クソ鳥コラム後編〜キルハルピュイアを取り囲む環境〜 by夜ノ神 目覚める千里付き!
キルハルピュイアは紛れもなくぶっ壊れである。
その理由は先の前編で述べた通りである。
しかし、その強みを正しく自覚するプレイヤーはそれほど多くない。そこには「スタンピードのゲーム性」と「キルハルピュイアの専用サポートの性能」という二つの理由があった。
ひとつ目に、スタンピードはテンポを極めて重視するゲームである。
本ゲームは、長くとも三ターン程度で決着を着けなければならない。その駆け引きの中にあって、素引きしたこのカードを場に残す選択をした場合は「手札一枚を拘束する代わりに攻撃を止める」カードとなりかねないのである。
特に、考え無しにただ場に置いただけのハルピュイアは木偶の坊もいいところであり、ただ単に手札一枚を自身の制御から外すだけである。
そうして戦術を回していった上で敗北した場合「あそこでハルピュイアじゃあなく○○を出していれば」と発言するハメになる。もちろんこの言葉は素直に自爆特攻させていれば必要無かった言葉である。
間違いなくゲームを破壊する力を持っているというのに、下手な工夫をしようとするととたんに脆弱になる。
こういったややこしさも、クソ鳥の異名の構成に一役買っていることだろう。
二つ目に、サポート回りの調整。
キルハルピュイアのサポートは、どれもこれもハルピュイアの異様な性能を前提としたものとなっている。
その為、これらのサポートカードを利用して呼び出すと結果としてバランスが取れることになるのだ。
以下はその例である。
《ハルピュイアの暴走》✝
ギア1 ヘル・ディメンション/チューン
《使用コスト・手札4枚を捨てる》
捨て札、山札、手札のいずれかから《キルハルピュイア》四体を場に呼び出す。こうして呼び出したマシンはターン終了までギア1として扱う。
《ツイバミグリップ》✝
ギア1 ヘル・ディメンション/チューン
◆『使用コスト・自分マシン一枚を破壊』
コストカードのギア−1の枚数分、山札または捨て札から《キルハルピュイア》を呼び出す。
手札を四枚も捨てる《ハルピュイアの暴走》は言わずもがな。枚数を出そうとすればするほど切札を犠牲にしがちな《ツイバミグリップ》も、ドロー効果がなければ割りに合わない場面が多い。
しかし、このカードだけは話が変わってくる。
《咎人の樹》✝
ギア1 ヘル・ディメンション/チューン
◆《使用コスト・手札一枚を捨てる、または場にキルハルピュイアが存在》
◆《設置(このチューンは場に残る)》
◆『ターン開始時/自分の場に《キルハルピュイア》が存在しない』《キルハルピュイア》一枚を生成し呼び出す。
このカードについて考察してみよう。
まずは単体で呼び出した場合。この時点では手札コストとこのカードで二枚のディスアドバンテージである。
しかし相手にターンを移すとともにハルピュイア一羽が放たれる。この時点でアドは-1。
ハルピュイアが攻撃を止めるとともにドローを行いアド収支はほぼイーブン。次の自分ターンを迎えた時点で「損失なしで攻撃が二回止まる」こととなり完全なアドバンテージとなる。
次にハルピュイアとともに呼び出した場合。相手のターン終了まではこのカードの分のアドバンテージは戻って来ない。
しかし自分のターンの到来とともにやはり一羽のハルピュイアが放たれるためにアドバンテージである。
しかし一番最悪なのは「ハルピュイアの存在により手札コストを踏み倒し、そのターンのうちに破壊コストに使ってしまう」こと。
これにより次の相手ターンから早速アドバンテージを産みはじめてしまうのだ。
そもそもにおいて「生成」である。盤外から五枚目六枚目と、無尽蔵に新規のハルピュイアを造り出してしまうのだ。これだけはどうにも養護のしようもない。
しかしこちらが有名になりすぎた結果「大体咎人のせい」「地獄の罪人らしく裁かれろ」などの声が相次ぐ事となる。
結果としてハルピュイアの養護派を擁立。このカードの強さは余計にわかりにくくなってしまった。Ai-tubaの一人、戌岸ユリカがその列に加わり苦言を呈したのはちょっとした珍事である。
これらがハルピュイアを取り巻く環境であり、彼の怪鳥の強さをわかりにくしてしまう要因である。
事態を重く見たスタンピード運営は、以上の要因を加味したその上で「キルハルピュイアは危険である」との最終判断を下す事となった。
判断が出た以上はそれに添わなければならない。ゲームの基盤を揺るがす力を見過ごすことも出来ない。各種サポートカードの存在意義を潰すことなく、怪鳥の羽をむしり力を削がなければいけない。
スカーレット・ローズの【重機王】共々、ゲームに搭載するには早すぎたカードとして、今後のカードデザイン作成に向けた反省として生かさなければならないだろう。
今月末の時点で彼らのナーフは反映される。力を削がれ寒空に放り出される事となる彼らのためにも、このような事態は決して繰り返してはならない。
十一月某日、夜ノ神
「…………………………ん、く………………?」
先駆千里は、自宅のベットの上で目を覚ました。
「あれ、俺はいったい…………」
記憶が不確かだ。
果たして自分は、今まで何をしていたのだったか…………?
「気がついたかな?」
「……え?」
起き上がった千里の前に居たのは彼の兄の先駆借夏だ。
彼はその中性的な顔を複雑に歪め、絞り出すように言う。
「ほんとに……大変だったんだぞ」
「? ? ???」
疑問符ばかり浮かべる千里は、ひとまず何があったかと過去に思いを馳せた。




