聖域懸けた最終戦。千里VSユリカ開幕!!
バ ツ ン ……
「……どういうつもり?」
枕投げから一夜明け。
遥は目の前で留め具を弾き等分された作戦書を見て遥は言う。
等分された紙の束は或葉と傍楽が受け取った。
「せっかくオトモダチが作ってくれたってのに……それを手放すって?」
「確かにみんなには感謝してるよ。……でも、今回の試練にとって、あの束は余計なお世話だったんだ」
「まあ、やりすぎた感は否めんの」
「使おうとしてブルっちまったならしゃーないわな」
仲間たちの言葉を背負い、千里は語る。
「チエカから始まって、マアラ、ルイズ……ここまでのAItubaとの戦いは純粋に『勝利』を求めるものだった」
チュートリアルでのチエカ。最初の実力試しのマアラ。99の連戦と最強の顋との決戦で構成されたルイズ。
これまでの試練は、どれもプレイヤーの力『のみ』を試すものだった。
「でも今回ばっかりは違う。遥さんの試練は、いかにして遥さんを楽しませるかにかかっている。
でも、そのためには対戦者である俺も楽しむ必用がある……でもさ、それって当たり前の事だったんだ。だってゲームは楽しむもんだ」
真っ直ぐに見据える。
「ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっと難しい事ばかり考えてた。運営がどうの出資者がどうの拠点がどうの!
でもそんなこと、ホントは関係無いのが一番だ。そんなアタリマエをこの試練は伝えたかったんだ」
思考を巡らせ言葉を繋ぐ。
「この試練の命題はたったひとつ」
締めくくるように告げる。
「ルールとマナーを守って楽しくカードレース。そんだけだったんだ」
ともすれば、呆気ないくらいの帰結。
その言葉に。
「ーーーーふっははは! 大ッ正解!! よくその答えにたどり着いたわ」
ようやく。ユリカから笑みが出る。
「た、だ、し! ここからが辛い所よ。あなたはその答えと、あたしを圧殺する手段を知った上でタノシイタノシイレースをしなくっちゃあいけない」
「んーや、楽勝すよ」
なんの気無しに言ってみせる。
「楽しむのは得意なんで」
「言うじゃない?」
火花が散る。
決戦は既に始まっていた。
「いーい啖呵切りじゃないのさ」
「おーよ。ま、ここは勝負だからな」
薄暗いネットブースの廊下で、鳥文良襖と先駆千里は対面で語らう。
「ここで失敗を出したら、試練の日々が無駄になり、みんなの努力も無駄になる。
勝負中にそれを気にしちゃいけないってのはわかるけど、それはそれとして当たり前の事実から目ぇ背けちゃ駄目だろ」
「いえてる。……それでどう?一周して見えた景色は」
「別物」
千里は迷わず答える。
「一回、環境の頂点を見れたのが良かった。最新の戦術を見れたのも良い。んでもってこの合宿だ。
経験は充分。この先何が起こってもやって行けそうだよ」
「そ。喜ばしい限りじゃない」
何気ない会話。
その中で。
「ところでよ」
そして。
不意に。
「お前、スタンピードのボスだろ」
ひくつく。
頬の筋肉が痙攣する。
「……へぇ? 誰が誰の上司って?」
建前を捨て。
魔王は勇者を妖しく睨む。
ゲーム世界。
骸骨舞う黒の荒野ヘル・ディメンション。
詩葉やモヒカン達との戦いにも利用し、かつてユリカと詩葉の決戦にも利用した場所だ。
そこで、ファースト・マシンに跨がる千里は構想する。
(ーーーー化け物みてーな重機王にも弱点はある。死炎印にも弱いし、耐性エグい奴にターゲット集中されても結構弱い)
どんな怪物にも弱点くらいはある。
対策の権利があるなら打倒の機会もあろう。
(でも、確実に先行を取れる《アメシスト・イーグル》があれば話が変わってくる。
なにせ往復3ターン目をこっちが取るなら、相手は往復2ターン目を取るってこと。出せるギアも2止りで、まともな対策札を切れない事になる)
ここに来て、ようやく千里は《断絶・ルインズガードナー》の役割を知る。
《断絶!! ルインズ・ガードナー!!》✝
ギア1 ステアリング/チューン
◆《使用コスト・手札を任意の枚数捨てる》
◆捨てた手札の倍以下のギアの《進路妨害》を持つマシンを一枚山札か捨て札から選択し場に呼び出す。この方法で呼び出したマシンのDEFは倍になる。
あれだけは、後攻の立場からDEF15000の壁を繰りだし重機王を封殺できる。効果で守備力が倍加すれば実に30000。重機王の22000を大きく上回る。
だが、それすら焼石に水にしてしまう力があるように思える。
手札三枚を費やして、それでも相手を止められるかどうか。第一、対策札を握っていなければそれまでという状況は上手くない。
均衡をぶち抜く圧力。
天秤を打ち砕く権力。
繰り出され、対抗手段を握っていなければ『運命の4ターン目』さえまともに迎える事なく敗北する。
人それを理不尽と呼ぶ。
(上手くない。上手くないよな。アイツは環境トップの《ラバーズ・サイバー》に後出ししてようやくバランスが取れたんだ。
それが貴重な『正解』だったとしても……それがすべてに当てはまる訳がない)
先入観に惑わされてはいけない。
此度の戦いは、試練であって試練で無いと知れ。
構想の中、駆動音が近づく。
「…………来たか」
ーーーーBUWAAAAAAAAAAA!!
