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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
節目の決戦。千里vs魔王・夜ノ神!!
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魔王陥落。子供の喧嘩に母怒る!

「或葉……」


「まったく……間に合わなかったらどうするかと」


ナイフを止めたのは或葉だった。


「ぬしには、勝手な真似はさせられないゆえ……嫌な予感と電子の異変を受けて馳せ参じたにござる」


息を切らすところを見るに、彼女もまた走って来たのだろう。


その体にはこれといった傷はない。


だが、確かに肉を刺す感覚があった筈だが……?


「それならほれ、これ」


そうして、彼女が差し出したのは赤々とした塊。間違っても人肉ではないが……ローストビーフに使うようなものであることくらいは想像がついた。


「え? 生肉? ナンデ?」


「なに、ここの家主よりの貰い物よ」


「ヘ?」


そして、新たな登場人物が加わる。


「……………………………………良襖」


ズシッ ズシッ ズシッ…………


「、ちょ」


巨影は、良襖の返事を聞かなかった。


ただ一度、腕を振るった。




ーーーースパアアアアアアアアン!!




平手打ち一発。


それだけで幼い魔王の体は宙に浮き、床に衝突しては三度も回転してようやく止まる。


「…………うわぁ」


「やり過ぎよ、良襖」


衝撃の起点。


そこには、確かな母の姿が在った。


なんと豊満な肉体だろうか。全体に丸みを帯びた体だが、クリーム色のセーターを押し上げるその胸囲は渓谷を創り天を突く明峰だった。


強肩から伸びる剛腕は力強く振るわれ、地を踏み締める黒脚は太く大樹のごとく質量を支えていた。


彼女は伸びた緋の髪振るわせ、切れ長の美貌を以て睨む。


魔王を名乗るその辺の幼女はぷるぷると震えていた。


「…………えっと」


「良襖。話は大体聞かせてもらったわ。……遥さんのクビを切ったって?」


「……ハイ」


「ハイじゃないでしょうにッ!!」


しかり声に、その場の子供たち全員がビクッと震えた。


「なぁに小学生の身分で大人をクビにしてるのよッ!! 絶ッ対に調子に乗らない事が条件だって最初に言ったでしょう!!」


「ご、ごめんなさい母さ」


「ごめんで済んだら警察はいらないッ!! 今後もこういうつもりなら『虹色のキー(うんえいけん)』取り上げるわよ!!」


「そ、それだけはあああ!?」


まさしく怒り心頭。


ズシィ! と歩みを進めるだけで、誰も抗えないような貫禄が在った。


足腰立たず涙を流す良襖を見てると、もう家庭の中でぜんぶ解決するんじゃないかと思わさる。


溢れる貫禄にガクガク震えながら、かろうじて千里は問う。


「なにあの……なに?」


「実は、ぬしを救う時点であの母上は怒りきっておっての……」


膝を笑わせながら、或葉は思い返す。





数分前。異常を感じ取った或葉は良襖の家に向かった。正体が運営のボスだというのはすでに姉から聞いていた。


無用心にも空いたままだった鍵を無視し、ガチャリと扉を開けて家に入ると。


ソファーで寝てたらしい彼女と出くわす。


「……ったくも……さっきからなあに騒がしい……」


「失礼。緊急事態ゆえ」


「緊急?」


その言葉だけで、母の瞳が槍のように尖る。


或葉は動物的な恐怖を覚えた。


「なにが……あったのか聞かせてくれる?」


「ひっ……いやその又聞きも又聞きにござるが……実はかくかくしかじかで……」


「なるほど……そういうことね大体理解した」


「すさまじいの」


「急ぐわ。確実になにか起こる」


その機動の軽さは、獣の嗅覚を思わせた。




そうして対面する惨劇の場面。


千里の首筋から流れる血を見て或葉は焦る。


「自刃など……文字どおり血迷うてか! 待たれよ今すぐ止め……」


ズシッ。


「重……なんにござるかコレ」


「生肉。五割引きの」


やって来た母親は、いろいろと装備を揃えてきた。


「コレで。タイミングみて刃物受け止められる?」


「いやぁ、流石に色々と無理があるというか……」


「あってもやるの。でないとあの子反省しないもの……!

大丈夫よいざとなったらこの熊撃退用音拳銃で止めるから」


「えぇ……いやその、住宅街で爆竹の親玉を鳴らす行いは大いに問題があるような……」


「いいから早く行きなさいっ。間に合わなくなっても知らないわよ……!?」


「う、うむっ」


気圧されながら、彼女は。


(この崩れっぷり……やはり蛙は親まで蛙!!)


そう思わざるをえなくなりながら、或葉は刃を止めるべく駆け出した。




「という、事にござる」


「うん。遺伝だわ」


疑いようのない事実を認識しながら、千里は目の前の惨劇に目をやる。


話も大詰めのようだ。


「……さて。本当なら私は、更正のためにも良襖を警察に届けなきゃあならない。

だけどもそれじゃあ更に悲劇が広がるばかりだっていうのはよくわかる。あのゲームはたくさんのユーザーの助けになっているもの」


「そ……そうでしょ? だから……」


「だけど罰は必要!!」


ズン! と踏み込む。


それなりに重量があるはずの良襖の背を掴み、軽々と持ち上げる。


「『悪事』に対して『罰』が無いとなると、悪事を働いた人間は必ずタガが外れる!

現に良襖もそうなりかけてる! ここで芯まで釘を刺す必要がある!」


そうして、右手を振り上げ……


「だから私は! 尻を! 百回! 叩あぁく!!」


「ひぃいいいい!?」


有言は実行される。





ーーーーパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンスパアアアアアアアアン!!





「ンダッビャアアアアーーーーアア!!」


「……ふぅ」


珍奇な悲鳴も意に介さず。


叩くだけ叩いて、母親は彼女を解放する。


もうドン引きもドン引きである。地獄があるのならこういう仕打ちが繰り返されているのでは? そう思わず疑うほどの光景だった。


「本当に百回、叩きやがった……よな?」


「拙者にはわからん……」


ひとまず言えることは、鳥文良襖は尻から湯気が出るほど叩かれてしまったということだ。


「しばらく反省しなさい! じゃないとこの《剛鬼の狩り手ルイズ》が運営を代行する事になるからね!」


(いやアンタ幹部!? 親子運営だったのかよ!?)


(どうも法律上は問題ないようにござるの……)


もはや本人が凄まじすぎて、衝撃の真実がオマケレベル。


だが構わず母は告げる。


「後一度! チャンスはそれだけだからね!! 足腰立たないだろうけど、その辺の棚に頭を擦り付けるなりして頭を冷やすのねっ」


言うだけ言って、彼女はズシッ、ズシッと部屋を去る。


気まずい沈黙が部屋を支配する。異変が起きすぎて、これからどうしたらいいかわからない。


と。


「ごめん……ちょっと頼まれてくれる……?」


「あ?」


「椅子に……持ち上げて。腰が、無理、動かないの……」


ここまでの惨事を抜け、まだ作業を続けようというのか。


呆れた根性だが、彼らは。


「「ごめん……無理」にござる……」


「そんなあ……」


もう、無情を返す事しかできなかった。

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