはあるのだ。
普段のルーヴィッヒだったら絶対に言わない。
でも今は子供だから、触ってもセーフな気がする。
子供に縋るのもどうかと思うけれど、中身はルーヴィッヒだ。
矛盾していることはわかっているけれど、なんかもうこの散々な状況を何とかしたい。
「はぁ⋯⋯」
長々とため息を吐かれてしまい、頭を抱えられたままリッテはビクリと体を揺らした。
無理を言っている自覚はあるのだ。
「手を握るだけで悲鳴を上げていたくせに」
「なんです?」
ルーヴィッヒが何かいったけれど、頭を抱えられているのでよく聞こえない。
どっちなんだ。
頭を抱えていた手がするりと遠ざかった。
おそるおそるルーヴィッヒの顔を見ると、心底呆れた顔がそこにある。
「好きにしたらいい」
声まで呆れが滲んでいた。




