重み
ずいぶん重い、言葉をもらった。
ずいぶん身勝手で、調子のいい言葉は、相当軽いものだったけれど。
私にとっては、とても、重い、言葉であった。
重い、重い言葉が、私を押しつぶす。
重い、重い言葉が、私の自由を奪う。
重い、重い言葉が、私の思考を停止させる。
私は重い言葉につぶされたまま、ただ、言葉をポンと投げてよこした存在の、面影だけを見た。
・・・見上げる事すら、できない。
身勝手な存在を、私は見ようと思わなかった。
私は、身勝手な存在と同じステージには立ちたくないと思ったのだ。
私を押しつぶした存在が見る世界など、見たいとは思えなかったのだ。
視点を変えよう、そう決めた私は、見る世界を変えた。
見たくないものを見なければ、見たくない現実は見えてこない。
思いのほか、見たくないものを見ない暮らしは、快適だった。
重い言葉につぶされながら、私は違う世界を見て、ゲラゲラと笑った。
私を押しつぶしている重い言葉など、一度も見ない日々が続いた。
笑い飛ばすことに必死で、自分がつぶれていることなど忘れる日々が続いた。
ずいぶん、笑い続けていた、ある時、ふと、気が付いた。
・・・私、今、つぶれてないな。
私は確かにつぶれていたはずなのに、つぶしていたはずの言葉が、転がっている。
やけにホコリまみれの、汚い言葉が、仁王立ちする私の横に、転がっている。
ころんころん、ぱさ、ぱさ。
やけに軽い言葉が、私の横に転がっていた。
私は、いつの間にか、立ち上がっていたのだ。
私は、いつの間にか、ステージに立っていたのだ。
たくさんの目が、私を見守っている。
「がんばってるね!」
「だいじょうぶだよ!」
「ありがとう!」
「楽しみにしてる!」
「見てるからね!」
私を見守る、たくさんの人が、私が何をするのか、見守っている。
「どうなるんだろう。」
「どうしたいんだろう。」
「どうするんだろう。」
期待感にあふれる、たくさんの、私を見守る、目、目、目、目…。
私は、かつて私をつぶしていた、重い言葉を、蹴り飛ばした。
ひゅるん、ひゅるん。
私をぺちゃんこにつぶしていた言葉は、ずいぶん軽ーく、飛んで行った。
やがて、軽い言葉は、言葉を吐いた人の頭に、ぽさりと落ちて、崩れて散らばった。
まるでほこりを払うように、パンパンと、払われる、かつて私をつぶしていた、重い言葉。
ああ。なんだ。
私は、あんな軽い言葉に、つぶされていたのか。
私を見守る、たくさんの人が、私が何をするのか、見守っている。
私は、私のステージを、手に入れた。
私のステージは、私が主役。
私が何をするのか、たくさんの人たちが注目している。
私の言葉を、たくさんの人たちが、待っている。
…舞台は、整った。
私は、私のステージに立ち。
口を開いて、軽い言葉を吐きだした。
たくさんの人たちが、私の言葉を笑い飛ばした。
たくさんの人たちが、私の言葉に涙を浮かべた。
たくさんの人たちが、私の言葉に憤った。
私はずいぶん気軽に、言葉を吐き続けた。
私の吐く言葉は、どれもこれも、ずいぶん軽くて、それはもう、遠くまで飛んで行った。
風に乗って、どこまでも。
風に乗って、どこまでも・・・追い詰める。
たった一言で私をつぶした、重い重い言葉を吐いた誰かに、私の軽い言葉が届き始めた。
私の軽口は、止まらない。
私の貯め込んでいた思いが、次々にあふれだす。
私が何もできないと決め込んで、自由気ままに軽い言葉を吐いていた誰かの元に、私の言葉が届いている。
私の軽口は、止まらない。
私の貯め込んでいた思いが、次々にあふれだす。
私が吐き出した軽い言葉が、どんどん押し寄せてゆく。
私の軽口は、止まらない。
私の貯め込んでいた思いが、次々にあふれだす。
私の軽い言葉は、誰かにとっては、ずいぶん重たいようだ。
私の軽い言葉が、誰かをずいぶん、追い詰めているようだ。
私の軽い言葉で、誰かが少しづつ、つぶれ始めたようだ。
私の軽い言葉で、つぶれていく誰かを見ても、なんとも思わない自分がいる。
私が軽い言葉でつぶれたように、この人もつぶれるのだなとぼんやり思う。
つぶれたところで、いつかは立ち上がることができると私は知っているから。
今はただ、つぶれておけばいいんじゃないのかなあ…。
ただ。
私は、立ち上がる気力を、残してあげようとは、思わない。
立ち上がれなくなるような、決定的な大ダメージをお見舞いしたいと、思っている。
やり返せるわけないって、言っていたのを、覚えているのだ。
「ううん、やり返せるよ」って、教えてあげないといけないと、使命感に燃える。
私をつぶした誰かが、私の軽い言葉でつぶれるのは、もう間もなく。
私をつぶした誰かに、私の軽い言葉が届くのは、もう間もなく。
私をつぶした誰かが、私の語る真実の物語につぶされて、全てを失うまで、あとわずか。
気軽に投げつけた、軽い言葉の重さを、知るがいい。
言葉の重みを、心行くまで、味わうがいい。
私は、大勢の人たちが見守るステージの中心に堂々と立ち。
ずいぶん、軽くなった、口を、開いた。




