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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 8 本当の悪の目覚め。???vs良襖&千里vs???
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勝機への糸口。ホムラvs千里その②

観客席からは、いつの間にかチエカの姿は消えていた。


残されたのは丁場姉妹のアバターのみ。状況をイマイチ掴めていない彼女らは立ち尽く以外の道を掴めずに居た。


混乱の中、なんとか言葉を繋ぐ。


「……どうやら、事態は思っていたより深刻だったらしいな」


「うむ……ざっくりとしかわからぬが『敵のトップの更に上が出てきて元トップを拉致した』……ということかの?」


「まあな。……正確には、その意識を、らしいが……」


彼女達のリアル。


現実の世界では、さっきまでゲームを支配していたはずの『少女』が意識不明の状態で倒れていた。


原因は不明との事だが、見当は着いてしまっている。


今のレースの相手。


《試練の与え手ホムラ》というゲームキャラ…………を演じる『出資企業の会長』が今回の件の元凶らしい。


「どうやら、相手は現在のトップを締め出してゲームを思うままに操るつもりらしい。

それを止めるための戦いが今行われているって話だが……まったく。本当に「命」を賭けたカードゲームを目にするとはな」


「全くにござる。何がどうなってそんな状況まで行き着いたのかまだよくわから……厶?」


と、丁場姉妹の妹の或葉がなにかに引っかかったように固まった。


「おかしいにござる」


「なにがだ? 心辺りが多すぎる。今回の件は一から十までおかしいずくめじゃあないか……」


「いやその……損得の話……」


混乱こそあったが、或葉は冷静に事態を見ていた。


「今回の元凶はその……今までの『敵』の上司であったのであろう?」


「そらま、そうなるな」


「なら……姐上よ。どうして拉致なんて強引な手段を打つ必要があるにござる? そんなことをしなくても『上司の命令』として権利を奪うこともできたはずなのに」


「あ」


言われてみればそうだ、と姉は思った。


聞けば少女は意識を失う際の呼び出しを「クビの連絡だろう」と認識し抗う様子もなかったという。


パソコンから飛び出すなどという妙なオカルトに頼らずとも、合法的に彼女を排除することはできたはずだが……?


「姉上よ。この『違和感』……放置したらいかぬ気がする」


「奇遇だな……同意見だよ」


返事一つ、姉上こと丁場詩葉は知り合いに電話をかける。


「……もしもし遥。あたし。ちょっと調べて欲しい事があるんだけど…うんだいじょーぶ、遥ならうまくやれるから……よろしくね?」


現実の電話を切り、改めて電子の世界に復帰する。


「『その手の情報に明るい知り合い』に調査を頼んだ。真相はすぐに分かるはずだ……」


「であれば、あとは」


「ああ」


改めて向き直る先には、全てを背負いひた走る少年の姿。


「吉報を祈りつつ……見届けるとしようか」


「うむ」


銀髪が飾る雄姿を、二人は静かに見守る。






「まずは行くぜ! ハイウェイ・キッドで走行!!」


現在のゲームは、ルールに大きく手が加えられている。


一見すると全てを支配された絶望的な状況だが、実はやることはあまり変わらない。


以前の戦術はほぼそのまま使えるはずだ。




千里残り走行距離……20→18




(よし、成功!!)


手応えを掴み、千里は次の手を打つ。


「さらにだ。アシストカード《量産体制》を発動!! さっき攻撃したマシンと同格の『効果のないマシン』を二台まで呼び出せる!

