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 最近の傾向を見る限り、またロリータが現われて何かしてもおかしくないと思ったのだ。

 けれど、影も形もない。


(なんでロリータは二人の邪魔に来なかったのかしら)


 あれれと首を捻る。

 まさかルグビウス限定なのだろうかと思うけれど、よくわからない。

 こんなことになるのなら、アニメを見ておけばよかったと詮無い事を考えてしまう。


(それにしてもラナメリット……まさかサイールにまんざらじゃないなんてこと、ないよね?)


 このゲームは乙女ゲームが流行ってからの作品のような逆ハーレムエンドはない。

 必ず二人きりでエンディングを迎える。

 ルートがまだ確立されてなかったらサイールの可能性も出てくるし、ルグビウスで確立されているのならバッドエンドの友情で何の変哲もないエンディングになってしまう。

 それは由々しき事態だった。

 結局生徒会の仕事をこなすあいだそんなことを悶々と考えてしまって、いまいちはかどらなかったのは反省である。

 生徒会の活動時間が終わり、リッテはラナメリットと生徒会室を出た。

 いまだモヤモヤしていたリッテは、どうしようとかお節介かなと思いながらも重い口を開くことにした。


「あのさ、ラナメリット様」

「どうしました?」


 きょとんとするラナメリットは大変可愛らしい。

 いやわかっている。

 先程サイールにしたことにラナメリットに他意はないはずだ。

まさか逆ハーレムを目指していたら驚きすぎてしまう。

言いにくそうに両手の指先を不自然にもじもじさせながら、リッテはチラリとラナメリットを見やった。

 そうして小声でぽそぽそと囁く。


「ルグビウス殿下が好きって言ってたでしょ?さっきみたいなことをするのは、やめた方がいいわ」


言ったぞと身を固くする。

余計なお世話だとか言われてしまうだろうかと戦々恐々としていたけれど、ラナメリットは不思議そうにパチパチと瞬きを繰り返していた。


「さっきのって、ボタンをつけてあげることですか?」

「う、うん」


 頷くと、また瞬きを繰り返す。

 心底不思議そうな顔に、リッテは自分がよほどおかしなことを言ったかと不安になってきた。


「でもああしなきゃボタンが取れて、なくしてしまったかもしれませんし」


 いい子すぎる。


「それに、姉も母もああしたと思いますよ」


 ことりと首を小さく傾ける。

 ヒロインになるべき環境のサラブレッドという言葉が脳裏をよぎった。

 あほなことをつい考えてしまったけれど、逆ハーレムは思い過ごしだったらしい。

 本当によかったと思う。 

けれどラナメリットは何故リッテが注意したのかはわかっていないようだ。

まさか男ウケが良すぎるから自重した方がいいなんて言えない。

どうしようと思っていると、生徒会室の扉が開いた。

二人してそちらを見やると、ルーヴィッヒだ。

一人で帰るらしい。

扉を閉めると、二人に目を向けてきた。


「帰らないのかい」

「いえ、今から帰るところです」


 おっとりとラナメリットが答えると、そうだと彼女は鞄を開けた。

 取り出したのは小さな包みだった。


「チョコどうぞ、ルグビウス殿下にお好きだと聞きました」


 差し出されたのは一口サイズのチョコレートらしい。

 というかいつのまにかルグビウスとそんな話をする仲になっていたのかと驚く。

 けれど、そこで何故ルーヴィッヒにチョコレートをと疑問が浮かんだ。

 これではサイールだけでなくルーヴィッヒにもフラグが立ってしまうのではと心配になるし、何だかちょっともやつく。

 受け取るだろうと思うと、ルーヴィッヒをなんとなく微妙な気持ちで見つめてしまった。


「いや、遠慮しておくよ」


 だから断ったことに吃驚した。

 美少女にささやかなプレゼントを渡されて、断るなんて思いもしなかった。

 ラナメリットも断られるとは思わなかったのか、チョコレートを差し出したまま困惑している。


「チョコレート好きなんですよね?」


 ラナメリットが尋ねると、ルーヴィッヒは冷めた眼差しで見返した。


「君に貰う理由がないし、私がチョコレートを食べるからと言って君には関係ないだろう?」


 キッパリと言い切る。

 ええ!とリッテは内心で声を上げながら驚いた。

 なんだこの対応と目を丸くする。

 穏やかでひたすら優しい王子様の対応ではない。

 ラナメリットも手を下ろしてしゅんとしてしまっている。


「わ、私帰りますね」


 いたたまれなくなったのか、ラナメリットはそそくさとその場からいなくなってしまった。

 あんな冷たい反応をするなんて可哀想だ。


「ちょっと、そんな言い方ルーヴィッヒ殿下っぽくないですよ」


慌てて口を開くと、ルーヴィッヒがやはり冷めた目でリッテを見やった。

ゲームではついぞ見せたことのない顔に、ヒヤリとする。


「私っぽいって何だい?」

「優しい、いい人って感じで……」


 だってルーヴィッヒは推しだ。

 ゲームのなかではいつもニコニコと朗らかで、たまに困った顔を浮かべるくらいしか変わらなかった。

 ふ、とルーヴィッヒが吐息で笑う。


「少し面白いかと思ってたら……私のことを何も知らないのにおめでたい頭だね」

「なっ!」


 あまりな言い草に、カッと頭に血がのぼった。


「知った気にならないでくれ」


 切り捨てるように言い切ると、ルーヴィッヒがさっさと背を向けて歩き出す。

 それにわなわなと震えることしか出来なかった。

 腹の奥がむかむかとして、ルーヴィッヒとは反対の廊下へと大股で歩き出す。

 淑女なんて知ったことかといわんばかりの大股でズカズカと歩き、人気のないところまで来ると立ち止まった。


「ムカつくー!」


 思わず上を向いてわめいてしまう。

 誰もいないことをいいことに、遠慮容赦なく声を上げた。


「知ってますけど!ちゃんと把握してるけど!」


 ゲームで推しだったのだから、設定も隅々まで呼んだのだ。

 そりゃあ今は記憶がだいぶ薄れているけれど。


「いやチョコ食べるのは知らなかったけど……魔法得意なのは知ってたし!」


 推しだったけれど、あんな吐き捨てるように言われて黙ってはいられない。

 もしやアニメだとあんなことを言うのかと思った。

 しかし、いやいやと首を振る。


「私のなかで【きみキラ】はゲームだけだから!」


 そもそもヒロインに攻略対象者が冷たくするとかないだろうと憤る。

 【きみにキラリ】は山とか谷とかはない、ひたすら甘くて優しいだけのゲームなのだ。

 その攻略対象者があんなに辛辣なんて、ありえないとリッテは鼻を鳴らした。


「推しだったけどもういいわ!私はヒロインの応援だけしてるわよ」


 ムカムカする腹の底を鎮めるように言い切ると、リッテは大股で今度は帰宅のために歩き出したのだった。


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