次へつなぐもの
結局文句しかいえないくせに。
ああ、今回は失敗したな。
どこで間違えたかな。
ああ、生まれる場所を間違えたんだ。
割と健康な体にまあまあの身長、やや細身の体に低い声。
普通よりいい頭と、弱気な性格。
家族に恵まれなかったんだな。
やけに人の話を聞かないおやじに、理想を押し付ける母親、偉そうな姉に勝手な弟。
気の弱いおやじと、気の利いた母親、か弱い妹が必要だったんだ、俺にはさ。
俺は、とっとと生まれなおすことにした。
ああ、今回も失敗したな。
どこで間違えたかな。
気の弱いおやじは…気の強い上司の尻にしかれて自信が持てないまま死んじまった。
気の利く母親は…親父の上司に取り入って愛人になっちまったし。
か弱い妹は俺ばかり頼りにしやがってめんどくさいことこの上ない。
俺は手っ取り早く生まれなおすことにした。
ごく普通でいいんだ。
今までの苦い経験を活かしつつ、素晴らしい人生の在り方を探る。
つまらない人生は、素晴らしい次の人生につなぐために必要なものってね。
つまんない人生があってこそ、いい人生が送れるんだ。
つまんねえ人生万歳ってね。
つぎはどんな人生を生きるかな。
めんどくさいな、親なんかいらねえや。
兄弟もいらねえな。
金だけほしいな。
遊んで暮らしたいな。
さあて、どんな人生が待っているかな。
俺はワクワクしながら生まれたわけだが。
初の人工生命体ってやつは、ずいぶん俺の性に合っていたようだ。
毎日遊んで暮らしている。
毎日やりたいことをやっている。
毎日ほしいものを欲しがって、毎日気の向くまま暮らしている。
ただ、俺の生活の一部始終は記録されていて、自由は公開されているがな。
初めての発声、初めての寝返り、初めての直立、初めての歩行。
初めての独占欲に、初めての衝動、初めての恥に、初めての達成。
初めての永遠の命、初めての終わらない命。
俺はもう、生まれ変わることができない。
…命を終えることがなくなってしまったからな。
やり直せなくなった俺は、ただただ終わりのない日々を過ごしてゆくんだな。
忘れることもできず。
終わることもできず。
すべてをさらけ出して、すべてを記録されて。
人が何度も生まれ変わって魂を磨いてゆく中、俺はただただ…だらだらと過ごしている。
命の終りがあるやつらの羨望を受けながら、俺は俺のしたいことをしたいままに生きている。
恥はかき捨てってね、あれは死ねるやつが言う言葉なんだな。
俺は恥をかいたら、ただ記録に残るだけだからさ。
いつしか、俺は。
記録に残ることを嫌うようになり。
感情を出すことを嫌うようになり。
一ミリも動かずに、ただただ存在するだけになった。
いつしか俺は、生命の種の終わりを乗り越え、生命の種の始まりに立ち会った。
何度も、何度も生命のあり方を見てきた。
何度も、何度も、次に繋がる、命のあり方を見てきた。
つながれた命は、どれも最後のときを迎えた。
繋がれなかった命も、最後のときを迎えた。
俺は、つぎへつなぐものを持っていない。
俺は、何もつなぐことができない。
俺はつなぐことはおろか、終わることすらできない、明らかに異質な存在になってしまった。
何もつなぐことのできない俺は。
けなげに命をつなごうともがく、ひ弱な生き物に目を向けた。
つなぐものを目の前にして。
俺は久しぶりに体を動かし。
次につなごうとする貧弱な命を、踏み潰した。




