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 学園での昼休み。

 授業が終わり、リッテはドキドキしながらラナメリットの席へと近づいた。

 今日は思い切って昼食を誘うつもりだ。

 悲しいことに親しい友人はまだ出来ていないので、昼食はいつも一人かクラバルトが一緒だった。

 ときおりケラミルカに誘われるけれど、彼女とその友人が一緒の空間ではリッテは自然と空気のようになるため気を使うことこのうえない。

 だったらラナメリットの美貌を眺めながら仲良くしたいと勇気を出すことにしたのだ。

 ついでに攻略対象の誰かを選んでいるのかも気になる。

 入学式に近づいていたルグビウスとくっついてほしいと個人的には思っているので、その辺を確かめたい。


「ラナメリット様」


 ドキドキしながら話しかけると、ラナメリットが顔を上げた。

 リッテの姿を視界にいれて青い目を丸くする。


「リッテ様、どうなさいました?」


 少し緊張している様子のラナメリットにリッテは内心怯えないでほしいと思いつつ、にっこりと笑って見せた。


「一緒に食堂に行かない?」

「私と、ですか?」

「うん」


 大きく頷くと、困惑したような表情になった。

 そしておそるおそるという様子で口を開く。


「あの、すみません。私家からランチを持ってきているので⋯⋯」


 その言葉にハッとする。

 すっかり記憶が薄れつつある乙女ゲームの内容が一瞬脳裏に過ったのだ。


(そういえばラナメリットの手作りイベントがあった気がする!その伏線かな?)


 お弁当持参の生徒はあまりいないので、すっかりラナメリットも食堂に行くと思い込んでいた。

 申し訳なさそうに鞄から四角いランチボックスを取り出したラナメリットに、なるほどとリッテは頷いた。


「お弁当なのね!じゃあ食堂でサンドイッチ貰ってくるから中庭で一緒に食べましょう」

「え!」


 ラナメリットが声を上げたので、もしや迷惑がられているかとリッテは眉を下げた。


「もしかして一人で過ごすのが好きだったりする?」


 働いていた真知子も昼休みは趣味のためにぼっち飯を極めていたので、その気持ちはわかる。

 無理強いはよくないと思い確認すると、ラナメリットはぽかんとした顔でいいえと首を振った。

 どうやら一緒に食べてくれるらしい。


(優しい!いい子だなあ)


 ほくほく顔で中庭に先に行っていてほしいと告げると、リッテは急いで食堂に向かった。

 これで中庭のイベントに遭遇して間近で見れるかもしれないと、嬉しくなる。

 サンドイッチをランチボックスに詰めてもらって、速足で中庭へと急いだ。

 中庭の木陰にあるベンチで、ランチボックスを膝に乗せたラナメリットが座っている。


「お待たせ!」

「い、いえ」


 にこやかにベンチへ近寄り、隣に腰を下ろす。

 やはりラナメリットはぎこちない。

 まあそのうち慣れて緊張もほぐれるだろうとリッテは楽観視していた。

 真知子感の強いリッテはラナメリットが気にしている身分差を、あまり気にしてはいない。

 ラナメリットがランチボックスを開けると、具がしっかりと挟まれたサンドイッチが入っていた。


「ラナメリット様の手作り?」

「え、ええ、うちはそんなに裕福じゃないので自分達で食事も作れるんです」

「自分でお弁当作るなんてえらいね」

「え!」


 ラナメリットが驚いたような声を上げるので、リッテは不思議に思い首を傾げた。

 真知子時代に毎日仕事にお弁当を持って行っていたので、リッテはお弁当作りの面倒くささを知っている。

 オタク資金にまわすための節約じゃなかったら買って済ませたかった程度には面倒くさかったのだ。


「どうかした?」

「いえ⋯⋯」


 いまいち歯切れが悪い。

 何だろうと不思議に思いながらも、リッテは自分の分のランチボックスの蓋を開けた。

 卵のサンドイッチを手に取りあぐりと齧りつく。

 お腹が減っていたのだ。

 何故かラナメリットが目を丸くした後に、自分もチーズとハムが挟んであるサンドイッチを手にした。

 もむもむと食べ進めながら、これは聞いておかねばとリッテはラナメリットに目線を向けた。


「そういえば入学式でルグビウス殿下に抱き留められてたよね」

「え、ええ」


 リッテの言葉にラナメリットがサンドイッチを食べる手を止めて頷いた。

 その頬はほんのりピンクにじわじわと染まっていく。


「素敵な方ですよね」

「もしや一目惚れした?」


ずいと好奇心旺盛に尋ねれば、ポッとラナメリットの頬が林檎のように赤くなった。


「そっかそっか」

「あ、あの、ルグビウス殿下は廊下で会うと挨拶してくださるんです。顔を覚えてくれたみたいで」

「うんうん」


 攻略ルートはルグビウスで確定らしい。

 ぜひ二人のイチャイチャが見たいと思っていたので、何よりだ。

 リッテは満足気ににっこりした。


「あ」


 ふいにラナメリットが声を上げた。

 何だろうとラナメリットの顔を見れば、少し潤んだ瞳で中庭に面した回廊の方を見つめている。

 視線の先を追うと、そこにはルグビウスが歩いていた。


(これはイベントあるんじゃないの!?)


 思わず鼻息が荒くなりそうになるリッテだ。


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