原罪、最後の姿へ。 ホムラvs千里その⑨
電子の世界の疾走は佳境を迎えていた。
「ーーーーふ、ふふふふふふ…はははははは!!」
「どーやら……良いの引いたみてーだなっ!!」
バケモノが引き当てた未来は、更なる激戦へと繋がっていたーーーー!!
「おうとも引き当てたぞ勝利の一手を!! 手札より《妖獣爆誕》を発動!!」
「おっと待ちな。こっちは《アイギス・シールド》と《シルバー・スワン》の効果を処理!! アイギスの効果でチエカは【進路妨害】を獲得、更にスワンがチエカの下に重なる!!」
《妖獣爆誕》✝
ギア3アシスト サムライスピリット
【発動コスト・アシストゾーンのカード二枚を疲労】
山札からギア5マシン一枚を手札に加える。その後、相手の残り走行距離を3増やす。
《シルバー・スワン》✝
ギア1マシン スカーレッドローズ POW2000 DEF2000
【相手ターン開始時】捨て札のこのマシンをセンターの下に重ねることが出来る。
「ほう、チエカのコスト補充か……!!」
「ちっきしょ……ここで、サーチカードかよ…………!!」
「あっちゃー、コレはガチの奥の手来ちゃうヤツですねー……」
効果と評価のクロスカウンター。
身構える千里とチエカに対して、ホムラもまた運命の選択を迫られていた。
(向かうべき道は二者択一。《偉大牝馬イザナギ》なら、ゲームエンドの切り札を引き入れる事もできるが……)
《偉大牝馬イザナギ》✝
ギア5マシン サムライスピリット POW10000 DEF10000
【ダブルギア4(このマシンはギア4としても扱う)】
【このマシンの登場時】このマシンのPOWとDEFを、次の相手ターン終了時まで倍にする。
【常時】このマシンはカードの効果で破壊されない。また、相手はマシンで行動する場合、最初にこのマシンを攻撃しなければならない。
【自分ターン開始時】山札からアシストカード一枚を選択して手札に加える。
浮かんだ一つの可能性に、しかしホムラは心中笑う。
(戯言千万。ザル同然の防御性能では、適当な雑魚を当て馬にされただけで以降は通してしまう。であるなら…………!!)
「儂が手札に加えるのは《原典妖‐妲己威》!!」
「!?」
今、タギーと言ったように聴こえた。
タギーは彼らの会社名のはずだが……
「まさか……!!」
「更に相手の残り走行距離を3増やす!! さぁ爆炎を喰らうがいい!」
「いっ!!?」
「あー千里さん、ワタシ進路を妨害する仕事があるので一人でぶっ飛ばされてくださいっ」
「そげなっ!?」
再びの炎弾。
ボカンと直撃し、空高く吹き飛ばされる。
千里残り走行距離…………4→7
「ぐがああああああ熱いッ!! テメェ……二度も焼きやがって!!」
「カッカッカ!! そらぁ手は尽くすさまだ勝負はわからん!! 儂の全てが詰まったこの切り札を、果たしてお主は越えられるかな!?」
吹き飛ぶ千里は目撃する。
炸裂する爆炎の中心、小さい獣が吸い込まれていく。
いいや、吸い込まれるのは霊体と化したホムラの本体もだ。
大地からも二本、怨嗟のようなオーラが伸びる。
相対するチエカが見つめる中。
夜の世界を昼と変えるほど輝ける中心核にて。
ホムラは最後の口上を述べる。
「ーーーー夢よ踊れ。コトダマよ蝕め!! この天地こそは世界を喰らう特異点!!
顕出せよ。凝固せよ! 歪んだ偶像となりて、罪知らぬ夢よ世に蔓延れッッッ!!」
声に伴い浮かび上がる影は、獣人のようなそれだった。
チエカをベースとした先までの姿と違い、狐の顋そのままに女性体として立ち上がる。
法衣を纏い四肢の爪を煌めかせ、紫水晶色の瞳を以て夜を睨む。
獣は、ホムラそのものだった。
「堂々君臨……《原典妖‐妲己威》!!」
《原典妖‐妲己威》✝
ギア5マシン サムライスピリット POW10000 DEF10000
【デミ・ゲストカード】【場札一枚を含む、計三枚同じギアを持つマシンカードを場、手札、捨て札から選択】選択したカードを全てセンターの下に重ね、手札のこのカードを呼び出す。その後このマシンは次の相手ターン終了まで、選択カードと同じギアになる。
【このマシンの登場時】自分の捨て札から、【装着】を持つサムライスピリットのアシストカード一枚を選択して自身の下に重ねる。
【常時】このマシンはバトルの際、三体による連携攻撃を受けない限り破壊されない。
【このマシンが相手マシンに攻撃した時】バトル終了後、相手のマシンのPOWとDEFを10000下げる。【三回行動】【進路妨害】
「おいおい嘘だろ…………」
視界いっぱいに映し出されるステータス。
呻くほどに。君臨した切り札は、まさしくバケモノと呼ぶにふさわしい性能を誇っていた。
「登場時の効果で捨て札から《馬鎧》を回収。これを装備することで、儂はカード効果でも破壊されない!!」
オーラに金色が混じる。
千里が凄まじい勢いで対策を練り上げる中。
神秘的な獣人が、刃を手にチエカに迫る。
「ほーほー。見たこと無いカードですが……アナタのお手製ですねソレ?」
「無論。儂の全てを注ぎ込み作成した。この勝負に勝ちたくば……越えてみろ儂を。越えてみろタギーをッッッ!!」
動く。
動く!!
