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おっちゃん漁師の異世界大漁記~まったり釣りライフをおくりたい~  作者: 紅葉ももな


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36話『危険物な魔石水』


「うふっ、あー初恋姫の祝福ですか? 私が貴方を愛するがゆえに授けた愛の祝福ですわ!」


 うん、意味がわからない!


「ふふふっ、意味がわからないって顔に書いてありますよダーリン」


「わからないからな実際に」


「そうですね……わかりやすい祝福だとダーリンと言葉が通じるようになったでしょう?」


 そう言われてみて、はじめはアクアリーナが何を言っているのか分からなかったなぁと思い出す。


「他にも色々な良いことが起こるのが人魚姫から贈られる祝福だと認識していただければ問題ないですよ?」


 うまいことアクアリーナに話をそらされているような気もしないでもないが……どうやらこれ以上話してくれそうに無いので、俺は追求するのをやめた。


「ところでアクアリーナは良く俺がどこに居るのかわかるなぁ」


 そう告げると、ギクッと何かやましいことでもあるのかと思うくらいわかりやすくアクアリーナが視線を反らした。


「アクアリーナ? もしかしてこれも祝福か?」


「黙秘いたします」


 いや、否と言えずに黙秘する時点で肯定しているのと同じ事だろう。


 つまり初恋姫の祝福に俺の現在地を把握できる力があるのだろう。


「まぁいいや、とにかく必ずラグーン様に断ってから来い、わかったな?」


 ポンポンとアクアリーナの頭を軽く叩いて、盥をキャビンへと持っていく。


「うわぁ~綺麗、なにこれ……魔石?」 


 背後から聞こえた声にハっ、と振り返ればアクアリーナの手には、浄化済みの真っ赤な魔石があった。


 空に翳すようにして魔石を覗き込む姿に俺は慌てて盥を床に置くとフロントデッキに戻った。


「アクアリーナ、その魔石絶対に落とすなよ!」


「えっ?」


 アクアリーナを刺激しないようにゆっくりと距離を詰めていく。

 

「さぁいい子だからそれをこっちに返しなさい」


 俺の様子に何かを感じ取ったのだろう、両手に握り込んだ魔石と俺を数度見比べてむぅぅと唇を尖らせた。


「さっきの入れ物にいっぱい合ったじゃない、こんな綺麗魔石初めてみたんだもん! 一つくらい私にくれても良いじゃない」


 確かにその魔石は綺麗だ、一見しただけなら宝石のルビーと間違うだろう。


 だがそれは安全なルビーじゃない、そうじゃないんだ!


 キャビンへと持っていった盥を抱え直してフロントデッキの、アクアリーナの前に静かに降ろす。


 自分が持っている魔石よりも大きくて、キラキラと輝く魔石が沢山水に沈んでいる様子にわかりやすくアクアリーナの瞳が輝く。

 

「……分かった、そんなに欲しいならこの中にある好きなやつをくれてやる」


「いいの!?」


「ただし、その手の中に持っている魔石をここからあの岩山に当てることができたらな」


 わぁ~いと喜んでいるアクアリーナの言葉を遮り、さっき自分で魔石を投げつけていた岩場を示して見せる。


「わかったわ、あそこに投げればいいのね? えいっ!」


 アクアリーナが投げた魔石は、俺が想像していたよりも美しい放物線を描いて岩場へと飛んでいく。


 爆風に備えてアクアリーナの前に移動する。


 カツンと波の音に混ざって小さな接触音が聞こえたあと、爆音と爆風が船体へと押し寄せてきた。


 揺れる船体のサイドレールに手をついて爆風を耐える。


 さきほど自分で投げた時には飛んでこなかった小石が背中に当たる。


 アクアリーナの前に移動しておいて正解だったな、さっきより威力が強いのは魔石の大きさの違いだろうか。


 アクアリーナな様子を確認すれば、驚愕の表情を浮かべながら俺の服に縋りついている。


「それで?魔石、欲しいのか?」


 そう聞くとブンブンと音がしそうなくらい顔を横に振っている。


「いっ、要らない! 要りません!」


 そりゃそうだろう、こんな危険物を欲しがるやつは仕事で鉱山なんかの岩山吹き飛ばす人か何かを壊す仕事についている人……もしくは絶対に魔石を持たせちゃいかん様な危険人物認定出来るやつだろう。

 

「じゃあこれはしまっていいか?」


 確認すれば今度は首が落ちるんじゃないかと心配になる勢いで頭を上下に振っている。


「この魔石は何なんですの? 私が知っている物とは色も、危険度も桁違いなのですが」


 爆発のショックに鳥肌が立ったのかアクアリーナが自分の白い腕を擦っている。


「あー、この間女神様から加護を頂いてな、魔石に加護で授かった力を使ってみたら出来た……」


「出来たって、こんなに沢山?」      


 困惑気味に見られて視線をそらす。


「綺麗だったからな、調子に乗って力を使ってこのザマだ……ちなみに爆発するのに気が付いたのはやらかした後だった……」


 なんの言い訳にもならないかも知れないが、俺は爆発するのを知っていて量産したわけではない。


 この事実だけはしっかりと主張させてもらう!


