三陣激突。不可能ミッション開始!
「地球が終わるまで行ったり来たり、なぁ?」
「メンドーな出題してくれるわよ、ホント」
学び舎。
クラスの一角。
結局当日中に謎解きに移れなかった彼らは、学校にて解読の続きをやっていた。
顔を付き合わせるのはいつもの四人。
銀髪紅顔の少年、先駆千里。
赤毛尖眼の幼女君主、鳥文良襖。
目隠れの地味な少年、風間傍楽。
女子力がついてきた少女、丁場或葉。
小学生が顔を突き合わせてゲームについて語らう。
言葉にすればそれだけだが、その熱量はケタ違いのものがあった。
理由はもちろんおわかりだろう。
「……良い? あっちはあくまでも『ゲーム』としてこの無茶苦茶を繰り出して来た。
だったらあたし達の勝利は『真正面からクリアすること』。決して油便を投げたりぶん殴ったりする事じゃなくってね!!」
「おうっ!! あの意味不明な出題をしてきた運営の鼻をあかしてやろーぜ!!」
(ついていけねーよこのノリ…………)
傍楽は頭を抱えるが、止まらないものは仕方がない。
先日届いた挑戦状。
そこには『指定の時間帯に提出する事』『指定日の当日に答えを録画すること』『プレイヤーのフレンド二名以上が随伴』など厄介なルールが刻まれていた。
指定日が今日だ。
「見事にバイクしか持ってない詩葉が閉め出されたな……さすがに三人載せんのは無理だろーし」
「元より姉上は仕事がつまっておる故。終わらせるまではカンヅメにござろう」
停滞の中、良襖が語り出す。
「ふむ……男女の✕✕✕も行ったり来たりと言えなくもないけど」
「唐突な下ネタやめろよ!?」
「それは人類が滅ぶまでにござろう?」
「それね」
「お前もフツーに返事すんなよ或葉!?」
「? 恋愛の距離感の話題に返事すると危険があると?」
「あーらなに想像しちゃった?」
「、俺の耳があれなのか!?」
千里が汗を浮かべる中、埒があかないと睨む声が。
「……ストレートに、星……なんじゃないか?」
傍楽だ。
常識的な意見は彼の特色の一つだ。
「例えば彗星。あの妙な軌道は『行ったり来たり』のうちに入らないか?」
「ちょっと違うかなー。アレは『星が終わっても』行ったり来たりするでしょうし」
「なら月はどうよ? もし地球が無くなれば確実にどっか行くぞ」
「距離変わらないからねぇ…………月の満ち欠けにしてもちょっとピンと来ないかな」
候補を潰す作業。
迷路の袋小路を潰していくように、答えをあぶり出していく。
うーむと頭を捻る面々。
と、ここで千里が切り込む。
「ひょっとして……もう見当が付いてるんじゃないか?」
一同がざわつく。
「お前の頭が良いのはみんな知ってる。だが確証が無いから他の奴の意見を聞きたかった……んじゃないのか?」
「そうね……いろいろ浮かんだけど、信頼度が高いのはひとつあるわ」
注目が集まる。
その目はまっすぐ見据えていた。
「人類が決して止められず、それが止まる事自体が星の終わりを意味する。
一度は『星が凍る』事で止まったかもだけど……それだってひとつの終末よね?」
「凍る事で終わる…………まさか」
「知ってんのか傍楽」
「ああ。スノーボールアース……惑星そのものが凍る根絶やしの終末。そしてそうしてでも止まったかも怪しい『行ったり来たり』」
「ビンゴ」
答えは示された。
「そのうねりの根本は海。そして『行ったり来たり』するものは」
提示すべき対象は。
「ーーーー波!!」
「そ。つまりは波打つ景色を撮影してこいって言ってるのよ」
目的地は決まった。
「なんだよだったらもう勝ったも同然じゃんよ!」
「待った。まだ問題はあるわ」
良襖の表情は優れない。
むしろここからが本番だ。
「『海に行く』……言うのは簡単だけどどうやって? ここは港町ってほどでもない。ましてあたしら小坊よ? 使える手は。限りがあるんじゃない?」
「あ…………」
「地図が要るな?」
ド ス ン !!