「なるほどつまり、それが……アナタを表現した姿ってわけですか、ホムラさんッッッ!!」
「そうとも行くぞ看板娘!! バトルじゃ!! 妲己威で勝利の導き手チエカを攻撃!!」
虚空より現れる三本の刀。その一本を手に取り、チエカに斬り掛かる。
「なにおぅ!!」
チエカはそれを白刃取り、曲げへし折り棄て妲己威の狐面を殴り飛ばす。
だが、浅い。
Guard タギーPOW10000vs11000DEFチエカ WIN
明確な結果、しかし吹き飛んだ妲己威にダメージは無い。
「もう、耐性ってヤツですね!?」
「カッカッカ、そうとも妲己威の効果!! このマシンは『三体の連携攻撃を受けた時』にしかバトルで破壊されない!! そして更に、バトルしたキサマの攻守を10000下げる!!」
チエカ…………POW14000→4000
DEF11000→1000
チエカを蝕むのは、呪いのような紫のオーラだ。
「いだだだだだ!! やっばいですよ千里さん、ワタシやられちゃいます!!」
「なこと言われても困るぜこっちの手札もゼロだ!!」
「はひっ!?」
「そして【三回行動】の効果……まだ儂は二回の攻撃を残している!! 覚悟せいチエカ!! 二撃目を受けるがいい!!」
先程とは逆の立場。
二本目の刃、再びの斬撃がチエカを正中から両断する。
爆散。
すぐに再生するとはいえ、その光景はこたえるものがあった。
WIN タギーPOW10000vs1000DEFチエカ LOSE
「ちっきしょう!! チエカの効果、センターのカード二枚を捨て札にして復活する!!」
ーーーーここに、最後の選択の場面が訪れる。
ここでの選択こそが、このバトルにおける先駆千里最後の自由。
ここを間違えれば彼に勝利は無い。
だから彼は間違えない。
間違えない!!
「捨て札にするカードは《シルバー・スワン》と……《パイクリート・ライド》だ!!」
「ちょっ……!?」
一瞬悩みコストを支払う。
再生のチエカと言えど理解を超えた一手だった。
なぜなら。
「なに、考えてるんです!? 『センターが破壊されたら下になったマシンが上に出る』んですよ!
だからなるべく強力なの残しといた方がいいんですっ!! 攻守8000のパイクリートライドはもったいなさすぎですって!」
「馬鹿言え、ここでオマエが退場した後の事考えてどーする?」
「いやいや強力な進路妨害持ち引き当てるかもじゃーありませんか!? 残りなんてどっちもパワー0ですよ!! グリーンタートルなんか効果すらありませんけど!!」
「そのパターンも考えたよ。でもジリ貧になる未来しか見えねぇ!!!
だからその二枚を残した。パワー0なのがいいんじゃねーか!!」
「……はひ?」
再生途中、混乱する看板娘に心情を語る。
「言ったろ、俺はあんま運には頼らないって。奇跡は出迎えに行くタチでよ。
だから生きとけ。オマエが居なくなったら全部が終わりだ。破壊されんの前提で考えんな。なにがなんでも一緒にゴールするぞ!!」
「あー……よくわかりませんが、それで勝てるんですね? だったら協力しますが!!」
チエカの再生は千里の傍で行われた。一旦場を離れたことで進路妨害を失ったのだ。
そして。
「最後だ!! 妲己威で三度目の行動!! 走行せよ妲己威!!」
最後の刃が次元を裂き、愛機を呼び寄せ疾走する。
ギア4三枚を重ね鍛えた、その走りは閃光のごとく。
ホムラ残り走行距離…………5→1
「さあ……ハァ……詰め込んだぞ……」
馬上でなお息を切らし、電子の空気を吸って吐く。
お互い、もう精神を極限まですり減らしていた。
「これで…………儂はターンエンド!!妲己威は……進路妨害持ちだ……ハァ……逃がさんぞ決して。
儂を打ち倒し、残り七キロを走り切る……そんなことが可能ならばやってみせるがいい……」
今回の千里のデッキに、相手の残り走行距離を増やすギミックはない。
もう、なにがなんでも次で決めるしかない。
「わかってると思いますが……アナタの言葉のとーりなら、次がホントのラストドローですからね?」
「ああ、わかってる」
やれる事はやった。
あとはドローするだけだ。
ひたすらに長引いたバトルも次で最後。
本当に、最後だ……!!
「俺の、ターン…………ドローッッッ!!」
そして。
そして。
そして。
「ーーーーーーーホムラ」
「ーーーーーーーむ」
「お前はとんでもなく強かったよ。インチキ抜きでも、間違いなく今まで戦った中で最強だ」
「そうであろうそうであろう!! なら……」
「だけどな……俺の勝ちだ」
宣言は、放たれる。
6キロ越しの勝利宣言。
「迎え入れたぜ奇跡。みな。これが俺の、最後の切り札だ……!!」
そうして、かざされたそのカードはーーーー。