これでハイウェイキッドを三台に増やせるぜ!!」


号令と共に、ガコンガコンと機械の群れが溢れる。





《量産体制》✝

ギア2アシスト スカーレットローズ

◆効果をもたない自分のマシンが攻撃した場合使用できる。

そのマシンと同名のマシン二枚を、山札から選択して場に呼び出す。




悔しい事だが、ホムラの改変のうち「名称」に関しては間違いなく成功だろう。


そしてこれもわかりやすく、カードゲームでは常識のひとつ。バトル中に手駒を追加すれば、それは攻撃の権利を持つ。


このゲームにおいては走行、なのだが。


「つっぱなさせてもらうぜホムラ!! 残り二体のハイウェイキッドで走行!!」


不敵な咆哮が轟いた。




千里残り走行距離……18→16→14




順調な走りを受け、観客席から歓声が溢れる。


丁場姉妹だ。


「やった!! ホムラをつきはなしたにござる!」


「いいやまだだろうよ。こんなのは定石通りの動きに過ぎない。それに……」


妹と違い、姉の詩葉はわかっている。


問題はこれからだ。




「……んでだ。 確かこのターンが終わる時 《シンプルレーシング》の効果で、せっかく増やしたマシンを一枚になるまで減らされちまうんだったな……」


未来への確認。


戦場を駆け思考めぐらせ、敵の策の隙を突く。


選んだ一枚は。


「だったらこいつの出番じゃねーか! アシストカード《ヴァニラグリップ》!! 自分のマシン二体を破壊して二枚ドローする!!」




《ヴァニラグリップ》✝

ギア1アシスト ステアリング

◆自分の場のカードを二枚破壊し、カードを二枚ドローする。




弾ける二台のマイクロカー。


千里の手札は未だ五枚を保っていた。




「今の連携は上手いな」


観客席で呟くのは、丁場姉妹の姉、詩葉だ。


「一枚から二台のマシンを呼び出す《量産体制》と、二枚を破壊し二枚ドローする《ヴァニラグリップ》が上手く噛み合っている。

差し引きはゼロだが、千里はアドバンテージを放棄したように見えて放棄していない。今みたいに、相手のカードで破壊されるリスクを減らせるわけだからな」


「ふむ、つまり千里はすごいというわけにござるな」


「……まあそうなんだが、もっとなんか無いのか」


冷や汗混じりのやり取りの中カードレースは続く。


「俺はこれでターンエンド!! エンドフェイズに起動する《シンプルレーシング》の効果は不発に終わる!!」


「…………ハン」


この程度では動じない。


むしろ型通りの戦術に辟易したのか、ホムラからの嘲笑が飛ぶ。


「二ターン目の立ち振る舞いとしてはまずまず、といった所か。

だがその程度では儂には勝てん!! これより目撃するは世界の理を編む力、途方もない城塞の頂点と知れ!!」


馬上のホムラが吠え猛る。


土埃舞う夜の和の國、暴君が勢いを増す!!


「儂のターン!! カードドロー!!!! ……さあて、儂も本気で挑むとしようか!

手札より《騎馬兵徴収部隊》をセンターへ」


夜が煮詰まる。


煮凝りが起き上がるように騎馬兵と化し、ホムラに並走する。


「更に《夜馬車の黒棺》を重ねる!! ここで騎馬兵徴収部隊の効果が起動、漆黒の牝馬を二体呼び寄せる!!」


「…………!!」


騎馬兵二体がホムラから距離を取るとともに、仙狐と化した彼が木材に囲われる。


既に戦場に置かれた一枚と併せて、連携する四種類のカードはゾッとするほどかみ合っていた。




《漆黒の牝馬》✝

ギア1マシン サムライ・スピリット POW4500 DEF3500



《騎馬兵徴収部隊》✝

ギア2マシン サムライ・スピリット POW5000 DEF5000

【このマシンの上にマシンが重なった時】このマシンの下に重なったマシンと同名のマシンを二枚まで場に呼び出す。



《夜馬車の黒棺》✝

ギア3マシン サムライ・スピリット POW10000 DEF10000

【このマシンが場にある限り】自分の他のマシンが場を離れる場合、代わりに自分のアシストカード置き場に置く。



《シンプルレーシング》✝

ギア1アシスト サムライ・スピリット

お互いに、センター以外に置かれた自分のマシンはエンドフェイズに破壊する。




「ちくしょう……いやがおうにもワクワクしちまうじゃねぇか……!!」


「この状況でその感想を吐ける丹力は褒めてやろうか。じゃがそこから果たして対応まで漕ぎつけるかの?」


鳥肌が立つ。


この連携は見事なコンボだった。




「…………ファーストマシンに性能の高いものを置き、徴兵部隊の効果で増殖…………」


状況を解析するのは、観客席の詩葉だ。


「更にターン終了時にシンプルレーシングの効果で破壊されても、黒棺の効果でアシストカードとして場に貯まる。もちろんそれだけでは意味を持たないが…………()()()()()()()()()()使()()()……狙いはソコか」




