地獄の駆け引き! シルヴァvsユリカ中編!!
「良襖…………」
地獄のステージ、その観客席で邂逅する。
味方という名の仮面を付けたままの良襖が、千里を絡め取りにかかる。
「教えて欲しいんでしょ? あたし答えられるけど?」
「なんだって……?」
「書いてあるわよ。公式ページにコラムと一緒に。暗記も説明も自信あるわ。どうする?」
「…………」
沈黙。
なにかを考え込むように千里が黙り込む。
その裏で、ひそひそと。
(……良襖さん、予備のアバター持ってたんですね。Yagami123でログインしてしまうかと思ってヒヤヒヤしましたよ)
(ばーか。なんのための専用USBだっての。ま、以前ログインしそこねた経験が生きたってところね)
(なんの話? ねぇなんの話?)
マアラ、良襖、傍楽とやり取りが続くが千里には伝わらない。ついでに傍楽にも通じない。
数瞬の間。
そののち決断が返ってくる。
「……んーや、やめとくよ」
「あらまた。どうして?」
「直感だが……今ここでお前に聞いちまったら『負ける』気がする。心が折れる恐怖だ。
きっとここは、自分で気づかなきゃ駄目な場面だ」
ふーん、と楽しげに眺める良襖。
勘の良さはいっぱし。
魔の誘いに屈さぬ胆力が見て取れた。
千里が答えだす。
「……冷静になればさ……似た光景なら見たことがあるよ。文字通りの『ダメージレース』を速める為に置かれるカードを何枚か知ってる」
回想しつつも、自分の言葉で千里は導き出す。
「【デットヒート10】。これの10は『相手が走行するたびに、先に走る距離』だ。
だから重いデメリットが必要だったり、さっきからユリカさんを中々抜きされなかったりした……だろ?」
「ふふ。せーかい」
「やっぱりか」
「興味深いわよ? 経緯までくっきり公式サイトのコラムに書いてあるの」
妖しく微笑む良襖。
その下では、詩葉と遥のバトルが続いていた。
「インフェルノ・ウォルフの効果コストでハルピュイアを破壊!! ハルピュイアの破壊時の効果で一枚ドロー!!」
「……このゲームのクレーム第一位はわかりづらさなんだって。ゲーム自体の特異性もさることながら、のっけから複雑過ぎるコンボがプレイヤーの理解を阻んだ」
決戦を楽しみながら。
童女君主は己の偉業を他者のそれとして評価する。
「これでウォルフは二回行動が取れる! 二回とも走行!!」
ユリカ残り走行距離……45→35→25
「ではクレーム第ニ位は? 『レースらしくない』よ。ルール上……いいえカードゲームという体制上やむなしとはいえ。
相手のターンの間指を加えて見ているのはどうかって声が上がっていたわけよ」
「これであたしはターンエンド! あなたのターン開始時に《咎人の樹》の効果で《キルハルピュイア》が復活する!」
「オレのターン! ドロー!! 再びセンターにガードナ・ケルベロス! 並走にブラッド・インジェクター!
ケルベロスの効果で手札を一枚捨てて二体目のケルベロスを呼び出す!! 二体のケルベロスで《進路妨害》持ちのハルピュイアを撃破!」
「破壊時の効果で一枚ドロー!」
「だからデットヒートが実装された。よりレースらしく。より激しいバトルでオキャクサマの期待に応えるために」
身を抱いてうごめく。
君臨者のナルシズム。
「ドキドキしない? こんなに顧客に寄り添った運営もそう無いわ。これからどうなるか楽しみじゃない?」
「……そりゃあな」
確かに、改善していかんとする姿勢は敬意に値するが。
「でも俺は怖いよ」
それでも千里は静かに返す。
「確かにドキドキはするさ。でもそれは『危うさ』込みだと思うぜ」
「あら。危うくないカードゲームがガッツリ流行った試しある?」
「…………あ」
言われてみれば確かに……と思ってしまう。
そんな千里の心の空隙を突くように、レースは佳境に差し掛かっていた。
「ーーーーさあここからだ! センターに重なりいでよギア3《グレイブ・ゴーレム》!! そのまま疾走!!」
シルヴァフィア残り走行距離……55→40
ユリカ残り走行距離……DHにより25→15
「攻撃成功によりグレイブ・ゴーレムの効果発動! 捨て札の《バリアブル・グリップ》を再使用!
