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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 9 愛ゆえのロンド。千里vsアルジ
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突入。敵本陣、サイサンクチュアリ!!

千里たちよりもはるか南。1100km離れたタギー社にて。


「……本当に、すぐにやってきますでしょうか?」


「ああ間違いない。アイツらなら、可能な限り時間をかけず解決しようとするだろう」


不要に広い社長室にて二人は会談する。


「解決? 電子世界のタギー社に乗り込んだところで、できることはたかが知れているはずですが……」


「手ならある。奴らはおそらく《ガイルロード・ジューダス》のアバター殺害(キルスイッチ)能力をアテにしているはずだ」


デスクに肘を付き、手を組み思案する。


白髪のアウトロー達を思い浮かべてほくそ笑む。


「拳銃片手に俺の城に上がり込んで、真正面から撃ち殺す気かな? ……全く、どっちが悪党だかわかったもんじゃない」


「そんな物騒な……」


「覚えておけ。どんなやつを相手にしようと『やるやつはやる』ってな。そんな事はあるわけなかろう、なんて思い込みは悪と思っておけ。

……さあ、出迎えの準備をしよう。まずは常設イベントCを向かわせろ。小手調べにはもってこいだ」


キョトン、とする秘書が何とか返す。


「む、迎え撃つつもりで? 万が一の危険はありますが」


「ああ。例え相手が最大の敵意を以てこちらに来ても……俺は負けないように動く。

そりゃ危険はあるだろうが……永遠に逃げられる訳でもないしな」


慢心はしない。


ただ事実のみを述べる。


「俺は社長だ。この会社の長だ。だったらそれらしく振舞おうじゃあないか。

逃げ隠れなんて似合わない。持てる手札を正しく使い叩き潰そう。それが最善だ」


手元の端末を操作し、画面に光の門を表示させる。


不敵な笑みを浮かべて、彼もまた電子の世界に飛び込む。


「存分に相手になってやる。さあかかってこい、先駆千里ィ……!」


宿敵の名を語る。


己を高める好敵手に出会った気分だった。






そうして、因縁の時は訪れた。


同日、同時刻に事は起きた。


電子に飛び込む。


体が吹き飛ぶような感覚が彼らを襲う。


激流に飲まれ、何処かへ押し込まれるような実感。


上へ下へ、加速しながら突き進み…………






そうして先駆千里は、再び電子の街に降り立つのだ。







「…………ッ」


ダンッ、と着地する。


見上げる空は、ビルの群れに切り取られなお蒼く輝いていた。


太陽の乱反射が大地を輝かせる。


サイサンクチュアリ。


科学を是とする、現代的な領域。


一応はと後方を振り返るが、そこはもはや始発点たる防音ブースではない。


そこに立つのは、三人の仲間たちと。


「本当に……ホントのホントに、ゲームの中に入っちまってるんだな……」


「ええもちろん♪」


自信満々に答える看板娘、御旗チエカだ。







そして、こちらも世界へのログインを済ませていた。


「いい風じゃあないか。物理演算を強化して正解だったな」


タギー社の「社長」だ。


このゲームは本格的にフルダイブVRMMO仕様に舵を切るつもりでいた。だからこそ、その際により居心地の良い空間に仕上げる必要があった。


デバッカーを雇うと情報漏洩の危険があったので、テストは全て彼やホムラがこなしていた。もちろん入力ミスなどでゲロを吐く目に遭うことも多々あったが、その分電子の世界に早く馴染めた。