(間違いねー。奴はコンボで貯めたカードを消費してドデカイ事をやる気だ)


そしてその狙いは、対峙する千里も察していた。


とくれば、ホムラはこのターンのうちに漆黒の牝馬のパワーを最大限活かして来るはずだ。


千里の唯一のマシン、ハイウェイキッドのディフェンスは9000。


向こうの漆黒の牝馬二体のパワーは4500×2で9000。


スタンピードでは、()()()()()()()()()()()()()()()


(来る!!)


「バトルじゃ!! 二体の漆黒の牝馬でハイウェイキッドを攻撃!!」


「チィ!!」


打つべき手がない。


攻撃は素通りする。




d

Draw! 牝馬ATK9000vs9000DEFキッド Draw!




双方爆散。


しかしハイウェイキッドがただ捨て札になるのに対し、ホムラの側は二枚の牝馬をアシスト化して場に残した。


そこで止まらない。


「続いて儂が乗る黒棺で走行する!!」


宣言に対応してマシンは加速。


ルールに従いマシンのギア分の数値が走行距離から引かれる。




ホムラ残り走行距離…………19→16




「終わった、か?」


「まだまだ」


またもゾッと来る。


獰猛牙が背後に迫っていた。


「ここで手札より《奇跡の天気雨》を発動。アシストカード三枚を参照して効果発動じゃ!!」


「!?」




《奇跡の天気雨》✝

ギア2アシスト サムライ・スピリット

自分のアシストカードの枚数以内のギアを持つマシン一枚を、センター以外のマシン置き場に呼び出す。




「エグ………っ!?」


「フハハハハハ!! コストを肥やし力と変える。これこそカードゲームのあるべき姿よ!

では呼び出すとしよう、山札より出でよギア3マシン《妖炎輪の火車》!!」


ボゥ!! と炎が灯る。


夜を照らす輝きは瞬く間に広がり、ホムラに背負われるような逆光と化す。


「さぁ儂を運べ火車よ! 走行だ!!」


まだ正しく姿すら確認していない相手が敵の背を押す。


千里に追い付く。


追い越す!!


ゴウッ! と灼熱が焼いた。




ホムラ残り走行距離……16→13




追い抜かれた。


だがそれだけではないことを千里は理解していた。


一キロ先の敵を見据え言葉を吐く。


「スゲー走りだなオイ。それにその火車だが……()()()()だろ?」


「ハッ」


答える義理はないとばかりに嘲笑で返す。


実力は本物。


堅実なコンボで着実に千里の陣営を追い詰めてきている。


ホムラはただのチーターではない。このゲームをやりこんだ本物の追走者(チェイサー)だ。


(ってことはだ)


だからこそ千里は逆に考える。


(そんだけやりこんだゲームなら……問答無用でかっ消す訳がない。交渉の余地は十分あるってわけだ!!)


強敵に呼応するように気力を滾らせる。


「儂はこれでターンエンド!! とともに《シンプルレーシング》の効果で火車は破壊され《黒棺》の効果でアシストカードとして場に残す!」


「そーかよ! なら俺のターン、カードドロー!!」


新たなる手札を引き入れる。


そのカードは。


「………………ナーイス」


描かれた彼女の名は《チエカ》。


このゲームのシンボルにして看板娘。


この場において、最大最高の味方。


「さーって。反逆と行こうぜチエカ。理不尽な支配なんざノーセンキューだ。一緒にぶち破ってやろうぜ!!」


戦士たちは神速を駆ける。


決戦の熱は加速する。


電子世界と「命」をかけた戦いはさらに激しく燃え広がるのだ。





…………ぴりりりりり。


「あーはいもしもし遥? 早かったね……え?」


電話に出たのは詩葉。先ほどの依頼が終わったらしい。


「噓でしょ……うん、わかった……ありがと、じゃね」


ぴっと通話を切り、妹に向き直る。


「姉上……?」


「わかったぞ或葉……」


その顔にはじっとりと汗が浮かんでいた。


「奴の……ホムラの真意がわかったんだ」

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