その効果により、俺の場の三枚のマシンを破壊!」
《グレイブ・ゴーレム》✝
ギア3マシン ヘルディメンション
POW 0 DEF12000 RUN15
【このマシンの行動終了時】捨て札からヘルディメンションのチューン一枚を選択して使用できる。
バリアブルグリップの効果にはこうある。『三枚破壊した場合、次のターン開始とともに大悪魔一枚を呼び出す』。
「オレはターンエンド! とともにカードを三枚ドローし……そして山札からコイツを呼び出す!!
堕ちし魔神よ我が愛機となれ! 来い!!《大悪魔サタン》!!」
咆哮が轟く。
大地を砕き、地獄の大罪を裁く王がい出る。
《大悪魔サタン》✝
ギア4 ヘル・ディメンション/マシン
POW 0 DEF 0 RUN60
【手札からの登場時】可能な限り、自分のマシンを三台疲労する。
【登場時】このマシンの走力は相手の残り走行距離分だけ減る。
【常時】このマシンのPOWとDEFは自身の走力×500になる。
そうして千里は気づく。
「あれは……俺が前に交換したカード!」
「コイツの餌はオレの逆境だ!! お前の残り走行距離は15! よってサタンのステータスは……」
サタンステータス……走力60→45!!
POW&DEF 45×500=22500!!
流石はレジェンドレア。
通常のスタッツを盛大に無視し、圧倒的な暴力を以て君臨する。
だが。
「……確かに、凄いステータス。でもそれが何? 次であたしの勝ちよ!」
「…………」
サタンに攻撃を誘導する能力は、盾になる性能はない。
現在、詩葉は無防備だ。
「このままだと、遥さんが先に走っちまう……?」
当たり前の帰結。
ターンは移された。
「あたしのターン! カードドロー! 咎人の樹の効果で再びハルピュイアを場に! そしてセンターの《ブラッド・ウォルフ》で走行!!」
ユリカ残り走行距離……15→5
王手。しかし女王は手心を加えない。
「更に手札から重なりいでよ! 血肉を喰らう暴食の王、尽きぬ川宿し道を均せ!!
来なさい、《スティージュ・ローラー》!!」
呼応しいでるは、狼を丸飲むごとき大顎。
巨大な鉄車輪を回すそれも、きっちり20の走力を有していた。
このまま走れば彼女の勝ち。
それでもシルヴァは動かない。
女君主は、冷徹に命令を下す。
「ーーーーこれで最後よ。ウイニングラン!!スティージュローラーで……」
「待った」
動きがあった。
鋼が湧き出る。
「その前にやることがある」
巨影が蠢く。
口上が高らかに読み上げられる。
「ーーーー蒼き鋼がこだまする! 黒鉄の意思が牙を剥く!! 巨影の真影、迷い無き金剛の拳に魂よりの喝采を!!」
やがて石像のような黒い塊に落ち着き。
ひび割れる。
「千里ィ!!」
詩葉が叫ぶ。
「見ておけよ。これが、お前が討つべき『敵』の姿だあああああ!
現われよ七天の一角!!《剛鬼の狩り手ルイズ》!!」
黒外殻が砕け散る。
蒼き鋼の巨人がい出る。
大車輪を駆動させる鉄巨人の半身が起き上がる。
廃ビルの群れすら超える高みへ……
ーーーーGUWAHHAHHAHHAAAAAAA!!!
機械的に、しかし豪傑らしく叫んだ、
それは。
「あの姿は…………百人斬りの……」
挑むべき敵は今、偶像を友に預けていた。
「さっきの続きだけど…………まあ、大丈夫なんじゃない?」
議論を総括するように、良襖が語る。
「象徴さえ無事なら、コンテンツはいくらでも取り返しが利く。
……彼ら『Ai−tuba』がいる限り、このゲームはやっていけるわ」
その言葉は、千里達の努力をあざ笑うようにも聞こえた。
聞いた千里は、呻くように問う。
「ずいぶん…………運営の肩を持つんだなぁ?」
「別に。心情に共感しただけよ」




