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そのあとは会話が続かなくてどうしようと思っていると、男子生徒がリッテと話しているせいでスピードの落ちたラナメリットに声をかけてきた。
「ラナメリット嬢、大丈夫かい?」
「足は痛くない?」
実に甲斐甲斐しい。
ラナメリットは「大丈夫よ」「痛くないわ」と明るい笑顔で返事している。
「男子生徒の皆さん、先のグループが伝達があるから来てほしいそうですわよ」
声をかけてきたのは、実は同じグループだったケラミルカだった。
お茶会のせいで若干の苦手意識が何となくあるせいか、こちらも勝手に気まずく思っている。
甲高い声は少し耳に痛いけれど、それが地声のようなので仕方がない。
男子生徒がしぶしぶと先へと行ってしまうのを見送って、ケラミルカはそのまま後ろにいた女性徒と共ににっこりと笑った。
「ラナメリット様、よろしくて?少し頼みたい事があるの」
「私ですか?」
困惑したようなラナメリットがちらりとリッテを見る。
これは一緒にいてほしいのだろうか。
うーんとラナメリット視線の意味を考えていると、結論を出すよりケラミルカが唇を開いた。
「リッテ様は先に進んでくださいませ。少し内密にしたい内容なのです」
そう言われたら図々しく留まることは出来ない。
「じゃあ」
何ともいえない気持ちで口を開くと、ケラミルカ達に見送られてリッテは先へと足を進めた。
まるでリッテが歩き去るのを確認するかのように、視線がものすごく背中に突き刺さる。
しばらく歩いてから、リッテはピタリと立ち止まった。
「⋯⋯おかしくない?」
絶対におかしい。
おかしさがぷんぷんする。
定番だとこのあとラナメリットはいじめられたりするのではないか。
「ゲームに出てくるいじめっ子はリッテだけのはずなんだけどな」
やっぱり怪しさ満点だと、リッテは踵を返した。
そっと元いた場所まで戻ったら、ラナメリットもケラミルカの姿もない。
けれど少し距離があるらしい方向からケラミルカの甲高い声が聞こえてくる。
本当に特徴的な声だ。
道を外れたところにいるらしい。
そちらへ足を向けると、木々や茂みのあいだから、ラナメリットを取り囲む集団が見えた。
「あなた少し男性の方々と近すぎるのよ」
完全にいじめ現場だ。
でもケラミルカの言い分もわかると言えばわかる。
ラナメリットはクラスでも男子生徒に親切だ。
もちろん女子性徒にも親切だけれど、女子生徒はお礼ですますところを、男子生徒はその後親密に話しかけたりする。
結果、ラナメリットは女子生徒より男子生徒が周りに増えていっているのだ。
まるで漫画のヒロインのようだと思ったけれど、そういえば乙女ゲームの主人公だ。
なら仕方ないのだろうかと納得いくような、いかないような気持ちになる。
これ止めに入るべきだよなあと思っていると、ラナメリットの足元が崖のようになっていることに気付いた。
滑り落ちたら、どう見ても危ない。
「いちいち男性に近づくのはやめなさい。生徒会の方々とも馴れ馴れしくして、目障りなのよ」
ドンとケラミルカが忌々しく眉を歪めながら、ラナメリットを突き飛ばした。
「ちょっと!」
ただでさえ足元が危ないのに、とリッテが飛び出す。
滑り落ちそうになったラナメリットの青い瞳がリッテを見て丸くなる。
ラナメリットの体が落ちないように腕を掴んで引っ張ったけれど、似たような背格好の人間なので一緒に転がりそうになった。
それを、遠心力でラナメリットをケラミルカ達の方へ突き飛ばす。
当たり前だけれど、リッテはそのまま崖下へと滑り落ちていった。
「ひゃあああ!」
建物二階分くらいの高さから滑り落ちたリッテは、べちゃりとなんとか顔を守って着地した。
リッテの顔に消えない傷とかできたら、真知子は泣いてしまう。
なんとかよろよろと起き上がると、ラナメリット達が思ったより上の方にいた。
「嘘でしょ」
今頃になってリッテは事態を把握して顔色が悪くなった。
咄嗟に飛び出して動いたけれど、ここまで高さがあると頭を打って大事になっていた可能性もある。




