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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode6 絡めとる状況。千里vsユリカ!!
54/190

聖域懸けた最終戦。千里VSユリカ開幕!!

バ ツ ン ……




「……どういうつもり?」


枕投げから一夜明け。


遥は()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見て遥は言う。


等分された紙の束は或葉と傍楽が受け取った。


「せっかくオトモダチが作ってくれたってのに……それを手放すって?」


「確かにみんなには感謝してるよ。……でも、今回の試練にとって、あの束は余計なお世話だったんだ」


「まあ、やりすぎた感は否めんの」


「使おうとしてブルっちまったならしゃーないわな」


仲間たちの言葉を背負い、千里は語る。


「チエカから始まって、マアラ、ルイズ……ここまでのAItubaとの戦いは純粋に『勝利』を求めるものだった」


チュートリアルでのチエカ。最初の実力試しのマアラ。99の連戦と最強の顋との決戦で構成されたルイズ。


これまでの試練は、どれもプレイヤーの力『のみ』を試すものだった。


「でも今回ばっかりは違う。遥さんの試練は、いかにして遥さんを楽しませるかにかかっている。

でも、そのためには対戦者である俺も楽しむ必用がある……でもさ、それって当たり前の事だったんだ。だってゲームは楽しむもんだ」


真っ直ぐに見据える。


「ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっと難しい事ばかり考えてた。運営がどうの出資者がどうの拠点がどうの!

でもそんなこと、ホントは関係無いのが一番だ。そんなアタリマエをこの試練は伝えたかったんだ」


思考を巡らせ言葉を繋ぐ。


「この試練の命題はたったひとつ」


締めくくるように告げる。





「ルールとマナーを守って楽しくカードレース。そんだけだったんだ」




ともすれば、呆気ないくらいの帰結。


その言葉に。


「ーーーーふっははは! 大ッ正解!! よくその答えにたどり着いたわ」


ようやく。ユリカから笑みが出る。


「た、だ、し! ここからが辛い所よ。あなたはその答えと、あたしを圧殺する手段を知った上でタノシイタノシイレースをしなくっちゃあいけない」


「んーや、楽勝すよ」


なんの気無しに言ってみせる。


「楽しむのは得意なんで」


「言うじゃない?」


火花が散る。


決戦は既に始まっていた。






「いーい啖呵切りじゃないのさ」


「おーよ。ま、ここは勝負だからな」


薄暗いネットブースの廊下で、鳥文良襖と先駆千里は対面で語らう。


「ここで失敗を出したら、試練の日々が無駄になり、みんなの努力も無駄になる。

勝負中にそれを気にしちゃいけないってのはわかるけど、それはそれとして当たり前の事実から目ぇ背けちゃ駄目だろ」


「いえてる。……それでどう?一周して見えた景色は」


「別物」


千里は迷わず答える。


「一回、環境の頂点を見れたのが良かった。最新の戦術を見れたのも良い。んでもってこの合宿だ。

経験は充分。この先何が起こってもやって行けそうだよ」


「そ。喜ばしい限りじゃない」


何気ない会話。


その中で。


「ところでよ」


そして。


不意に。





「お前、スタンピードのボスだろ」





ひくつく。


頬の筋肉が痙攣する。


「……へぇ? 誰が誰の上司って?」


建前を捨て。


魔王は勇者を妖しく睨む。






ゲーム世界。


骸骨舞う黒の荒野ヘル・ディメンション。


詩葉やモヒカン達との戦いにも利用し、かつてユリカと詩葉の決戦にも利用した場所だ。


そこで、ファースト・マシンに跨がる千里は構想する。


(ーーーー化け物みてーな重機王にも弱点はある。死炎印にも弱いし、耐性エグい奴にターゲット集中(しんろぼうがい)されても結構弱い)


どんな怪物にも弱点くらいはある。


対策の権利があるなら打倒の機会もあろう。


(でも、確実に先行を取れる《アメシスト・イーグル》があれば話が変わってくる。

なにせ往復3ターン目をこっちが取るなら、相手は往復2ターン目を取るってこと。出せるギアも2止りで、まともな対策札を切れない事になる)