「とにかく、この魔石は色んな意味で世に出しては駄目な物なのはアクアリーナもわかるだろう? 確認なんだが、他にもこんなふうに爆発を起こすものがあったりするか?」


 瀬織津姫様の話ではこの世界は、俺が住んでいた地球の何千も未来だと言う。


 それならばダイナマイトやミサイル、原爆なんかも残っている可能性は否定できない。


「いえ、初めて見ましたわ……少なくとも私達マーリーン族は所持していないと思います」


 浄化済みの真っ赤な魔石は水につけておけば爆発はしなかったからな。


「ただ、大陸のダーテ藩のチェスビーは攻城戦の際に火を付けた魔石を空から無数に投げ込むらしいです」


 アクアリーナの言葉に頷く。


 浄化前の魔石を溶かして第八豊栄丸の燃料にしているのだから、揮発性や燃焼性があっても何ら不思議ではない。


 そこまで考えてハタと気がつく。


 桶に入っているこの魔石……水に溶け出した場合の燃焼力ってどれほどなのかと、そして揮発した時の影響力がどれほどなんだろうかと……


 揮発した際にもし発火した場合の被害が怖い。


 キャビンには簡易キッチンもあるし、第八豊栄丸のディーゼルエンジンをかける際に揮発した空気に引火したら大惨事間違いなしだ。


 俺はすぐにキッチンから紙コップを取り出してくると、大量の浄化済みの真っ赤な魔石が沈められている盥から少量の水を組み上げてその場に置く。


 ガソリンのような匂いはしないけれど、白い紙コップに入れたおかげが水が淡い赤色に染まっているのがわかった。


 紙コップに入った水に木綿の手芸糸を浸して濡らし、その端を紙コップの縁に巻きつける。


 魔石水の入った紙コップを海へと溢れないように流してやると、プカプカと水面を漂いながら潮の流れに乗って船から離れていく。


 ピンと紐が伸び切ったところで、キッチンから取ってきた割り箸にも糸を括り付けた俺は、念のため手を洗った。


 なるべく盥から距離を取って、キッチンから持ち出した火口まで長さがあるライターに火をつける。


 割り箸の先にある糸へと近づけると糸の上を、火が勢い良く紙コップめがけて走っていった。


 しかし糸は燃えていないようで、紙コップに火が燃え移ってもしばしの間切れる事なく耐えていた。


 魔石水が燃える事は確認できた。


 揮発性はわからないけれど、浄化済みの魔石を使った魔石水はガソリンだと思って対応したほうが安全だと理解した。


「魔石は屋外で管理だな……」


 俺のあほぅー!!!


「あっ、あのう! やっぱり小さいの一つだけもらっちゃだめ?」


「いいけど、マジで気をつけろよ?」


 何かいい入れ物はなかったかと、キャビンの中を物色すると、何年か前にお土産でもらった星の砂が入った小瓶が出てきた。


 小さな星の型の白い物が沢山入っている土産物だ。


 瓶に入っている砂を少し取り出して、魔石が入る量に調節し、中に水を入れる。


 瓶の口から入りそうな小粒の浄化済み魔石を一つ、慎重に瓶の中へ入れて、元々着いてきたコルク蓋を間違っても抜けないように、気合いを入れて嵌め込んだ。

 

 それだけだと、落とした時に気が付かない可能性もあるため、瓶の口の凹凸に引っ掛けるようにして革紐を巻き付けると、外れないようにしっかりと固定する。


 革紐は長めにしたので、これなら首からかけておけるだろう。


 取り扱いに注意は必要だが、火力と破壊力は実証検証済みなので、力の弱い女性の護身用だと思えば優秀な武器になるかもしれない。


「よしっ、こんなもんだろう」


 出来上がったネックレスの革紐を持ち上げれば、小瓶がゆらりと揺れて、その度に中の魔石がコロリ、コロリと白い星の砂の上を転がりキラキラと光を反射している。


 これは……宝石だと言われれば信じてしまうのではないだろうか。


 予想以上にきちんとした宝飾品のような出来栄えになったネックレスを持ってフロントデッキに戻ると、期待が全身から迸るアクアリーナが待ち構えていた。


「ほら、これなら首から下げておけるだろう? もし危険なことに巻き込まれたときは、この紐ごと相手の側にある岩かなんかの固い物に投げつけてやれ」


「わかったわ……ところでダーリン? もちろん着けてくれるのよね?」


 くるりとこちらに背中を向けるとアクアリーナは長い真紅の髪を片側に纏める。


 白い頸が眩しくて、ドギマギしながらネックレスをアクアリーナの首に回す。


「あー、紐、長くないか?」


「ん、大丈夫よ」


  長さを確認して紐を首の後ろで二重テグス結びでしっかりと繋ぎ合わせる。


「よしできたぞ」


 我ながら良い出来だと自画自賛していたら、不意にシャツの胸元を引っ張られて、アクアリーナに唇を奪われた。


「なっ!?」

 

「ダーリンありがとう! 大切にするね!」


 それだけ告げると、水飛沫を上げてアクアリーナは海へと帰って行った。


「くそっ、不意打ちマジでやめてくれ……」


 赤面しながらしばらくフロントデッキの上でしゃがみ込む羽目になったのは言うまでもない。

 

 

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