「ここにある」
「……なによ傍楽、その荷物」
「なんか派手に出かける予感がしたから」
「いや馬鹿でしょ」
「キャリーバッグ級の荷物背負って来たのかよ!? 置いてけ置いてけ!!」
「えぇ!?」
無駄すぎる荷物をかき分け地図を取り出す。
ビビリの傍楽は最上級の準備を持ってきていた。
「ここから、海までの距離は……………!」
驚愕する。
現実を知る。
「…………なんて、こった。普段、一気に何十キロもトバしてたのが、どんだけやべーか身に染みるぜ……………!!」
地図を見て思い知る。
自分がどれほど狭い世界で生きてきたか。
「15キロ……直線距離でたった15キロの距離がアホ程遠い!!」
「15キロ……ギア3の走力にござるか。普段どれだけ飛ばしていた事か……」
「ぶっ飛んだ難易度よね。それでもアホ運営に負けてなるもんですか」
頭をつきあわせる面々。
「このコースを突っ切るわけだけど。その前にやることがあるわ」
「まだあんの?」
問題は山ほど湧く。
現実は彼らを容赦なく追い詰める。
「ええ。この冒険を始めるには……面倒なオトナ三銃士を乗り越えないとだからよ!」
「邪魔なオトナ三銃士??」
バン!!
「遠方から来た監視カメラ。誌面を埋める為なら手段を問わないジャーナリスト骨川瞳!!」
『報道の自由!!』
ババン!!
「辞めているのにボランティアで来る90才。捕まったら晩までかかる影島名誉会長!!」
『わしの話は長い!!』
ズバババンッッ!!
「今日に限ってお休みの社畜。ラスボス・企業戦士鳥文華天!!」
「最後お前の母親じゃねーか!!」
「彼らをなんとかしない限り、あたし達に放課後の自由は無い。全力で乗り越えるわよ!!!」
鳥文良襖が吠え猛る。
無用の手出しをした『支援者』への怒りに燃えていた。
「で、だ。どこから手をつける?」
「そうね…………せっかくの『準備』を無駄にするのも癪だし」
ちらりと荷物の塊を見やり。
「あたしの指示通りに仕事できる?」
「おーよ」
ドッチャンコン! ドッチャンコン! ガタガタグッチャンズッッコンバッコン!!
「俺の準備を勝手に使うな!?」
「ほ……ほれ、自分の準備が十全に活躍して良かったと考えるにござる?」
「それはいいんだけどさぁ! テントが、竿竹が、ゴムボートがああ!!」
それは学校の一角での出来事。
せっかくの準備を妙な事に使われてしまった傍楽が嘆く。
良襖の指示に従い壁に張り付く千里が返す。
「ええい騒ぐなっての。……よーし完成、後はこれをどうやって伝えるかだが……」
「ああそれなら心配ござらん。それとなく伝えておいた故」
「へ?」
或葉の言葉に気がぬける。
言葉は良襖が引き継ぐ。
「いい仕事するのよ? その子も」
「ほんとにコウモリみたいなオバケが?」
「そうだぜ瞳さん! あっちにヤベーのがある!!」
「はーん。どの筋からの情報か知りませんがぱぱっと撮ってぱぱっと戻…………」
若き女ジャーナリスト、骨川瞳はつぶやいていたが。
「……………って?」
直後に言葉を失う。
「なー」
「なんにござる?」
廊下を静かに駆けながら、或葉に問う。
「思ったんだけど。お前なんでここまで協力してくれんの? チエカ大好きなのに」
「ああ、それにござるか」
なんの気もなく答える。
「簡単にござる。あの喫茶店の店主どのの言葉を借りるなら」
バアアアアアアアアアン!!
「何このすっごいかかしみたいなの!? 翼とかヤバイ迫力ぱない!! 撮る撮る!!」
「急に出てきたんだ! なにこれオバケかな!?」
「かもねー? じゃあこのかかしについてイロイロ訊かせてくれる?」
「ああ、なんか『クラスの中で急に広まった話題』なんだけど……」
「ーーーー拙者のイチバンは『楽しんでもらうこと』。笑顔が溢れていればいるほど拙者も嬉しい故」
「……ほんとに、良い奴だよオマエ」
「…………あう」
「はいそこ尊みパンチで倒れない。次は名誉会長の攻略よ!!」
四人が駆ける。
それぞれの思想をもとに、同じ目的を掲げて走る。
さっきまでいたジャーナリストはもう来ない。
昇降口から校門へ。
見据えるは、出待ちを仕掛ける髭のお爺様。
袴衣装、時代錯誤の相手が立ちふさがる。
「さあ覚悟を決めるのよ! 捕まったら晩までかかるわ。
枯れ果てても元教育者。さっき見たくチョロくは無いと知りなさい!!」
「「「おうっっ!!!」」」
君主の才の本領。
鳥文良襖。その姿は威風堂々と世に轟いていた。




