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にしても寒い。

こういうのは定番で焚火とかあるものだけれど、外に枝を取りに行く気になれないし、そもそも火種がない。

あーあと思ったところで、いや待て。

私、火が出せるじゃんと気づいた。

これで冷え切った洞窟ともおさらばだ。

嬉しさに赤い目をキラキラさせながらリッテはルーヴィッヒに顔を向ける。

勢いよく、ぐりんとそちらへ向いたら若干ルーヴィッヒは後ろへ身をひいた。


「火をだしてもいいですか?」


そうなのだ。

リッテは火が出せる。

これを今使わずしていつ使うのか。

けれどルーヴィッヒは呆れたような目を向けてきた。


「焚き木にするものもないし、それだとすぐに魔力もつきる。君には無理だよ」


一気に撃沈させられた。

やっぱり焚き木の材料がないと無理らしい。


「燃やすものがなかったら、殿下でも無理ですよ、ね?」

「そうだね」


そうだよなあ、魔法使いっぱなしになるからなあ。

いい考えだと思ったのにと項垂れてしまう。

結局ここで凍える以外に選択肢はないらしい。

正直リッテは髪が長いので、濡れた髪が肌にはりついてますます寒いのだ。

真知子は生活空間をとにかく快適にすることに心血を注いでいたから、冬でもこんなに凍えたことはない。

なんでただの事務員より侯爵令嬢の方が過酷な体験をしているんだ。


「仕方ないな」


数舜の沈黙のあとで、ルーヴィッヒがしぶしぶといったようにため息を吐いた。


「リッテ嬢、今からみることは学園では他言無用だ」

「へ?」


まぬけな返事を返したのと、洞窟内が暖かくなったのは同時だった。

ポカポカとした空気に、冷え切っていた手足の先が温まってじんわりとむずがゆい。


「うわ、あったかい」

「火と風の魔法を応用して結界を張ったんだよ」

「凄いですね!」


はしゃぐように声を弾ませて、リッテはルーヴィッヒへと視線を向けた。


「これが他言無用ですか?」

「いや」


ルーヴィッヒが否定するのと同時に、その体が一瞬光に包まれた。

おもわず目を細めたあとで瞼を上げると、そこには子供が座っていた。

五歳くらいだろうか。

濡れて張り付いた黒髪と琥珀色の瞳。

整った顔立ちは不本意そうな表情だけれど、たしかに見慣れたものだ。

制服までサイズが変わっているのはこれいかに、とリッテは一瞬現実逃避をしかけた。


「ルーヴィッヒ、殿下⋯⋯ですよね?」

「今まで隣に座ってたんだから、そうに決まっているじゃないか」


決まってないと思う。

少なくともリッテはしっかりと確認しておきたい。


「え!子供になってる!?」

「魔力が多いせいで、規模のある魔法を使うと防衛本能で体が縮むんだ。何故かご丁寧に服まで一緒にね」

「もしかして、あんまり魔法使わないって言ってたのは⋯⋯」

「これだ」


嘘だろう。

反応するとしたらこのセリフしかない。


(こんなの知らないんだけど!アニメ?コミカライズ?でもどっちもルグビウスがメインのストーリーって聞いてたし)


隠れ設定とかの可能性はと考えたけれど、だてに初めての乙女ゲームに傾倒していない。

ゲームに関わることはすべて網羅済みだ。

そうなるとコミカライズかアニメになるが、そんな設定があったのならルーヴィッヒのことでもっと盛り上がっていたはずだ。

でもそんなものはなかった。


(この世界、本当にどの媒体の世界線なのよ)


うがあっと頭を両手でかきむしりたくなった。

真知子だったら絶対やってた。

リッテでするわけにはいかない。

特にルーヴィッヒの前でだなんて。


(にしてもルーヴィッヒの子供時代って可愛いな)


推しをやめると思ったけれど、ちょっとグラついてしまう。


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