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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 8 本当の悪の目覚め。???vs良襖&千里vs???
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新たなプロローグ。因縁のリビルド!

少年は。


先駆千里は、目の前の異常事態に脳が追い付かない。


何度、彼は血を見れば良いのか。


「が、ぐくっそまだなにかくそがあああ!?」


「千里、なにが……な!? これは何事にござるか!?」


「良襖!?」


慌ててリビングから二人が駆け付ける。


千里は許容を越えた感情を吐き捨て、なんとか冷静に近く向き合う。


「ハーッ!! ……わからねー。だがヤバいってのは見りゃわかる! とにかく救急車だ! 話はそれから……」


「ムダ、よ……」


「!?」


血を吹きながら、良襖が起き上がる。


口腔に貯まった血をそこらに棄て、なんとか言葉を繋ぐ。


「甘、かった……認識が……」


「おいもう喋るな! なにがあったか知らないが……」


「だから、伝えるんでしょうに……」


肩で息をしながら、良襖は言葉を返す。


「前言、撤回ね……このゲームには……まちがいなく、制御不能のバケモンが居るわ……!!」


「?」


言ってる意味がわからなかったが。


すぐに思考が追いつく。


「まさか……『三種類目』が出やがったのか⁉」


「ふふふ……せーかい」


なにかを察した千里に対して、或葉はなにが何だかわかっていない。


「どういう事にござるか⁉」


「コイツをこんな目に合わせたのはバケモノだ! しかもソイツには先輩が居る」


問題は彼女だけにとどまらない。彼らが関わった事態、その根幹に関わる異常が発生してしまった。


「一種類目の『御旗チエカ』。そして俺が創っちまった二種類目『世界樹の龍』。

アイツらが未元のモンスターだって事が、今回出た『三種類目』のせいで証明されちまった!」


「ムゥ⁉」


彼らは。


彼らは、想像を遥かに越える異常に足を踏み入れていた。


驚愕の只中、それでもと千里は行動を起こす。


「誰が呼んだ。前触れくらいはあっただろ。一体誰が……」


「誰もなにも……そいつは『そこ』に居るわ」


「ヘ?」


指さした先にはパソコンがあった。


そこには、なにか獣のような影があった。


良襖は声を絞り出す。


「そこの化け狐は……幹部Ai−tubaの一体。でもって……はぁ……笑えることに、あたしの宿敵」


「宿敵ってまさか……アイツが!?」


尾骨より伸びる九の影を従え、小さな獣がこちらを睨んでいた。


その首が、静かに画面の前に迫り……


「ごめん。あたしもうだめかも」


震える声が、言葉を紡ぐ。


「あの世界を……スタンピードを」


その首を。






バクン……と。


遺言すら許さぬ、巨大な化け狐の顋が彼女を噛み砕く。







「ら……良襖ああああああああ!!」


顋が引っ込むと同時に彼女から力が抜ける。


改めて彼女を見るが……なぜか外見にはなにも変化はない。


血も止まった。


ただし返事がない。


意識もない。


狐に摘ままれたようだ。


いやに静かな呼吸が、異常の中で悪目立つ。


「なに……しっかりしなさい、返事してよ良襖!?」


「良襖!? 目を覚ますにござる!?」


二人の哀しみの声がこだまするなか、千里は良襖のパソコンを睨む。


あそこから先の獣の居場所ヘアクセスできるはずだ。


視線に気がついた母親から、心配げな声がかけられる。


「千里くん!? まさか今のバケモノの後を追うつもりじゃ……」


「相手はこっちの理解を越えてた。悔しいけど、相手の土俵で戦わなきゃ話にもなんないっすよ。ママさんは、良襖を病院まで頼むっす」


千里は、悪夢に向き合う。


送り出すのは或葉だ。


「行く、つもりにござるか」


「ああ。あんなバケモノを放置してたら、俺達に一生安心はねぇ。正体突き止めて化けの皮ひっぺがさないと夜も眠れねぇ!!」


なにより。


「それによ。約束してんだよ! あいつに、良襖にどんな形であれ勝つってよ!

ユリカさんたちヘの詫びだってまだだろうが。このまま勝ち逃げされてたまるかよ!」


少し低い椅子に座り込み、敵が待つフィールドに向き合う。


ログアウト状態になっていたため、千里自身のアカウントで再度ログインしなおす。


覚悟を決める。


そして。


「……承知した。武運を祈る」


「ああ……待ってろよ。そう長くは待たせない!」


少年は、今一度電子の海へと飛び込む。






からくり屋敷に来るのは二度目だ。


「サムライ・スピリット……江戸文化の城下町なぁ……」


このゲーム……《カードレース・スタンピード》が有する、7つの世界のひとつ。


花の都、サムライ・スピリット。


電子世界のそれは、よくある時代村のように穏やかではない。あちこちにからくり細工の仕掛けがあり、走者を誘導するギミックが好戦的(アクティブ)mobとの戦いを強要するのだ。


