決戦開始! 千里vsルイズ勃発!!
「…………えっと、ホントに持って帰って来ちゃったんですか?」
「たりめーだ。コドモなめんなどちゃくそバカヤロー」
再びのヘル・ディメンション。
したり顔で待ち構えていた御旗チエカに音声データを投げつけると面白いように青くなっていった。
見事な波打つ風景。
子供達の語り声。
ぶん投げた理不尽は見事に解され突き返された。
「あっちゃ……アナタ、我々がどういう意図でこの《試練》を仕掛けたかはもうお分かりですよね?」
「おーよ」
千里は今さらそれを否定しない。
終わったことは水に流すたちだった。
「めちゃくちゃシンドかったけどよー……まあ結局楽しめたからいいよ。
ただ、約束はキッチリ守ってもらうぜ。さあ、完了の宣言をしてもらおーか?」
「……すいません、後ユリカさんパス!!」
「えぇ!?」
金髪の看板娘に殺人パスを貰い、困惑するのはユリカだ。
「ちょ、無理難題出したのはあなたでしょ!? 毒食らわば皿までよ、末路まで受け取りなさい!!」
「だってーワタシってばAiですし? ご主人サマに噛みつくワケにもいきませんし♪」
「んな設定律儀に掲げてんのあんたくらいだっての!! だいたいどう考えてもシンギュラってるじゃないの!」
「ええいもう退散!!」
「あ!!」
逃げるように消失する金髪美乳のレースクイーン。
残された黒の荒野の中、千里は傍らに立つ幹部に頼む。
「すんませんけどユリカさん、お願いできます?」
「しょうがないわね……」
しかたなげに、ユリカは語る。
「……あなた達は、見事この理不尽に打ち勝った。『かぐや姫の難題』パート完了よ」
千里、現在のクリア状況…………
《初陣強襲の試練》……クリア済み
《若葉の試練》……………クリア済み
《百人切りの試練》……ボス戦以外完了
《娯楽恐悦の試練》……ボス戦以外完了
手付かずの《試練》……残り三つ
…………計七つの《試練》をクリアし、ラスボス仕様の御旗チエカを討伐した時、《カードレース・スタンピード》クリアとなる。
リアルに帰還。
千里達は百合喫茶の二階、ネットカフェの防音ブースに居た。
同室には、もういろいろ諦めてここを利用しているマアラがぐっすりと眠っていた。
そこには、詩葉と遥の姿も。
遥が切り出す。
「……で。どうする? メンテ明けにすぐあたしに挑む?」
「……いーや」
千里は否定する。
先にやるべきことがある。
「《百人斬りの試練》が先っす。あっちの条件先に満たした訳ですし。
でも遥さんにも近い内に挑みますんで楽しみにしといてくださいっす!」
「はいな。楽しみにしておくわ。
……んじゃあメンテ明けまで下に居るから、好きに使っているように。ああマアラは寝かせたげてね。体弱いから」
そう言い残して、遥=ユリカは防音ブースを後にする。
「……てなわけで詩葉さん、攻略にあたりちょっと話が」
「ほう」
メンテ明けまでは大分ある。
ブースは貸し切り同然。
「まずはさっきの報告から」
二人の作戦会議が始まる。
「さっきまでやってた試練っすけど……あんな試練、俺一人じゃどうにもならなかった」
理不尽への挑戦。
間違いなく、彼一人ではどうにもならなかった事だ。
「それに人だけじゃない。いろんな乗り物に、俺たちは支えられているんだ」
そして至難を極めたからこそ、得るものも多かった。
詩葉が千里に問う。
「それが今回の攻略にどう関わってくる?」
「今必要なのは『集まる力』なんじゃねーのってこと」
試練を乗り越えた目線は、それまでとは別物になっていた。
「あの巨人。単体ならなんとかなるかもしれない。けど次の相手はルイズ本人。
軸札として複数繰り出しかねないし『必殺技』もある。今までの戦法じゃ駄目だと思うんだ」
「ならばどうする?」
「目をつけてたカードがある」
未来を見る眼差し。
狂暴な笑みが未来を照らす。
「あっちが鉄巨人なら、こっちはーーーーだぜ。きっと今の目線なら使いこなせる」
「ほう? ならデッキ調整が要るだろ? 付き合うぞ」
「助かるっすよ」
そう返す千里の脳裏には、既に新たなる切り札のイメージがくっきりと浮かんでいた。
そして、九時頃。
「……いや。お前ここに居て良いのか?」
「秘密の仕組みでOKなのですっ!」
メンテ明けのラバーズサイバーに、マアラと詩葉は降り立っていた。
そして、千里も。
「それじゃ、行ってくる」
彼らに見送られ、勇姿は戦場へ向かう。
「ふん! あのときより成長したようですが、本気のルイズさんが千里さんに負けるはずがありません! きっとコテンパンです!」
「お前そのセリフおもいっきりフラグだからな」
ビルに囲まれた広間の中心。
待ち構えるは青い巨影。
『待っていたぞ!! 我こそが試練の百人目! 七天のAi−tubaが一柱、ルイズ・フォン・アーベルである!!』
ビルの群れをも越える高みから、その顋は千里のアバターを見下ろしていた。
相変わらずの迫力に圧倒されるなか、巨影はこんな事を聞く。
『話は聞いている! どうやら我らの仕組みそのものに対抗しているようだな!』
「おーよ! おかげさまでガッツリ嫌がらせ喰らったぜ!!」
『問おう! 何故、我らに抗う!?』
罵る気配は無い。
純粋な問いだ。
『我らは然るべき役割を果たすのみ。あらゆる理不尽には理由があると予想がつかん時代の住人でもあるまい!』
圧倒する圧。
それに対する答えは。
「……今日の昼間、似たような事を訊かれたよ」
『ほう?』
「知り合いの母親によ。訊かれたんだ。うちの子をつれ回してどうするんだって。他にまだまだやることがあるんじゃないかって。だけどよ」
怒り顔の母にさえ。
臆せず心を揺さぶった級友を彼は知っている。
「……俺たちはさ。ただ楽しい時間を過ごしていたいだけなのよ」
千里は見栄を切る。
「でも、ただそれだけでも貫こうとするといろいろ問題が出てくる。そんなかでも一番でっかい問題があんたらだ。
ただゲームしていたいだけだってのに、お外を走り回る事になった挙げ句梯子を外されるって? 冗談じゃねーなぁ!!」
敵対は崩さない。
もとより彼らの役割は戦うことだ。
「楽しませてもらうぜ全力で!! そのために必要だったらあんたらの『奥』にケンカ吹っ掛ける!!
あんたらが当たり前の事をしてくれないってんなら、俺達はそれに反発する! ただ、それだけだ!!」
『そうか』
その答えの合間に。
巨影は何を思ったのだろうか。
『……であれば、もはや戦うのみか』
声と同時に。
ルイズの首が落ちる。
「…………ッ!!」
なにも脅かしの演出だけではない。
彼の首そのものが、ファーストマシン《トライホーンの大顋》として登録されているのだ。
ルイズの首が到来する。
『さあ行くぞ! 配置について息を吸え! 戦いの準備を終えよ!』
千里のファーストマシンも地面より浮き出る。
レース用の信号機が降りる。
呼吸が高まる。
鼓動が加速する。
そして、ルイズが叫ぶ。
『電子の合言葉の準備は良いか!!』
「できてるよ……!!」
そして。
信号が青に変わる刹那。
『ーーーー疾走に情熱を!』
「Passion for sprinting‼」
そうして、二人の勝負は始まった。
千里残り走行距離…………100
ルイズ残り走行距離……100




