始まらない物語
物語を書いてみようと思った。
自分にしか書けない、飛び切りの物語。
自分そっくりな主人公を用意しよう。
適当に剣を振り回すだけで、敵がどんどん死んでいくようなちょろい展開を用意しよう。
適当に土を掘ったら、金貨がわんさか出てくるような至れり尽くせりの状況を用意しよう。
適当に相づちうったら、皆が自分に陶酔するような苦労知らずの人間関係を用意しよう。
適当にカッコつけたら、かわいい女子がみんなで仲良く自分を取り合うようなモテてモテて仕方がない環境を用意しよう。
せめて物語の中ぐらいは、リア充を目指して頑張ってみよう。
身長体重は自分と同じでいいだろう。
使える魔法は適当でいいだろう。
使える武器は適当でいいだろう。
仲間の数は適当でいいだろう。
めんどくさい政治関連に強いキャラを適当に作っておこう。
難しいセリフは省略しても問題はないだろう。
ただキャッキャウフフで物語が進んだらそれでいいだろう。
自分を取り合う女子はきっちり設定を考えておきたいな。
エロフは絶対必要だな。
銀髪碧眼、でかすぎる胸にツンデレ傾向、そして床上手。
ロリは絶対必要だな。
金髪碧眼、つるペタの甘えっ子、どう見ても一桁だけど異世界だからもう成人してる体で。
獣人は絶対必要だな。
ケモミミ、ビキニアーマー装着済み、一途で月に一度盛りが来てしまうめんどくさいやつ。
定番ダークエルフも絶対必要だな。
褐色の肌につるペタ、やけに頭が良い、でもド変態でこっちがドン引きするような性癖持ち。
ごく普通の女子高生も絶対必要だな。
ポニーテールの揺れる、ちょうどいいサイズの胸に勝ち気な瞳、でも気持ち良くなるとすぐ泣いちゃう。
そうだな、女子は何人出てきてもいいな、いっそのこと男のいない世界にするか。
そうだな、男は自分だけでいいな、その方がモテるだろう。
そうだな、登場人物はみんな自分に惚れる展開が楽でいいな。
まずは自分が宿屋でイチャイチャするところから始めようか。
ラブラブしてたら魔王が出てきて、自分を取り合ってみんなが争い始めて、それをなだめてたらいつの間にか酒池肉林パーティーになっていたってパターンにしよう。
自分が何も言わなくても、勝手にキャラクターたちが話をすすめてくれる流れにしよう。
そうだな、自分のキャラクターは無口という設定にしよう、そうしたら何も話さなくて済む。
よし、プロットは完璧だ。
さあ、物語を書くぞ。
・・・。
めんどくさい導入部分は書かなくてもいいか。
つまんない世界設定なんか誰も読まないだろ。
適当でいいや。
―――俺は今、エロフと対面している。
―――エロフが笑っている。
―――俺の横には大きなベッドがある。
おかしいな、物語が全然書けないぞ。
・・・。
めんどくせえな、状況は書かなくていいか。
やる事やってるだけで面白いもんな。
そうだな、おもしろくないことは書かなくていいな。
余計な文章は全部カットしよう。
めんどくさいし。
チートが流行ってるし不都合が出たら全部この世界はこういうもんの一言で全部OKのはず。
めんどくさい部分は全部スルーでいいはず。
―――宿屋の部屋で、俺はエロフとイチャイチャしている。
―――エロフはエロい。
―――俺はエロフを押し倒した。
―――そこまでよ。
―――ロリが出てきてこんにちは。
―――俺はロリを押し倒した。
―――私盛りなんです。
―――獣人が乱入してきた。
―――俺は獣人を押し倒した。
―――おい、私の足の裏を舐めろ。
―――ダークエルフが乱入してきた。
―――俺はダークエルフを押し倒した。
―――ここはどこ、私は女子高生。
―――女子高生が乱入してきた。
―――俺は女子高生を押し倒した。
―――私は魔王だ。
―――魔王が乱入してきた。
―――俺は魔王を押し倒した。
「わたしが。」
「わたしは。」
「わたしも。」
「わたしの。」
「わたしを。」
「「「「「わたし!わたし!!!」」」」
おかしいな。
なんで物語にならないんだろう。
適当にしゃべってくれたらそれでいいのに、全くしゃべらないキャラクターたちに腹が立つ。
もっとさあ、キャラクターって独り歩きするもんなんじゃないのか。
せっかく魅力あるキャラクターを考えてやったのに、どうしようもねえなあ。
自分はこんなつまらない物語を書くためにキャラクターを生み出したわけではない。
せっかくのキャラ肉付けが全くの無駄遣いだ。
あーあ、つまんねえキャラクター考えちゃったよ。
…俺は、せっかく書いた304文字の物語を保存することなくブラウザを、閉じた。
「うーん、堕落した舐めたこと言ってるおっさんの話書こうと思ったけど…なんかつまんないな、うん、やめやめwww」
私はふと思いついた物語の、続きを書きたいと思えなくってですね。
物語の始まる前に…物語を終えることにした、そういう、お話です。