ここに来て、ようやく千里は《断絶・ルインズガードナー》の役割を知る。




《断絶!! ルインズ・ガードナー!!》✝

ギア1 ステアリング/チューン

◆《使用コスト・手札を任意の枚数捨てる》

◆捨てた手札の倍以下のギアの《進路妨害》を持つマシンを一枚山札か捨て札から選択し場に呼び出す。この方法で呼び出したマシンのDEFは倍になる。




あれだけは、後攻の立場からDEF15000の壁を繰りだし重機王を封殺できる。効果で守備力が倍加すれば実に30000。重機王の22000を大きく上回る。


だが、それすら焼石に水にしてしまう力があるように思える。


手札三枚を費やして、それでも相手を止められるかどうか。第一、対策札を握っていなければそれまでという状況は上手くない。


均衡をぶち抜く圧力。


天秤を打ち砕く権力。


繰り出され、対抗手段を握っていなければ『運命の4ターン目』さえまともに迎える事なく敗北する。


人それを理不尽と呼ぶ。


(上手くない。上手くないよな。アイツは環境トップの《ラバーズ・サイバー》に後出ししてようやくバランスが取れたんだ。

それが貴重な『正解』だったとしても……それがすべてに当てはまる訳がない)


先入観に惑わされてはいけない。


此度の戦いは、試練であって試練で無いと知れ。


構想の中、駆動音が近づく。


「…………来たか」



ーーーーBUWAAAAAAAAAAA!!



轟音とともにヘル・ディメンションの主が来る。


あのときと同じ、極彩色のバイクに跨がる姿だ。


女王ユリカ。


ヘル・ディメンションの女王。


「最早、これ以上の語らいは不用」


「っすね」


信号は降りる。


ガードレールが涌き出る。


「行くわよ。電子の合い言葉を叫びなさい!」


「おう!」


呼吸が早まる。


鼓動が加速する。


「疾走に情熱を」


「Passion for sprinting‼」


走り出す。




千里残り走行距離……100


ユリカ残り走行距離……100




疾走は始まる。


力だけではない、遊戯の本質に迫る一戦が。







「俺のターン! 《ゴールド・グース》で走行してターンエンド!」



千里残り走行距離……100→95



「あたしのターン! センターの《絶桃のラッシュシード》で走行!」



《絶桃のラッシュシード》✝

ギア1 ステアリング/マシン

POW3000 DEF3000 RUN5

《デメリット・自分エンドフェイズ時、可能なら手札一枚を捨てる》

《デットヒート10》



ユリカ残り走行距離……100→95



「さ、ら、に! センターに《ジェイル・ロック&アンロック》を重ねる!」


「!!」



《ジェイル・ロック&アンロック》✝

ギア2 ヘル・ディメンション/マシン

POW7000 DEF7000 RUN10

《デッドヒート5+(このマシンのデッドヒートは、自身の下に置かれた全デッドヒート値の合計プラス5になる)》



「もちろんこの子でも走行! しかもこれでラッシュシードのデメリットは支払わなくても良い!!」



ユリカ残り走行距離……95→85



「そして最後に《キルハルピュイア》を呼び出す。走行してターンエンド!」





《キルハルピュイア》✝

ギア2 ヘル・ディメンション/マシン

POW5000 DEF5000 RUN5

◆《進路妨害》

◆『このカードの破壊時』カードを一枚引く。




ユリカ残り走行距離……85→80



「……うっげ」


走った距離こそ控えめだが、状況はよろしくない。


キルハルピュイアは攻撃を吸う《進路妨害》持ち。しかも退場時に一枚ドローする能力がある。


しかも走り出せば《デッドヒート》。コチラが走るたびに相手は15キロ走行する。


まだまだ序の口。


これから続く試練を最強の力無しに押し通せるか。


(いや)


千里は思い直す。


小難しい考えは一旦他所へ。


デッキは組み直した。


詩葉に見せたら笑われるか怒られるかしそうだが、それでもあれらを使いこなすのみだ。


そして。


(楽しもーぜ。遥さん)


「俺のターン! ドロー!!」


試練に挑む。


少年の挑戦には運命さえかかっていた。






「ま…………ずい…………」


壁を伝うように進むのは詩葉。


二日酔いの身ながら、千里に『ちょっとした調べもの』を頼まれたが故になんとか立ち上がり行動した。


その身に構築を指南する暇は無かったが。


「だからって、もう一つを伝え損ねるのはマズイだろ……!」


ユリカの試練、もう一つの課題。


それを千里はまだ知らない。


伝えなければ。


このままでは、千里は確実に負けてしまう。

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