辺りを見回すと、土煙舞う地面に煌めくものを見た。


見やると、それは獣の毛だった。そしてそれを踏みしめるようにヒトのものではない足跡が刻まれていた。


足跡は古きよき瓦屋根の街並を抜けるように続いている。だがもちろん、道中には大量のmobとのバトルが待ち受けているだろう。


「……なめやがって。よっぽど人をバカにしたいらしいな」


あからさまな挑発。


電子の世界に物理法則は通じない。足跡なぞ、残したくなければ消せばいいのだ。


上等だ、と思った。


煽りたければ煽ればいい。その慢心が仇となるのだ。


千里は、カードから丸みのあるバイク《ホワイト・エッグ》に跨がり足跡を辿る。


高音と共に町を駆け、一定間隔で上下する木組みのエレベーターを越え、塞き止められた門をこじ開け。




そうして千里は、瓦屋根の道に辿り着く。




「…………」


天を仰ぎ、今が夜であることをやっと知る。


季節外れの桜が舞う光景はシュガー・マウンテンに似ているが、こちらは本物に限りなく似せた桜吹雪だ。


その道の少し先。





毛並みを血で濡らす。


巨影を背負う、小さな化け狐の姿があった。





「アイツが…………!!」


宿敵を見据え、ホワイト・エッグに鞭を打つ。


加速し悪に迫らんとする。


だが。


ガシャリ!! と千里の正面に複数の影が出でる。


「!?」


キィッとブレーキを踏んだ隙に、狐はいずこかへと飛び去ってしまう。


怒る千里を尻目に、騎馬を呼び出す影達。夜に溶け込むその影は、恐らく鎧兜を纏った武者型の先兵であろう。


だが今の千里にとって、彼らはただの邪魔だった。


「わかってるよ……レースだろ? 構えろよ」


『…………』


無言で戦闘体勢をとる鎧武者たち。その数は二桁に届くか。


しかしもはや、千里は負ける事など考えなかった。


歴史の天井で互いの敵意がぶつかり。


そして。










「…………」


化け狐は、長屋屋根の果ての天守閣に居た。


電子の城下町は、普段ならもっと賑わっているはずだが……今は全面にアクセス禁止令が敷かれている。街並には人っ子一人居なかった。


なれども、それがこの世界そのものを否定する訳ではない。


かたわらに立つ柱の木目はきめ細やか。間伐跡から覗く年輪はおろか木の細胞ひとつひとつが見てとれるかと思えるほど。


高密度のグラフィックを配布素材(アセット)と比べるのも失礼。現実との見分けなど付かず、なおかつ実際のそれより美しく仕上げて来ている。


紛れもなく、神を名乗るに相応しい才能。


それを…………


「…………む?」


と、物思いにふける獣に邪魔が入る。




ーーーーDOKAAAAAAAAA!!




爆発音が響く。


小首をふり見やると、八の爆発が各地で響いたところだった。


かの少年の仕業か。


駆動音は迫り、咆哮は轟く。


「ーーーータァァァアアアアギィイイイイイイイイ!!!」


小さな戦士が、正面の門を突き破り出でる。


その手には、鎧武者の一体がむんずと捕まれており……投擲される。


九度目の爆発。


紅蓮の爆炎が、獣の実体を照らし出す。


「…………!!」


その姿は、老体の狐だった。小さな体躯に長き時を重ねた毛並みを生やし、細められた金の瞳は静かに千里を見据えていた。


異常なのは、巨影のように揺らぐ九の尻尾だ。実体は感じられず、脆弱はなはずの狐に途方もない凄みを与えていた。


寡黙な畜生をにらみ、千里は吠える。


「答えろ! アンタなんだろ! 『三種目のバケモノ』は! そしてアンタなんだろ! 良襖を傷つけ意識を奪ったのは!」


「…………」


彼はわかっている。目の前の相手はすでに、肩書きで表せるほど安い存在ではないと。


だが。


「いかにも」


獣は重く閉ざしていた口を開く。


「儂こそが、君が言うバケモノ……にして、君の級友……鳥文良襖を拐った敵……となるの」


気さくな老人の声だった。


どこか、聞き覚えのあるような声が、すぅ……と息を吸う。


目が見開かれる。


「なれど……なれども! 儂を表すにはそんなものは相応しくあるまいよ!!」


獣が一歩を踏み込む。


見得切りが語られる。






「近くば寄って目にも見よ! 儂こそはこのゲームの七天……Ai-tubaが一柱!!

その名も『権現ホムラ』! ……以後、お見知りあれ」




しゃがれた口上を見届け、少年もあらためて覚悟を決め言葉を反す。


「ああ覚えておくぜ……これからぶっ飛ばす『敵』の名前をよぉ!!」


相手はいまだこのゲームの幹部の称号を名乗っている。


であれば、これからぶつけるべき勝負の内容は明白だ。


ゆえに吠える。


正しい宿敵を取り戻すために。




「ーーーーホムラァ! 俺とカードレースしろぉおおおおおおお!!」














(ヤバイヤバイ!! どのくらいヤバイかって言うと超ヤバイ!!)


彼らの様子を、遠巻きに見守るのは『第一のバケモノ』だ。


金髪碧眼を輝かせ、良質のスタイルを誇る彼女は、このゲームの看板娘。


御旗チエカ。


このゲームの『最初の宿敵』とも言うべき少女だ。


腰まで轟く髪を震わせ、彼女は二人のバケモノの対面を見て思考する。


(ちょっとちょっと!! GMがパクられてワタシの権能が意図的に使われてるってコレかなりマズイ状況ですよね? ですよね!?)


彼女は一人、一触即発の状況に対応を迫られる。


しばらく何やら小刻みに震え、そして諦めたように静かになり……呻く。




「…………いざとなったら、ワタシが介入しなきゃですねぇ……」

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