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寒さのせいでほとんど心が折れて、ぐすんと鼻を鳴らしたときだ。
「見つけた!」
聞きなれた声に驚いて顔を上げると、ルーヴィッヒがまっすぐこちらに走ってきていた。
少し癖のあったふわふわの髪は、濡れて頬や首筋に張り付いている。
「なんで⋯⋯」
ここは警備兵か教師なのではとぽかんとしてしまった。
「え、なんで?」
おもわずまぬけ面になってしまう。
目の前まで来たルーヴィッヒがどこか安堵した様子でリッテを見下ろす。
「ラナメリット嬢が君のことを知らせに来たんだ」
「おぉ!」
「けれど道のどこらへんかは覚えていないと言うからね」
「えぇ⋯⋯」
しっかりしてくれ。
おもわず脳内で突っ込んでしまう。
「雨が降ってきたから急いだほうがいいと思って探しに来た」
「よく見つけましたね」
正直もっと時間がかかると思っていた。
けれどルーヴィッヒはなんてことのないように、ぺろりと種明かしをする。
「君の魔力を追ったんだよ」
「え、そんなこと出来るんですか?」
初耳だ。
「君の魔力を動かすために私の魔力を入れてコントロールしただろう。一定量以上の魔力を持っている人間は自分が魔力を入れた持ち主を追えるんだよ」
「⋯⋯はじめて知りました」
「まあその魔力量を超える人間が滅多にいないからね。それにほんのわずかに感じる程度だし離れすぎると無理だから、そんなに使うタイミングはないんだけれど」
「⋯⋯はじめて知りました」
おもわず同じ言葉を繰り返してしまう。
そんな設定はきみキラにはなかった。
これ本当にきみキラか? と思うけれど、登場人物はきみキラだ。
だったらコミカライズかアニメか。
さすがにポスターや公式アカウントでこぼれ話として発表される内容に、そんなコアな設定の情報公開はない。
(やっぱりこれきみキラじゃないの? でもルーヴィッヒは絶対見間違えない自信があるもんな。やっぱりきみキラ?)
ぽかんとリッテが口をあけていると、ルーヴィッヒは雨に濡れながら苦笑してみせた。
「今日はギリギリ範囲内だったし、君の魔力はちゃんと覚えてた。ルグビウスが騎士を連れてくる。ルグビウスも私の魔力を追えるから安心するといい。立てるかい?」
そっと手を差し出されたけれど、リッテは途方にくれた。
これはとても言いにくい。
わざわざ助けにきてもらえて嬉しいけれど、歩けないのでは意味がないと思う。
「そのぅ、足が⋯⋯」
言いづらく、おずおずと申告すればルーヴィッヒが眉を若干寄せた。
申し訳ない。
「痛みは酷い?」
「立たなければ特には」
「じゃあ戻って手当すれば大丈夫かな。ただ、少しならともかく長時間ぬかるんだ地面で抱えて歩くのは危ないね」
そりゃあそうだ。
抱えられるほうもハラハラする。
もういっそこのままここにいる覚悟を決めて、ルーヴィッヒには雨宿りしてもらおうと思ったときだ。
「うっひゃあ!」
ふわりとした浮遊感に悲鳴を上げたら、ルーヴィッヒに抱き上げられていた。
間近にある顔に鼻血を出しそうな気分になり、動揺しながらも鼻の下をさりげなく指でこする。
鼻血は出ていない。
よかった。
いやこの近さはよくはない。
「あ、あの、抱えるのは危ないって!」
「木の下に行くだけなら、たかが数歩だよ」
大き目の木の下に来ると、なんとか雨をしのげそうな感じだ。
ほっとした瞬間、ポンと小さな影が目の前に現れた。
思わず上げそうになった悲鳴をなんとか飲み込む。
目前にいたのはロリータだった。
あいかわらずポップでファンシーな杖を手にしている。
はあいと言わんばかりに、ご機嫌に手を振る姿は正直イラッとする。
今こっちは大変なんですが。
半眼を向けそうになると、ロリータはわざとらしいくらい可愛いポーズで杖を振った。
シャランラ。
キラキラした音が響いた瞬間、ドォォォンと大きな音が響いた。
空に、光が眩く一瞬の明るさがおとずれる。
かなり大きな雷だった。
「これは、木の下にいたら危ないな」
雷の落ちる可能性が高い。
そんなことを言っていたら、ほんの数メートル離れたあまり大きくはない木に雷が落ちた。
「ひぎゃっ」
「ッ」
リッテの悲鳴とルーヴィッヒの息が詰まるのは同時だった。
さいわい火事になるような火は出ていないけれど、木はしっかり枯れている。
たしか幹や枝を通じて雷が流れ、枯れることがあると前世の漫画で読んだことがあった。
本当にこんなになるんだと思っていると、ひらりと舞ったロリータが楽しそうにケタケタと笑っている。
悪魔か。
(こいつ狂暴すぎでしょ!?)
おもわず張り手で叩き落としたくなる衝動にこらえていると、ちょいちょいとロリータが雷の落ちた木の奥を指さした。




