67話 切り札
「確かに美夜ちゃんの妹なら親族で、だから事情を喋れってこと?」
「駄目ですか?」
翌日、美羽ちゃんと一緒に森谷さんに対峙。
改めて説明してほしいと二人で頭を下げると、森谷さんが呆れながら呟く。
「はぁ…、美夜ちゃんのご両親を呼ぶって発想はなかったの?」
「父親は出張中。母親と小桜さんは再婚で不仲・事情も知らないので、いきなりこんな相談をされても困るだけかと」
この回答に森谷さんが無言で納得。
こちらもできる限りのことをした上で臨んでいることを察してくれたらしい。
「二人の気持ちは汲んであげたいけど、親族でも小学生に話せる内容じゃないのよね~。せめて高校生くらいじゃないと」
「おにーちゃんは高校生だよ!」
「そうね~、でも羽生くんは小桜家の家族じゃないよね~。将来的にそうなる可能性があったとしても、今はただの先輩後輩な仲でしかないわよね~?」
そう諭されてしまったが、ここまでは想定の範囲内。だけど可能性が皆無と分かっていても、それでも森谷さんにはココで折れてほしかった。この状況を打破する方法を思い付いて、その準備も万全だけど、主人公になるにはココまでしなければならないのかと嘆かずにはいられない。
読者として楽しむ分には面白いけど、いざ自分が主人公をやってみたら「二度とやるか!」と吐き捨てたくなるレベルの苦行と思い知るばかりで、今さら後には引けない状況に追い込まれてもなお他に方法があるのでは? もっとスマートなやり方があるのではという決心を鈍らせる“もしかして”が消えてくれないのだ。
そうして決心できないままでいると、無慈悲にも森谷さんが立ち去ろうとする。
「ほかに言うことがないのなら戻るけど、いい?」
親切にラストチャンスを与えてくれた森谷さんだが、それでもまだ決心できない。準備段階であれだけ恥ずかしかったのに、それでもし実行に移したら羞恥心で心臓が粉砕骨折で退院できなくなると本気で思えるほどのことをしなければならないからだ。
そうして沈黙が続いて、それでも決心ができなくて、最後には残念な者を見る目で軽蔑されながら森谷さんが病室を出ようとした所で、
「おにーちゃんは親族だよ! だっておねーちゃんと結婚してるから!」
この叫びに森谷さんがストップ。
「は?」という文字が張り付けられた様な素っ頓狂な顔で振り返ってくる。
「ちょっ、美羽ちゃん!?」
「だっておにーちゃん、いつまでも言わないから」
情けない声をあげる僕にジト目で非難する美羽ちゃん。
しかも間髪入れずに背中に隠し持っていた一枚の紙切れを森谷さんに差し出される。
●婚姻届
夫になる人 : 羽生 悠助
妻になる人 : 小桜 美夜