だから、もはや手足のように扱える。


この世界の全ては。


ブォン!! と風を切り、重量感のあるドローンが戦場に向かう。


「さてと……行って参りな、お前達」


この街を仕切る『長』に代わって指示を出す。


語る彼の手に、仮面が一つ。


これより先を生きるための仮面だ。







ガゴォン!! と轟音が千里達を襲う。


「「「「!!」」」」


カチコミの前に軽く観光でもしないか? と話していた千里たちの背後。


なにか金属質の物が投下された音に振り返る。


もちろんそれは。


「チ…………着いて早々だが…………どーやらお出迎えのよーだぜ?」


「え? 早くない?」


「予想していた事にござろう?」


「スピード感は命ですからねー?」


気の抜けた対応とは裏腹に、状況は目まぐるしく悪化していく。


敵影が真っ先に照準を定めたのは、気を緩めていた彼らではなく。


「…………はい?」


もう一人、やけに心配そうにあたりを警戒していた大人。





その様子は、すっかり衣装を着込んだCEOにも伝わっていた。


「とくと見な。俺様特製の空飛ぶイベントクエストだ」


タギー社の頂点から自信たっぷりに語る。


「そいつらはこのタギー社に近付く者を自動で追跡してちょっとした試練を仕掛ける。うまく倒せばそれなりの報酬は手に入るが、もし失敗したら…………」






「ぐあああああああああああああ!?」


叫喚の調べを上げる者が一人。


いつもの事だが、やはり彼女は弱かった。


「おいいいい!? また負けたのかよ詩葉ァ!?」


「ああそうだよ! お前ら油断するな、こいつらの試練かなりムズいぞぐっぼふぁああああああ!!」


爆風に巻き込まれ、そのまま明後日の方向に飛ぶのはやはり詩葉だ。


かませ犬全開で星になった彼女の行方は探るだけ無駄だろう。五感をゲームとリンクしている今、ああなってしまったら一発でメンタルキル確定だ。


失敗は即退場。


それだけが真実。


無機質な合成音声が彼らを追い詰める。


『侵入者ヨ、我ガ試練ノ前二ナススベナク散ルガイイ!』


警告と共に、千里たちの眼前にも試練の詳細が示される。





【MISSION!!】 このターンの間に《器械兵タンジェント》を撃破せよ! 使用できるのはセット中の山札を除き、任意の手札三枚とファーストマシンのみとする。ただし《ダブルギア》を持つカードは選択できない。





「っと……なんだこれ? ざっくり言うと『自分で手札を選べる詰みゲー』か?」


「そのようね。四枚の組み合わせでどこまで火力を出せるかがカギ……デッキ内容次第ではこっちが詰んじゃうヤツね。詩葉はそこで引っかかっちゃったか」


「昨日までは見なかったミッションよの。つまり開発者はあのホムラの息子…………現社長の一派にござろう」


冷静な推察も、しかし挑むべき相手は凶悪だ。




《器械兵タンジェント》✝

ギア5マシン サイエンスサンクチュアリ POW 0 DEF30000

【相手ターン終了時】相手はゲームに敗北する。




「ちょっおま………………三万だぁ!?」


スタッツの平均値をぶち抜く圧倒的なDEF。


しかも制約はかなりしんどい。


(ちょっと待てよ……スタンピードは最初から置かれてるギア1から、上位のギアを重ねて性能を上げるゲーム。ギア4を出すにはギア3を、それを出すには先にギア2を置く必要がある。

攻守の目安はギア×3000ちょい。手札三枚なら、ギア3二枚かギア4一枚が関の山……)


なにしろ、隣に立つ看板娘、御旗チエカでさえギア4POW14000だ。より攻撃的なカードを使ってもギア4が二枚は要る。


つまりはあと一枚が足りないのがつらい。もしも手札が四枚あったなら、力押しでどうとでもなるだろう。


押し寄せる敵兵は三体。


対するこちらの戦力は。


「ユリカさんは良いとして……チエカおめーやる気ある?」


「またまたゴジョーダンを。仮にもプログラムのワタシがゲームイベントに挑めると思います?」


「だろーと思ったよ畜生!!」


のらりくらりとかわす看板から目をずらして。


「……あーユリカさん? 俺が二体片付けるんで、一体倒したら或葉連れて先向かって貰って良いっすか?」


「わたしは別にそれでも構わないんだけど……彼女はなんて言うかしらね」


「へ?」


と、隣を向けばおいっちにーさんしーと準備運動を始める或葉の姿があった。


「或葉! お前……」


「侮ってくれるな千里よ。拙者とてプレイヤーのはしくれ。多少なりと心得はある。

特に最近は、いつかこのような時が来るのではとも思い鍛えていたからの」


ジャキン! と刀を構える小さな勇士。


「だから、気にするでない。もはや護られるだけの拙者ではない」


「或葉…………」


と、そこで厳つい警備ドローンからの横槍が入る。


「チイッ!!」


散開。


分断。


必然的に一対一が三つの状況が出来上がる。


まとめるようにユリカは言う。


「さぁて、方針は決まったみたいね! 一人一体のノルマで行くわよ! それで異論無いわね?」


「う……うすッ!!」


「応ッ!!」


三対三の前哨戦。


こんなところでつまづいてはいられない。


この先で待ってるヤツラが居る。


そして。






「「「ーーーーミッションスタート!!」」」


魂の熱を練り上げる試練が、始まる。

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