35話『魔石は浄化したらアカン!』
翌早朝、俺は瀬織津姫様の頼みとグレードに合流するべく、オーナガワ村の港で出港準備をしていた。
瀬織津姫様に授かった浄化の力で、これまで溜め込んだ魔石を浄めていく。
少しくすんだ色をしていた赤い魔石が、澄んだルビーのような透明な魔石へと変わっていくのが面白くて次々と浄化する。
はじめは一つ一つ手に取って浄化していたが、だんだんと面倒臭くなって纏めてザルに入れて……悩んだ。
「このままでは出来ないんだな……」
ザルのままでは出来なかったので、しばし悩んだ俺は、ザルが入る大きさの金盥を第八豊栄丸の収納スペースから引っ張り出して、その中を汲み上げた毒海の水で満たした。
海水に手を触れて先程魔石を浄化したときのイメージで力を注ぐ。
残念ながら金盥一杯分の水量では見た目は普通の海水と大差ない。
目に見えて変化が分かるほどに、色や匂いがが変わるわけでもない。
とりあえずこの前チェスアントが攻めてきた時に、苛性ソーダ水を作った時に使用したPH試験紙の残りを浄化した海水につける。
もし毒海の水のままなら以前調べた通り、この黄色いPH試験紙は強いアルカリ性を示す濃紺に変わるはずだ。
浄化した海水からPH試験紙を引き上げると、その色は緑色……本来の海面の酸性度と同じくらいだと示す数値に近い値を示していた。
うーん、瀬織津姫様の浄化の概念が難しいな……てっきり海水を浄化すれば、中性の真水とか湧き水、又は理科とかの実験で使用するような純水になるのかと思っていた。
しかし毒海の水を浄化したのが清海の水に変化するならば、瀬織津姫様の浄化は本来のあるべき姿に戻すのかもしれない。
魔石が消えなくて良かったー、きっと長い年月で魔石は魔魚や魔獣に取ってあるべき姿の者なのだろう。
浄化済みの海水に数個の魔石を晒すと、魔石から滲み出るように海水が何かが溶け出していく。
もう一度PH試験紙を海水につければ、またアルカリ性へと傾いた。
アルカリ性の物を浄化するのか?
考えれば考えるほど訳がわからなくなるな。
うん、考えるのやめるか……
無心でザバザバと網ごと海水につけて海水ごと浄化しながら、溜め込んでいた魔石を半分ほど残して清める。
綺麗になった魔石を、グレードが取り付けてくれた魔石を燃料にするタンクに入れると、前に見た時はじわじわと溶けていた魔石が直ぐに融解した。
……何があった?
もしかしてこれも魔石を浄化した影響か?
試しに浄化済みの魔石を燃料にして船を動かした俺は、慌ててエンジンを切った。
うわぁ、あっぶねぇ! ディーゼルエンジンの音が恐ろしい事になっていた。
本来ならば軽油で動くディーゼルエンジンに間違ってガソリンを入れてしまった様な音を立てるエンジンに俺は急ぎ燃料を抜いた。
やべぇ、浄化済みの魔石は燃料にしちゃいかん!
ディーゼルエンジンが火を吹くところだった。
新たな発見に冷や汗を流した俺は燃料用の未浄化魔石を確保し直した。
しかし、この大量の浄化済みの魔石どうするかなぁ……
海水に浸かったままの浄化済み魔石をひとつ掴んで取り上げた俺はその魔石をなんとなく少しだけ距離が離れた岩場に向かって投げた。
その次の瞬間、カツリと小さな落下音に続いて激しい閃光と轟音、爆風が第八豊栄丸に襲いかかった。
激しく揺れる船体に必死に縋り付き、なんとか爆発に堪える。
怖いわ! 浄化済みの魔石って爆弾か!?
慌てながらも直ぐに浄化済みで水揚げしてあった魔石を海水の桶に戻した。
まだ心臓がバクバクと嫌な音を立てている。
魔石を浄化するのは危ないと再認識した。
幸い水の中なら爆発しない事に気が付いてホッとしたけど……この浄化済みの魔石は海水に浸けたまま封印じゃ!
こんな危ないもん、世の中に放ってたまるかってんだ!
本当は第八豊栄丸にこんな危険物を載せておくのも怖い、でもこれをオーナガワ村や金花山に保管して子供がいたずらしたらと思うとゾッとする。
かと言ってこれだけの浄化済みの魔石を海に捨てたところで、瀬織津姫様の力で浄化した魔石がまた汚染されるかもわからない。
しかも、魔石を食べた魔魚は巨大化と凶暴化するらしい。
もし食べられずに済んだとしても、アクアリーナ見たいな人魚が海底で暮らしているのだ。
海底で浄化済みの魔石を拾われて爆発なんて事になったら目も当てられない。
金盥の中でキラキラ光る浄化済みの魔石を恨めしそうに睨みながら俺は深い深ーい溜息をついた……
「はぁ、これは俺が責任を持って管理するしかないかな……」
貰ったばかりのファンタジーっぽいチートな能力に浮かれていた、過去の自分を殴り飛ばしてやりたい!
「ダーリン!」
「うわっ!?」
突然声をかけられて驚いた俺は、危うく金盥をひっくり返しそうになって慌てて抑える。
海水は少し減ってしまったが、爆弾魔石は無事だった。
声の主を振り返れば、深紅の髪の毛が目に入る。
甲板に上半身を乗り上げて、両手で頬杖を付きながらこちらを見上げるロイヤルブルーサファイアの大きな瞳が、俺の驚く姿を見てニコニコと笑っていた。
「な、なんだアクアリーナか、驚かせないでくれよ」
ここはアクアリーナ達、人魚が治めている清海なのだから現れて当たり前なのに、沖に出ていたので油断していた。
「ぶぅ~、私はダーリンに会いたかったのに、自分の番に対して酷くないですか?」
わかりやすく頬を膨らませて怒って見せるアクアリーナの濡れた頭を撫でる。
「酷くない酷くない、それで? 今日は護衛と一緒なんだろうな?」
そう声を掛けると、わかりやすくアクアリーナが視線を反らした。
「お前な~、また親父さんに泣かれるぞ?」
アクアリーナの父親であるラグーン・アーリエは娘の番だと勘違いして俺に戦いを挑んでくるほどに、愛娘のアクアリーナを溺愛している。
「だって、護衛の泳ぐスピードに合わせていたら、ダーリンの所に着く前に日が暮れてしまうもん!」
もん!じゃないだろう、もん!じゃ!
今頃ラグーンが居なくなったアクアリーナを探しているだろうな……ここにいるよと知らせてやりたいのは山々だが、スマホや携帯電話なんて物はこの世界に無い。
「しかし、まいどまいどよくもまぁ俺の居場所がわかるよな……って、そういえばアクアリーナ」
「なぁに?ダーリン」
アクアリーナに会ったら確認しようと思っていた事があったのだと思い出した。
俺のジョブランクにちゃっかり混ざっていた……
NEW 『初恋姫の祝福』
『人魚姫の祝福』のなかでも強力な祝福が『初恋姫の祝福』詳しくは番に聞くように!
これである。
「初恋姫の祝福ってなんだ?」
「えっ!?」
俺からその言葉が出てくるとは思っても見なかったと言わんばかりの表情でアクアリーナが微笑んだ。
「うふっ、あー初恋姫の祝福ですか? 私が貴方を愛するがゆえに授けた愛の祝福ですわ!」
うん、意味がわからない!