轟音とともにヘル・ディメンションの主が来る。
あのときと同じ、極彩色のバイクに跨がる姿だ。
女王ユリカ。
ヘル・ディメンションの女王。
「最早、これ以上の語らいは不用」
「っすね」
信号は降りる。
ガードレールが涌き出る。
「行くわよ。電子の合い言葉を叫びなさい!」
「おう!」
呼吸が早まる。
鼓動が加速する。
「疾走に情熱を」
「Passion for sprinting‼」
走り出す。
千里残り走行距離……100
ユリカ残り走行距離……100
疾走は始まる。
力だけではない、遊戯の本質に迫る一戦が。
「俺のターン! 《ゴールド・グース》で走行してターンエンド!」
千里残り走行距離……100→95
「あたしのターン! センターの《絶桃のラッシュシード》で走行!」
《絶桃のラッシュシード》✝
ギア1 ステアリング/マシン
POW3000 DEF3000 RUN5
《デメリット・自分エンドフェイズ時、可能なら手札一枚を捨てる》
《デットヒート10》
ユリカ残り走行距離……100→95
「さ、ら、に! センターに《ジェイル・ロック&アンロック》を重ねる!」
「!!」
《ジェイル・ロック&アンロック》✝
ギア2 ヘル・ディメンション/マシン
POW7000 DEF7000 RUN10
《デッドヒート5+(このマシンのデッドヒートは、自身の下に置かれた全デッドヒート値の合計プラス5になる)》
「もちろんこの子でも走行! しかもこれでラッシュシードのデメリットは支払わなくても良い!!」
ユリカ残り走行距離……95→85
「そして最後に《キルハルピュイア》を呼び出す。走行してターンエンド!」
《キルハルピュイア》✝
ギア2 ヘル・ディメンション/マシン
POW5000 DEF5000 RUN5
◆《進路妨害》
◆『このカードの破壊時』カードを一枚引く。
ユリカ残り走行距離……85→80
「……うっげ」
走った距離こそ控えめだが、状況はよろしくない。
キルハルピュイアは攻撃を吸う《進路妨害》持ち。しかも退場時に一枚ドローする能力がある。
しかも走り出せば《デッドヒート》。コチラが走るたびに相手は15キロ走行する。
まだまだ序の口。
これから続く試練を最強の力無しに押し通せるか。
(いや)
千里は思い直す。
小難しい考えは一旦他所へ。
デッキは組み直した。
詩葉に見せたら笑われるか怒られるかしそうだが、それでもあれらを使いこなすのみだ。
そして。
(楽しもーぜ。遥さん)
「俺のターン! ドロー!!」
試練に挑む。
少年の挑戦には運命さえかかっていた。
「ま…………ずい…………」
壁を伝うように進むのは詩葉。
二日酔いの身ながら、千里に『ちょっとした調べもの』を頼まれたが故になんとか立ち上がり行動した。
その身に構築を指南する暇は無かったが。
「だからって、もう一つを伝え損ねるのはマズイだろ……!」
ユリカの試練、もう一つの課題。
それを千里はまだ知らない。
伝えなければ。
このままでは、千里は確実に負けてしまう。




